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ITPミミックな鉄欠乏貧血 

Ann Hematol. 2019 Oct;98(10):2299-2302.
PMID: 31444663.

【イントロダクション】
■ IDAはmegakaryocytic-erythroid progenitorの巨核球系への分化を促進することで, 軽度の血小板増多症が生じる. これは人間とマウスでの実験で証明されている.
■ まれに鉄欠乏に関連して血小板減少症(iron deficiency–associated throm- bocytopenia ; IDAT)をきたすことがあり, このメカニズムは不明である. 
■ IDAは血小板減少症の原因と認識されず, 出血と続発性IDAを伴う免疫性血小板減少症(ITP)と誤診されやすい. IDATとITPの治療は全然違うため, これら2つの疾患を区別することが重要である. 
■ 今回ITPミミックになったIDAを多施設から後ろ向きに集積した. 

【方法】
■ IDATの確定診断は(1)血小板減少症(<10万/μL)(2)鉄欠乏性貧血(すなわち, 男性ではヘモグロビン濃度が130g/L未満, 女性では120g/L未満で, フェリチン濃度が30μg/L未満)(3)鉄療法のみによる血小板数の急速な回復, と定義した.
■ IDA診断時に既に血小板減少症があった患者や, 血小板減少症の他の明らかな原因(薬剤誘発性, 肝疾患など)がある患者は除外した.
■ 症例の組入れ基準は, 2名の著者(TH, MM)によって体系的に見直され, 検証された. 上記の基準を満たしていたが, 鉄補充療法と併用してプレドニゾンで治療された患者は除外しなかったが, 別途分析し, IDATの「可能性のある」症例としてのみ考慮した.

【結果】
■ 20人の患者のデータが検討され, そのうち10人はIDATの診断基準を満たし, 7人はIDATの「可能性がある」診断を受けた. 2人は断続的な血小板減少症の既往歴があったため除外され, 1人は追跡不能であった. 

■ IDATの10症例のベースのキャラクター. 

▫️ 女性が9例(90%)で, IDAT診断時の年齢中央値は43.5歳[範囲:16~72歳]
▫️血小板数中央値は3.05[範囲:2.1~8.0]万/μLであった.
▫️平均血小板容積(MPV)の中央値は8.2[7.6~8.7]fLであった.
▫️Hb中央値は4.7[範囲:2.1~7.1]g/dLで, 平均赤血球容積(MCV)中央値は64[54~75]fLであった.
▫️鉄欠乏は重度で, フェリチン濃度中央値は6[2~10]μg/Lであった.
▫️IDAの基礎疾患は, 過多月経(n=7), そのうち1例はconsumption of clay?(異食症?)と関連していた.   他にセリアック病(n=1), 消化管からの潜出血(n=1), consumption of clay(n=1)であった.

■ 9例に鉄剤静脈投与が行われ, 1例に経口補充が行われた.  
  7例(70%)に重度の貧血のため輸血が行われた.

■ IDAの基礎疾患以外に, 1例で鼻出血の単一エピソードがあったが, 他の患者では皮膚または粘膜の紫斑は認めず.  

■ 全例で血小板の急速な増加がみられ, 中央値6日[4~39日]で回復した(血小板数≧15万/μL).  鉄療法または赤血球輸血開始後7日目の血小板数中央値は33.7[11.3~100.0]万/μLであった.

■ 対照として無作為に選択したITP患者30例(女性27例, 男性3例, 年齢中央値42.5[17~74]歳)のデータを解析した.

▫️診断時の血小板数は, ITP群で有意に低く, 中央値は0.7[0.4~5.9]万/μLで, 「症例」の3.05万/μLに対し(p<0.001), MPVは対照群で高かった(10.5fL[9.4~13.8]vs.8.2fL, p<0.001).
▫️発症時の臨床的出血症状は, 対照群の25例(83.3%)に認められたのに対し, 症例では1例(10%)のみであった(p<0.001).
▫️ITP対照群のHb中央値は12.9g/dL[7.4~14.4], MCVは88fL[範囲:55-96fL]であった.
▫️ステロイド療法±静注免疫グロブリン療法後, 血小板数は対照群の16/30例(53.3%)でのみ正常化し, 正常化までの期間中央値は21日[7~30]で, 症例の6日に対し有意に長かった(p=0.009).
▫️7日目の血小板数中央値は, 対照群で7.2[1.3~21.2]万/μL, 症例で33.7[11.3~100.0]万/μLであった(p<0.001). 反復測定が可能であった2例では, 反応性血小板増多症が観察された.

■ 「可能性のある」IDATの診断を受けた7例の患者では, Hb中央値は4.7[3.5~7.6]g/dL, MCV中央値は61[50~81]fL, 血小板数中央値は2.6[0.9~4.5]万/μLであった.
▫️1例のみ軽度の鼻出血があり, 他の症例では出血はなかった.
▫️6/7例(85.7%)で血小板数が正常化し, 正常化までの期間中央値は6.5日[5~12]であった.

【考察】
本研究では鉄補充療法+コルチコステロイドを投与された「ITPの可能性のある」7人のIDAは主要解析から除外した. これら7人を別途解析したところ, その特徴は「確定例」に非常によく似たデータであった.

■ この知見は, 臨床現場では多くのIDAT患者が実際には誤診され, その後の出血と続発性IDAを伴うITPとして治療されていることを示唆している.

■ Vermaらは, IDAT患者10例と血小板減少症を伴わないIDA25例を比較した.

Ann Hematol 94(3):535–537

▫️本研究でも見られたように, 血小板減少症はヘモグロビンとMCVレベルがより低いことから, より深刻な鉄欠乏症に関連しているようであった.
▫️この研究でも鉄補充で速やかに改善している.

■ さらに本研究で見られたように, IDATでは新規診断のITPと比較して血小板数の減少は大人しかった. MPVのレベルがIDATの場合有意に低かったことは, 末梢血中の「若い」網状血小板の割合がこの状況では低い可能性を示唆している. このことから骨髄ニッチ内の重度の鉄欠乏症が巨核球造血にも悪い影響を及ぼす可能性があると推測できる. ただし, 骨髄吸引液の分析は両病態の鑑別に有用ではなかった.

■ IDATとITPの大きな違いの1つは, 血小板の回復までの時間である.
▫️IDATの場合は有意に短く, 一過性の血小板増多症を起こした患者もいる.
▫️この現象は, コルチコステロイド±IV.Igで初回CRが得られた新規診断のITPでは, トロンボポエチン受容体作動薬で同時に治療されない限り観察されない.
▫️これらのデータは, IDATでは巨核球からの血小板放出の基礎的な減少があり, 鉄療法で速やかに是正できることを示唆している.


本研究の限界は, 主に後ろ向き研究デザインと比較的少ない患者数によるものである. この少ない症例数は, この状況の稀少性を反映していると思われるが, 「可能性のある症例」7例の分析から示唆されるように, 臨床現場では過小診断されている可能性が高い.


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