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臨床推論 Case176

AIM Clinical Cases. 2024;3:e230177.

【症例】
66歳 女性

【主訴】
呼吸苦

【現病歴】
■ 9ヶ月前から徐々に増悪する労作時呼吸困難を主訴に外来受診された. 家事をする際に息切れのため何度も休憩が必要になり, 短距離歩行後も難しくなった.
■ 下肢浮腫, 起座呼吸, 発作性夜間呼吸困難, 胸痛, 動悸, めまい, ふらつきなどの随伴症状はなし. 喫煙歴なし.

【既往/治療歴】
てんかん
甲状腺癌:甲状腺全摘術と放射線治療後
高血圧
脂質異常症

【経過】
■ 経胸壁心エコー:左室駆出率60-65%と正常で, 9年前のTTEと比較して有意な異常や変化は認めなかった.
■ 肺機能検査は正常.
■ 胸部CTは以下の通り

■ 造影MRIは以下の通り

What’s your diagnosis ?





【診断】
脂肪腫による上大静脈圧迫

【経過】
■ CTで上大静脈下部から心房中隔に3.1×2.3×3.0cmの境界明瞭な脂肪腫を認めた. その他, 呼吸困難の原因となるような心肺疾患は指摘されなかった.

■ 造影心臓MRIおよびMRAを行った. 結果, 上行大動脈外側壁と上大静脈内側壁の間に2.8cm×1.5cmの脂肪信号を呈する扁平状の腫瘤(脂肪腫)を認め, 脂肪腫による外的圧迫により上大静脈内腔径が著明に狭小化していた.

■ また脂肪腫より頭側の上大静脈最大流速は74cm/秒, 尾側では124cm/秒であった. MRAでは上大静脈の狭窄と, 脂肪腫による圧迫部位での血流低下が認められ, 圧迫部位で造影剤の急激な狭小化として描出された.

■ 外来で運動負荷試験を行ったところ, 開始45秒以内に呼吸困難が出現した. さらに運動直後に収縮期血圧が平均20mmHg, 拡張期血圧が平均12mmHg低下した. これらの結果から脂肪腫が上大静脈閉塞を引き起こし, その結果前負荷に影響を与えている可能性が示唆された.

■ 手術で摘出した. 術後は接合部調律と容量負荷のため心不全をきたした.

■ 利尿薬を調整し退院となった. 術後の接合部調律は自然に洞調律に復帰した.

【考察】
■ 脂肪腫によって前負荷が低下し, その結果進行性の労作時呼吸困難を呈したと考えられた. 脂肪腫の摘出により, 術後は部分的に改善していた.

■ 外的圧迫の除去により術後急速な前方流量の改善を認め, それが心肺うっ血を引き起こし術後の容量過負荷に至った可能性がある.

■ 利尿薬により経過は改善し, 最終的に心臓が"正常な"心室充満圧に適応するにつれて利尿薬を中止できるかどうかはフォローで経過を見ていきたいところ.

■ 脂肪腫は洞結節の近傍に位置していたと考えられる. この部位の操作と脂肪腫の摘出により, 接合部調律を生じたが自然に改善した.

■ 現在のところ, 外科的切除とリハビリテーションによって, 運動耐容能は術前の25フィートから術後約1000フィートに改善している.

■ 今後の容量管理とリハビリテーションにより, 最終的に年齢相応の運動能力が回復することを願っている.

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