暑がりな男と寒がりな女2
都会育ちの男と田舎育ちの女
とにかく単純で思い立ったら今すぐしないと気がすまない夫は、テレビなどを見て影響を受けると、自分でも始めてみたくて我慢ができなくなります。釣り、登山、自転車……。ほとんどが道具を揃えた時点で満足し、やる気の炎は消えてしまいます。ですが、夫の欲求に終わりはありません。続いてやってきたのが、キャンプでした。
夫が見ていたのは、「ひとりキャンプ」の動画ですが、周りがうんざりするほどのさびしがり屋なので、一人でキャンプなんて絶対的に無理。ですが生まれつき悪知恵が働き、おまけに口達者なので、子どもたちをいいように丸めこんで、「3人でキャンプに行ってくる!」と言い出したのです。
でも今から思うとこれも夫の作戦で、心配性の私なら、「子どもたちを自分一人に託すことはしないだろう」というよみだったのかもしれません。
まんまと夫の口車にのせられて、家族4人で出発することになりました。車で2時間ほどで到着。人気のキャンプ場のようで、思っていたよりもかなりきれいです。設備もしっかり整っていて、「これなら庭でバーベキューとそんなに変わらないかも?」と安心したのもつかの間、突然、夫が、
「着火剤を忘れた!」と言って、オロオロし始めました。
「別に着火剤なんかなくても大丈夫だよ。私たちが小さいころは、着火剤なんてなかったでしょ」と私。
その言葉に安心したのか、夫は車の中から包装紙や袋、新聞紙を見つけてきて、くしゃくしゃにまるめて、チャッカマンで火をつけはじめました。けれど、それらは瞬く間に燃えつきてしまって、炭に火がつく前に消えてしまいました。それを何度も繰り返すうちに、包装紙も新聞紙もなくなって、ついには財布の中からレシートまで取りだして、それに火をつけるのだけど、小さすぎて、「熱っ!」と。あっという間に火は消えてしまい、都会育ちの夫は、すっかりあきらめモードに入ってしまいました。
「今日は、もう無理だ!」と言い出したのです。
「そんなぁ……野菜もお肉もこんなに買ったのに」と言うと、夫は何も言わず、帰る準備をし始めました。
そこからが私の出番。私は、岐阜県の小さな田舎の村で育ちました。今から思うと、当時は毎日がアウトドア?のような、とてもたくましい暮らしだったように思います。少し離れた場所でふてくされている夫に、
「この段ボール箱、いらないでしょ?」と確かめてから、それを適当なサイズにちぎり、子どもたちと枯れ葉や枯れ枝を拾い集めました。
空気がちゃんと入るようにすき間をつくりながら、それら重ねいれて、破った段ボールに火をつけるとまもなくして、煌々と炎をたてて燃えはじめたのです。
ばつが悪そうに、私からの視線から目をそらす夫に、追いうちをかけるように、
「ほんとに都会育ちは生きる術を知らないんだから!」と言うと、
「燃やすと有毒ガスを出す枝だってあるんだぞ!」と夫。
「こんなところ(人工的に作られたキャンプ場)に、そんな木が生えていたら、みんなとっくに死んでるわよ」と私。
そのとき、わかったことがあります。夫は都会育ちだからアウトドアに興味をもったんだって。田舎育ちの私は、普段の生活がアウトドアのようなものだったから、アウトドアなんてものにはまったく興味がありません。異常に張りきる夫の姿を見て、なんでわざわざ、こんなとこまできて、こんなことをして、それが楽しいと思えるのか……、不思議で不思議でなりませんでした。(つづく)
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