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不本意な暴力性

去年の5月にドイツに行くことになったのがきっかけで始めたこのnote、結局記事が2本にとどまってしまい、ドイツでの滞在のことは全く書けませんでした。今日こそ書こうと常に頭の中にはありましたが、ドイツにいる間は「今」を思う存分に楽しみたくて、立ち止まって振り返る時間がないほど動き続けていました。

ドイツを拠点にしながらフィルドワークでタンザニア、Kunstenfestivaldesartsの観劇のためにベルギー、友達に会いにいくためにポーランドとスイス、ヴェネツアビエンナーレを見にイタリアを旅しました。そして、案の定、8月末には日本に帰ることができず、ドイツのあとは予定していなかったイギリスと香港の実家に3週間程度ずつ滞在して、ひとまず短期のビジネスビザで日本に帰国し、帰ってきてから改めて中長期のビザを申請することになり、イベント参加のためにたまたま訪れていたタイでアーティストビザを取得しました。東京では制作や展示の傍らしばらく本屋のバイトを続けましたが、年末頃に京都に引っ越してしまおうと一念発起し、年始に内覧をし始めてようやく3月上旬に今の家に入居し住み始めて、目まぐるしい移動と変化に満ちた一年になりました。

今日は、前から書きたかったことを少しだけ。本当はどうでもいい話なんですが……私のインスタのアカウントのユーザー名である「joyceshoots」についてです。「インスタを教えて」と聞かれるときに音を出して読むと、いつもほんの少し恥ずかしくなる。

大学生だった頃、旅行が好きな人はユーザー名を「名前〜travels」としたり、食べものの写真をたくさん載せるアカウントは「名前〜eats」というユーザー名にするのが流行っていました。私も旅行は好きでしたが、フィルムカメラで撮った写真だけを載せるアカウントを作りたい気持ちもあって、何をするのが一番好きなのかを考えたときに「写真や映像を撮る」だったので、すんなりと「joyceshoots」に決めました。

このアカウントを使い始めて現在8年ほど経っています。どのタイミングだったか明確に覚えていませんが、「shoots」という言葉には「銃を撃つ・射る」という意味も含まれていることにふと気づいたときに、少し落ち込んだりもして、ユーザー名を変えたいと思いました。写真を撮る、映像を撮ることが帯びる暴力性を考えると「shoots」は相応しい表現ではあるとも思いますが、ここでは、最近ふと思い出した、好きな作家のOcean Vuong(オーシャン・ヴオン)の言葉を紹介したいと思います。

ベトナム出身、アメリカを拠点に詩人・小説家として活動しているOcean。幼少時に母や祖母とともにアメリカに移住した彼はあるポッドキャストに出演したときの自己紹介で「I am a product of war(=僕は戦争の産物だ)」と話していました。Oceanの祖母はベトナム戦争中、軍人としてベトナムに来たアメリカ人の祖父に出会い、そのあと、Oceanのお母さんが生まれたからです。つまり、その戦争がなかったら、Oceanの祖父はベトナムに行くことはなく、Oceanのお母さんも生まれることはなく、つまりOceanも生まれることはなくなります。

※(Oceanの声、彼の使う言葉がとても好きで、出演されていた「On Being」というプロジェクト/ポッドキャストも本当に素晴らしいので、もしよければどうぞ。英語の番組ですが、インタビュー全文も掲載されているので、英語の勉強にも役に立つかと思います。)

彼が存在している事実は戦争があったからだと、Oceanはゆったりした慎重な口調で話していきました。それから、英語でよく使われる「You’re killing it(=最高!すごくよかった!)」「You owned it(=堂々としている)」「Drop dead gorgeous(=驚くほど見事な、とても魅力的な)」などのスラングも、アメリカ英語におけるレキシコン(語彙)の暴力性について指摘していきました。アメリカの教育制度を受けた彼もこれらの言葉は使うことはありますが、これを受容する文化は一体どのようなものなのか、という疑問を視聴者に投げかけます。私たちは、いつしか征服と死のレキシコンでしか自分たちの存在を祝うことができなくなったのか。

What is it about a culture that can only value itself through the lexicon of death? What happens to our imagination when we can only celebrate ourselves through our very vanquishing?

Ocean Vuong ー A Life Worthy of Our Breath|On Being with Krista Tippett

深く考えず、全く別の意味でつけてしまった「joyceshoots」というユーザー名。気づかないうちに自分も暴力性を帯びた言葉を使ってしまいました。日常生活で発した言葉も、不本意で誰かを傷付けてしまうことも実際にたくさん起きているだろう。ユーザー名を変えようと実は何回も考えていましたが、毎日の戒めとして、このことを常に念頭に置いて丁寧に言葉を選んでいきたい、と最近思うようになりました。そして言葉を使う練習のために、手書きの日記もnoteも、もう少し定期的に書いていきたいと思います。

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