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SUMMER TRIP

朝の光が、カーテンの隙間からキラキラと降り注いでいく。

心地良い夢を見ていたような気がする。

まだ寝ていたい。


でも、起きる時間だ。

今日から学校だ。

新学期が始まる。


長い長い夏休みが昨日で終わり、今日から2学期。

日に焼けた足や腕を見て、楽しかった夏休みを思い出す。

もう少しだけ続いて欲しかったな。

でも、りっちゃんやまやちゃん、だいきくんたちと、お土産を交換するって約束をしたから、今日はやっぱり学校に行くのが楽しみだ。


「おはようございます」

キッチンに立つお母さんに朝のご挨拶。

「みあちゃん、おはようございます。」

私の目をまっすぐ見ながら挨拶をしてくれる。

「今日から学校ね。お友達と夏休みの出来事を話すの楽しみね。」

と、優しい声で言った。

みあは嬉しくなって「うん!りっちゃん達に海に行ったお話するの楽しみ!」とぴょんぴょん跳びはねながら言った。


「じゃあ、朝ご飯食べて学校行きましょう」

と、トーストが乗ったお皿を食卓に用意してくれた。


「おはようございます!!!」

教室に入るなり、元気よくみあは挨拶をした。

みあも待ちきれなくて早めに教室に着いたはずなのに、りっちゃんやまやちゃん、だいきくんたちはもう教室にいて、楽しそうにおしゃべりをしている。

ランドセルを机に置いて、輪の中に入る。

「みあちゃん、おはよう」とストレートヘアをさらさらと触りながら、りっちゃんがこっちを見た。

「おはよう」とまやちゃんが、ツインテールにした髪の毛を揺らしながら、みあの目を見た。

「なんか、肌黒くなった!?」とおどけながら、茶化すのはだいきくん。

「みんなおはよう!!!」と、みあが弾んだ声で挨拶をする。

「だいきくんひどーい。だいきくんだって真っ黒じゃない。みあは、海に行ったからしかたないんですー」ベーット舌を出して反論する。

その顔が面白かったのか、笑いの渦が止まらなくなった。

ひとしきり笑ってから「夏休みのお土産交換しようぜ!」とだいきくんが待ちわびたように言った。

「俺は、山にキャンプに行ってきたんだ!クワガタを父ちゃんと捕ったんだぜ。さすがにクワガタをお土産にするわけにはいかなったから、はいこれ写真」と、一人一人に写真を手渡した。

「わー。おっきいクワガタ!」と、みあが写真をのぞき込んだそのとき……

ふわりと風が吹いた。


気づいたら山の中だった。

ひんやりした冷たい風が吹き、教室の机や椅子やロッカーや黒板があったはずの場所にはうっそうとした木が茂っていた。

怖くなって隣を見ると、右隣にはりっちゃん。左隣にはまやちゃん。正面にはだいきくんがいた。

思わず両隣のりっちゃんとまやちゃんの手を握りしめた。

二人はなんともないように、手を握り返してくれた。

暖かいぬくもりに安心した。

だいきくんが話し出す。

「このクワガタ捕まえるの大変だったんだぜ。夜中に、父ちゃんとクヌギやカエデやブナが生えてる山に入って、罠を作って待ち構えてたんだ。」

うっそうとした山の中の木々の間から、ライトを持った大人の男の人が男の子と手を繋いで出てきた。そして、手近な木にクワガタ用の罠を仕掛け始める。

「あれは、だいきくんとお父さん?」

慌てて回りを見回しても、みあにしか見えていないような感じがした。

誰一人、顔色一つ変えない。

「それから、朝になるまでずっーと待ってだけど、来るのはカブトムシばっかりだったんだ。俺、つまんなくなっちゃって気づいたら寝ちゃんだよね。」

木にもたれただいきくんが、お父さんの上着をお腹にかけてもらっているのが見える。

「それで、どうしたの?」とちょっとハラハラした声音のまやちゃんが先を急かす。

「太陽が昇りかけたときに、父ちゃんに起こされたんだ。だいき!起きろ!って」

「もしかして、、、採れたの!?」と興奮したようにりっちゃんがほっぺを赤くしながら問う。

「そうなんだよ!父ちゃんの視線の先には、その写真のクワガタがいて、俺思わず大きい声を出してやったー!って叫んじゃった。」

私の目の前で、だいきくんは嬉しそうに捕まえたクワガタを天に掲げてガッツポーズしている。そんなだいきくんを、まぶしそうに目を細めながら見ているお父さんの姿も見える。

「よかったね!立派なクワガタじゃん」と、みあまで嬉しくなって感想を伝えた。

だいきくんは「俺のお土産かっこいいだろう!」とニカッと白い歯を見せて笑った。

その瞬間またふわっと風が吹いた。

気づいたら、山の中にいたはずが、元通りの教室に居た。

「なんで……?山の中に居たはずが、教室に……?」

不思議がっている間もなく、

「次は私ね!!!」とりっちゃんがしゃべり出した。


りっちゃんのストレートヘアが、ふるふると揺らしながら、恥ずかしげに語った。

「私はおばあちゃんの家に行ったの。おばあちゃんの家は、ここからうんと遠くて電車や車をたくさん乗り継いで行くのよ。」

またふわっと風が吹いた。

みあの目の前に、車に乗ったりっちゃんの姿や、電車でお弁当を食べながらりっちゃんのお母さんと楽しそうに話しているりっちゃんの姿が見える。

不思議に思って周りを見回してみても、誰も見えていないようだ。

りっちゃんは続ける。

「おばあちゃんの家にはね、従兄弟のかおるくんって3っ年上の男の子がいたの。かおるくんはとってもかっこよくて、思わず挨拶をするのを忘れてボーッとしちゃった」とはにかみながら、かおるくんのことを語るりっちゃんは、恋した表情になっている。

ふいにみあの目の前に、端正な顔立ちをした、吸い込まれそうな瞳をした男の子が現れた。この人がかおるくんなんだとわかった。

すごく綺麗な顔立ちなのに、肩につきそうな後ろ髪が少し悪ぶって見えて、目が離せなくなる。

まやちゃんがからかうように「かおるくんのこと好きになっちゃたんだね!」と言った。

顔を真っ赤にしながらりっちゃんが続ける。

「す、好きというか何というか…かっこいいことは確かだけど」

「りっちゃんかわいー」すかさずだいきくんが茶化す。

「もう!!!そんなんじゃないの。」

「それで続きを教えてよ。」待ちきれなくて、みあが言った。

「それでかおるくんと、近所のひまわり畑にひまわりを見に行ったの。とても綺麗だったのよ。ひまわりの花が天を向いてて、見てる私まで元気をもらったわ。」

一面のひまわり畑。右を向いても左を向いてもひまわりしかない。そんな中、りっちゃんとかおるくんが手を繋ぎながら、熱心にひまわりを見ている。それをただ見ているだけだったみあまで、頬が熱くなるのを感じた。

「それからどうなったの?」とまやちゃん。

「次の日かおるくんは帰って行っちゃったの。だからそれだけよ。」

「えーつまんないの」とだいきくん。

「いいの!良い思い出なんだから。というわけで、私からのお土産は、ひまわりの押し花です」と、しおりになった黄色いひまわりを一人一人手渡す。

しおりを受け取ると、また風が吹いた。

「あたしはねぇ、花火を見に行ったの。お母さんと。」とまやちゃんは楽しそうに語り出した。

まやちゃんのお母さんは普段お仕事で別々に住んでいる。

たまに帰ってくると、まやちゃんは楽しそうにお母さんと買い物に行っただとか、たこ焼きを食べたとか報告してくれる。そんなまやちゃんの話を聞くのが好きだった。

目の前に、どの浴衣が良いか悩みながら、話しているまやちゃんと、まやちゃんと目元が似ている綺麗な女の人が出てきた。

「お母さん、どっちの浴衣が良いかな?赤?青?どっちも綺麗だね」

「まやちゃんには、青の浴衣が似合うと思うよ。」軽く浴衣を体に合わせながらお母さんが答える。

まやちゃんが口を開く「お母さんが似合うって言ってくれた、青い浴衣を着て、花火を見に行ったんだ。」

「まやの浴衣みてみたい」と、ちょっと頬を赤くしただいきくんがぶっきらぼうに言う。

「そのうちね」とまやちゃんが軽くあしらう。

「それでね、河川敷にレジャーシート引いて花火が始まる前、二人でかき氷食べたりして待ってたの。そのうちドーンって大きい音がして花火が始まったんだよ。」

みあの目にレジャーシートに親子仲良く並んで、花火を見ている姿が映った。花火はそれはそれは綺麗で目が離せなかった。

「あたしからのお土産は、じゃじゃん!この花火です。」と両手に掲げたスーパーで売っている花火の袋を掲げ持った。

「それどうするの?」とみあ。

「今夜みんなで花火しよ!大人ならお母さんがいるから大丈夫だよ!」

ふわっと風がふいたのと同時に、また元の教室に戻ってきた。

*

「最後はみあだよ」とりっちゃんが私をせっついて言う。

繋いでいた手はいつの間にか離れていた。

「みあのお土産は星の砂」と、キラキラした砂を詰めた小瓶を手渡していく。

その瞬間、ザパーンと波の音がした。

みんなで、みあが夏休みに遊んだ海にいた。

みんな水着を着ていて、視線をキョロキョロさせていた。

「ここはみあが、家族で遊んだ海だよ。ここの砂を小瓶に詰めて持って帰ってきたんだ。」と興奮しながらみあは言った。

「なんで海にいるんだろう?」とりっちゃん。

「不思議ー」とまやちゃん。

今度は私だけじゃなくて、みんなにも見えていてほっとした。

だいきくんが「そんなことどうでもいいよ、遊ぼうぜ!」と海に飛び込んだ。

それからどのくらい時間が経ったのか、みんなが遊び疲れて砂浜に横になっていたら、ふいにチャイムの音が聞こえてきた。

気がついたら、いつもの教室のさっきまで喋っていた位置に立っていた。

みんなも不思議な顔をしていた。

手にはお土産の星の砂を握りしめていた。

よくわからないけど、夏休みの楽しい思い出を大好きなお友達と共有できたことが嬉しかった。

まやちゃんが、声を小さく笑い出した。つられてみんな笑い出した。

担任の先生が怪訝そうな顔をして「席に着けー」と言っている。

キラキラと窓から差し込む光が降り注いでいる。

2学期が始まったのだ。

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