OA機器・オブ・ザ・デッド

「おい!加藤の奴はコピーにいったい何十分かかっているんだ!」

関根課長の怒号が響く。キャンキャンと煩い男だ。オフィスの面々は俯いたままただ怒りが過ぎるのを待っていた。ちらりと時計を見ると、針は午後10時を回ったところだ。TC企画の総務部の残業は、残念ながらまだ始まったばかりというところだ。

「ア、ワタシミテキマス、タオレテタラタイヘン」

派遣社員のアベディンがおずおずと声を上げる。よせばいいのに、課長の怒りを買うぞ?と思っていたが課長はあっさりとそれを認めた。

「全くどいつもこいつも仕事を何だと思ってるんだ」

課長は文句を言いながら色あせたPCに目を向けなおした。わが社のOSは未だにXPだ。オフィスのあちこちに目をやれば、いたるところに前時代的なPCやコピー機が現役で使用されている。ここは時代に取り残された孤島だ。

ガチャン ピー

コピー機が動き出した。

ガチャン ガチャン ガチャン ピー ピー ピー

オフィス中の全てのコピー機が、だ。

「あ?なんだ?」

異音に課長が反応する。デスクワーク中の他の社員達もきょろきょろとあたりを見回した。突如すべてのコピー機とプリンタが一斉に印刷を始めたのだ。

「おい、誰だ?印刷したのは!こんな時故障とか冗談じゃないぞ」

一心不乱に紙を吐き出し続けるプリンタに、俺は寒気を覚えた。

「なんなんだこの紙は……」

印刷された用紙を手に取った関根課長の顔が凍り付いた。俺は好奇心から近くのプリンタを覗いてみた。

そこには恐怖に歪む加藤の顔がA4の紙面いっぱいに印刷されていた。

「は……?なんだこれ……?」

その時、バタバタと足音を立ててアベディンがオフィスに戻ってきた。

「タ、タスケテ!課長サン!加藤サン……加藤サンガ……!」

アベディンの顔面からは血の気が失せ、服のあちこちに何か赤いものが付いていた。

「加藤サンコピー機ニタベラレタ!!」

こうして、長い長い会社での一夜が始まろうとしていた。


【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?