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ラジオにハマっていた中2の俺が初恋をした話

皆さんの初恋はいつ、相手は誰だっただろうか。

幼稚園や保育園の先生?
カッコイイ・カワイイ先輩?


俺が初恋だったのかな?と思っていた初恋は正直初恋だったのかよく分からない。
子供の頃の恋なんてなんとなくだし、むしろそんな感情まだ芽生えてなかったようにも思える。

記憶にあるのは小学校低学年の時。
当時は同級生の誰もが「好きな人」という本当かどうかよく分からない存在がいて、それを女子達がキャーキャー言いながら噂し合ったり、親友同士はお互いのその存在を把握し合い、秘密の共有を友人の証しのようにしていた気がする。

俺の「好きな人」は同じクラスだった床屋の娘さん。
その理由も大したことなく、なんとなく女の子っぽかったから。
そしてそんな子供の感情は気まぐれだしあってないようなもの。
ある日体育の授業で50m走が行われ、2人1組で走るのだが、その床屋の娘の走り方の妙なぶりっ子加減を目撃して、これまたよく分からないけど俺はドン引きし、一気に「好きな人」から降格した。
その独特の、オカマの芝居をするときに採用されそうな走り方は何故なのか今でもよく憶えている。

高学年になっても男子も女子も特に関係なく気を使うことなく遊んだりしていた俺は、女子を異性として意識するようなことも無かった。
まだ性にもほとんど目覚めていない少年の俺は、同級生の女子を特別な目で見るとは無かった。


そんな恋など無縁の少年だった俺はやがて中学2年生に。

一丁前に思春期の入り口に立ち、小学生の時のように気軽に女子に話しかけることも難しくなり、性の目覚めもあるような無いような(それでも遅い方だと思うが)、悶々とした日々を過ごすどこにでもいる厨二、いや、中2男子だった。



夏休みも終わり2学期のスタート。
あんなに行きたくなかった学校も、長期の休みを挟むと、ヒマも相まってちょっと行ってみてもいいかな?と思い始めるのが不思議だ。
結局1日、2日でまた感覚は戻るのだが。


学期始めといえば、よくあるのが転校生の登場である。
ウチのクラスに1人の女子がやって来た。

ちょっと小柄でパッチリと丸い眼。
少し焼けた肌が健康的な印象だった。
最初の挨拶から明るい子であることが分かるハキハキとした喋り方。

名前はYちゃん。
隣町の中学校から転校してきたらしい。


Yちゃんは持ち前の明るさですぐにクラスに溶け込んだ。
クラスの少しギャルっぽい活発な子が多いグループに入り、誰よりもよく喋り、誰よりも大きな声で笑った。
女子にも男子にも分け隔てなく接する子で、これは主観だけど、元々男女の交流がどちらかというと薄かったクラスの雰囲気を少しYちゃんが変えたようにも思えた。


Yちゃんは陸上部に入った。
陸上部は男女共に人数が少なく、俺の所属していたソフトテニス部(軟式ってやつね)のコートのすぐ近くでよく練習していた。

Yちゃんはいつもは肩に届かないくらいの髪の毛を無造作に下ろしているのだが、
部活の時はその髪の毛を束ねたり、短いツインテールにしたりしていた。

女子の髪型の変化など気にも止めたことのなかった俺はYちゃんのちょっとした変化にもすぐ気付くようになっていた。


そう、いつの間にか俺はYちゃんを目で追うようになっていたのだ。


いつだったかクラスで話すYちゃんの話が耳に入ってきたことがある。
内容は、前の学校で付き合っていた人の話。

ちょっとウブだったウチのクラスにとってかなり刺激的な話。
Yちゃんを囲んだ女子はその話に興味津々に聞き入っている。
そういう話を大っぴらに話すようなクラスではなったので、そのYちゃんが当たり前のように語る姿が新鮮で、我々より進んだイケてる学校から来た女子の印象だった。
Yちゃんが少し気になり出していた俺にとってもなかなか複雑な話だ。



ある日の放課後。確か部活帰り。
いつもの通学路を歩き帰宅していると、後ろから話しかけてくる声がした。

Yちゃんである。
少ししか言葉を交わしたことのない俺に気さくに話しかけてくるYちゃん。
そんなところも外から来た新人種のようにも思えた。

何度も言うが一丁前に思春期を迎え、その歳特有の人の目を気にし出したキモい自意識がフツフツと渦巻き、女子と話すのも難しくなってきていた俺。
いきなり現れたYちゃんと喋る準備もできておらず、きっとキョドッていたに違いない。
そんな俺にも変わらず明るく話してくれたYちゃん。

実は家が同じ方向だったことをそこで知った。それからというもの、部活帰りはほぼ同じ時間に帰宅、部活がない日もタイミングが同じなら帰りはどこかでYちゃんと一緒になったのだ。


「一緒に帰ろう」などという約束は当然することはなく、むしろウブクラスだった我々の中では学校から男女が2人で一緒に帰るなど大事件で、そんな風に思われたくない俺はちょっと帰るタイミングを見計らい、周りにほぼ誰もいない、いい具合の地点でYちゃんと偶然(を装って)合流するような時間とスピードを計算し下校していたような記憶が薄っすらある。
こう書いてみるとやってることちょっとキモいな。

まぁ今思えば、きっとYちゃんは誰とどこから帰ろうがそんなこと気にするような子ではなかったと思うけど。



Yちゃんと何度か一緒に帰るうちに話すのも慣れてきた俺。
クラスの他の女子にはここまで心開けないくらいのレベルまでは仲良くなっていた。
他愛の無い話をするうちに、なんと共通の趣味があることが発覚する。


ラジオである。


当時やっと自分1人の部屋がもらえた俺は嬉しくてよく部屋に籠り、
どこからか手に入れたラジオ付きテープラジカセを使い、番組で紹介される音楽をテープに録音するのにハマり、途中でパーソナリティーの声がどうしても入ってしまうオリジナルテープアルバムを作ったりしていた。
その時録音していた年代も国もバラバラの曲を今もどこかで偶然聴いたりすると、すごく懐かしい気持ちになる。


ラジオの話をしているうちに、Yちゃんと俺が聴いていた番組が一致した。

当時FMで放送していた「ミリオンナイツ」という赤坂泰彦さんがDJを務める番組だった。懐かしい〜。


毎日聴いていた記憶があるのだが、今調べると月曜〜木曜の放送だったらしく、
赤坂さんがリスナーの投稿メッセージにコメントしたり、リクエストされた曲をかけるといった内容。
俺はそのミリオンナイツでかけられる曲も、タイトルコールが始まると急いでラジカセの録音ボタンを押して楽しんでいた。

Yちゃんと意気投合したのが、そのミリオンナイツの中で後半に紹介される、リスナーが電話して吹き込んだメッセージを赤坂さんがいくつか紹介するというコーナーの話だった。
前の放送で赤坂さんが発表したテーマに沿ってリスナーが吹き込んだメッセージを赤坂さんが何件か紹介するのだが、
それが面白いものもあるのだが、中には???な何故選ばれたのかよく分からないネタもあり、基準が不明だという話で盛り上がったのだ。

そんな話をしているとYちゃんが提案した。

「メッセージ送ってみようよ!!」


今までただのリスナーの1人として聴いていた赤坂さんのミリオンナイツ。
メッセージを自分も送ってみようなどと少しも考えたことも無かったのだが、そのYちゃんの発案に即賛成した。

ラジオに自分の声が流れるなんてめちゃくちゃ興奮するし、
何よりYちゃんとの共通の遊び・・・・!
やらない訳にはいかない。

なんとしても赤坂さんに採用され、Yちゃんに尊敬されたい。
気合いの入った俺は夜な夜な家族の目を盗み、コードレス電話の子機を部屋に持ち込み、ミリオンナイツにネタを投稿した。


どんなことを吹き込んだのかは少しも憶えていないのだが、熟考した精鋭のネタを投稿しまくった。

しかしそう簡単に採用されるわけがない。
全国から多数のメッセージが投稿されていたはずなので当然である。

これは余談なのだが、
当時はラジオ局のコーナー専用の電話にかけると、普通の通話料とは別にプラスの通話料がかかっていたらしく、でもこれならまだマシで、その当時よくエロ本の広告にのっていた「ダイヤルQ2」なんて、
かけると勝手に国際電話にかかるというカラクリですごい額の請求が来て親にめちゃくちゃ怒られた中高生が続出した。
同じことやった奴、いるんじゃないかな??



なかなか採用されないね、と悔しそうに話すYちゃん。

ちなみにどんなネタを吹き込んでいるのかYちゃんに聞いてみると、
これはハッキリ憶えているのだが、
Yちゃんは「もすもす!モスバーバー1つ!」という申し訳ないがクソつまらない小ボケを入りからブチかましているらしく、そりゃ無理だろうなとYちゃんの採用を俺は心の中で諦めたのだった。

と、そんな俺も採用されないのは同じ。
それからも至極のネタ(俺の中でね)を毎日のように投稿するが、
結局採用されることは1度も無かった。



3年生になってすぐのこと。
Yちゃんはまた転校することになった。

ささやかなお別れの会が開かれ、
そこでみんなに寄せ書きをもらったYちゃんは泣いていた。
転勤族の家の子って大変だなって今でも思うけど、今思うとYちゃんの明るさは新しい学校に馴染むための努力でもあったのかな?と思う。

いや、ほんとにいつでも明るい子だったんだけどね。


Yちゃんがいなくなることをどう感じていたのかは正直あまり憶えていない。
でも当時の俺は他の子とは違う、特別なものをYちゃんに感じていたことだけは憶えていて、

初恋っていつ?と聞かれると、Yちゃんのことを思い出すということは、
やっぱりあれが俺の初恋だったんじゃないかと思うのだ。


Yちゃんとの最後の帰り道。
いつもと変わらず明るいYちゃんと「じゃあね!」と別れた。
さすが思春期の俺。去っていくYちゃんに特別な言葉など一切かけられなかった。


Yちゃんは今どこで何をしているのか分からない。
俺との時間を憶えていてくれたら、いや、きっと憶えていないけど、いや、でもちょっとでも、憶えていてくれたらうれしいな。



ラジオは今でも聞いている。

この仕事をしている今、目標は「渋江譲二のオールナイトニッポン0」である。(あくまで0の方)




ちなみに、

高校生になり、前にここに書いた闇の工業高校に入学した俺。
最初にできた友達のTという奴がいるのだが、

Tの住んでいる街が、Yちゃんがウチの中学に来る前にいた街だということを思い出し、なんとなくYちゃんの話をしてみたら同じ学校の同じクラスだったことが判明。

Tは中学で何人もの女子に告白されたらしく、
なんとYちゃんもそのTに告白したことがあると言うのだ。
しかもTはYちゃんをフったらしい。


その話を何も知らず平然と話すT。
知り合ったばかりのTの太ももを、俺は強く引っ叩いた。



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