1週間も家の中にネコがいたのに誰も気付かなかった話
夏だけどホラーではない。
あ、いや、ちょっとホラー要素はあるけどシッカリと原因がある話なので苦手な人も安心して読んで欲しい。
これは私が小学3年生くらいの頃の話だ。
その頃の我が家は2階建ての一軒家。
その日は土曜日で午前中の授業が終わり帰宅した時だった。
(土曜は普通に学校あった時代だね)
玄関を上り、少し廊下を歩くと右が居間。
左がピアノの教師だった母が使うグランドピアノが置いてあった応接室のような部屋だった。
その時、その左の部屋は窓を全開にしていて爽やかな風が部屋の中に吹き込んでおり、
太陽の光も差す気持ち良さそうな雰囲気に誘われ、私はランドセルも置かずその部屋を覗いた。
すると、、、
ネコと目が合った。
我が家はネコを飼っていない。
ネコ・・・?
なぜ・・・・・!?
お互い目を合わせ警戒し合いながら考える。
ハッ!!そう言えば!!!
ちょうどその時期、姉と一緒にネコを飼いたいと親に懇願していたのだった。
そうか!!ついに親がネコを買ってくれたのか!!!
学校から帰ったらネコの登場。
親の意気なサプライズに喜び、台所にいる母の元へ急いだ。
私「ねぇねぇ!!あのネコどうしたの!?」
母「は?ネコ・・・・・??」
そのネコはサプライズネコちゃんではなかった。
ただ窓から入り込んだ野良ネコだったのだ。
我が家の周りには野良ネコがやたら多く、
庭から侵入できる全開の窓から入り込んでしまったようだ。
母と共に見に行くと部屋を練り歩くネコ。
捕まえようとソッと近付くと危険を察知して素早く逃げるネコ。
その野生味のある獣の動きにビビる母と私。
これは手で捕まえるのは無理だ・・・・!
窓は全開なのに何故か出ていこうとしないネコ。
母の指示で思い付く1階の窓や扉を全部開けに行く。
玄関、居間、台所、どこに行っても外に逃がせるようにする作戦だ。
途中帰宅した姉も加わり、ネコを外に出られる窓の方へ誘導するように囲い込む。
しかし野生のネコはその囲いをもろともせず隙間を掻い潜り凄い速さで廊下を出て、台所の方に逃げてしまった。
自分に近付いて来ながらも、その明らかにビビった人間の態度を見透かしたような、嘲笑うかのような俊敏なネコ。
私たちはネコを捕まえることができるのか・・・・!?
3人に不安が募る。
台所に駆け込む3人。
バサッ!と何か物が落ちる音がしてネコの影をテーブル越しに目撃するが、
我々はピタッと動きを止め、しばらく様子を見ていると、
シーーーーンと無音が続く。
恐る恐る母が前に進み、台所の奥の方に様子を見に行く。
ネコの姿は無い。
台所の奥には、隣の家との間の小道に繋がる窓があり、
状況から見てどうやらそこから逃げて行ったようだ。
ホッと胸を撫で下ろす母、姉、私。
あの俊敏で獰猛な獣を前になす術なく追うことしかできなかった私たち・・・・。
初めて目の当たりにしたネコの恐ろしさ・・・・。
思えばあの日から、ネコを飼いたいなどと軽はずみな発言は誰もしなくなったような気がする。。
しかし、そんな事件があってから数日間。
家にある異変が起こる。
夜、寝室で横になると、
どこからかネコの鳴き声が聞こえると両親が言い出したのだ。
ここ数日毎晩聞こえると言う。
元々近所に野良ネコが多い我が家。
秋になると発情期のネコが異常な声を上げうるさくなることも多々あったため、そんな話を聞いてもどこかでネコが鳴いているのだろうとしか思わなかったのだが、
その夜、2階の部屋で布団に入った私は聞いてしまう。
「・・・にゃ〜、、、にゃ〜、、、、にゃ〜〜〜、、、、」
聞こえる。
ネコの鳴き声が。
そしてそれは外からではない。
明らかに近く、、、え、、、?
家の中、、、、????
そんなはずはない。
我が家にネコはいない。
数日前に家に侵入したことはあったが、あのネコは自ら外に逃げて行った。
逃げて・・・、行ったよな?
え、でも、、
外に出て行くの、、誰か見たっけ・・・・・・???
1週間が経ち、いまだ止まない謎のネコの鳴き声。
もしや・・・・、と家族で家の中の捜索が始まる。
しかし、何度も言うがあり得ない。
もし1週間も家の中にネコがいたら誰も気付かないはずがない。
まさか・・・・ネコの怨念・・・・・??
父「いた!!!!」
父の声が家中に響く。
ネコがいた?嘘だろ?
声がするのは最後にネコを目撃した台所。
行ってみると脱出可能な奥の窓のすぐ手前にある冷蔵庫の前に父が立っていた。
なんと、
ネコは冷蔵庫と壁の隙間に挟まっていたのだ。
ネコは身動きが取れず、体が挟まったまま宙に浮いた状態で発見された。
こちらに背を向けた状態で挟まっている状態を見ると、
あの日急いで隙間に逃げ込んだ躍動感そのままの体勢で挟まっているのがよく分かった。
その姿はPUMAのロゴによく似ていた。
「にゃぁ〜〜〜〜〜、、、、」
ネコの鳴き声が冷蔵庫の隙間からかすかに聞こえて来る。
その鳴き声は細く力無く、そしてどこか情けない。
いや、もしかしたらやっと見つけてもらえた安堵の声だったのかもしれない。
ネコ救出大作戦が決行された。
と言っても、この中で父親しか無理な力仕事。
冷蔵庫の隣には隙間も無く大きなシンク。
そしてその向こうには多くの荷物が重ねて置いてあり、
冷蔵庫を少しでも動かすには重なった荷物を退け、重いシンクを少しでも冷蔵庫と反対側に動かして間を作り、
そして冷蔵庫を動かす他無いのだ。
時間のかかる力作業。
荷物を退けるまでは良かったが、シンクがなかなか動かない。
何度も何度も押し続け、ようやく少しの隙間ができた。
疲労している父。
しかし我々には何もできない。
頑張れ父!!
あとは冷蔵庫を動かすだけだ!!!
そしてついにその時はやって来た。
ネコがすぐに逃げられるように窓を開け、
父が冷蔵庫に手をかけ、ネコのいる壁と逆側に少し傾けるようにグッと力を入れる。
するとすぐに隙間から物音が!!!
ついに!!ネコが脱出するぞ!!!!!
父「痛てっっっっ!!!!!!」
父の苦痛の悲鳴が鳴り響く。
一瞬何が起きたのか分からず驚きフリーズ私たち。
すると間も無くネコが冷蔵庫と壁の隙間から飛び出し、
窓から外へ走り去って行ったのを我々はこの目でシッカリと見届けた。
1週間も飲まず食わずで冷蔵庫の隙間に挟まり少しも動けなかったネコ。
辛かっただろう。
悲しかっただろう。
私たちのことを恨んでいるかい?
しかし、
自業自得っちゃ自業自得。
不幸なネコが何とか助かったことに安堵した私たちだった。
・・・・・あっ、
ところで父の悲鳴は何?????
手の甲から血を流す父。
どうやらネコが逃げると同時に父の手を引っ掻いて行ったらしい。
なんと恐ろしい野生の本能・・・・!!!
1週間の屈辱を晴らすべく、一矢報いたネコの決死の一撃。
敵ながら天晴れ!!!!!!!
(ひとごと)
こうして
「冷蔵庫に挟まったネコ事件」
は幕を閉じたのだった。
その後、
父の手のキズは見事に野良ネコのバイ菌をもらい、どんどん化膿し腫れ上がり、病院に行くことになった。
痛がりながら病院から帰ってきた父は手に包帯を巻き、私たちにこう言った。
「ネコイタイイタイ病だって。」
ネ、ネコイタイイタイ病・・・・・・???
もちろんそんなものは無いのだが、
父がユーモアで言ったその病名を子供である私はすっかり信じ込み、
ネコに引っ掻かれるとネコイタイイタイ病になると胸に刻み込んだのだった。
「冷蔵庫に挟まったネコ事件」は、
「ネコイタイイタイ病事件」
とその名を変えた。
今でも野良ネコを見ると思い出す。
帰宅してすぐネコと目が合った瞬間のこと、
台所でネコを見失ったこと、
夜中寝る時にネコの鳴き声がかすかに聞こえたこと、
冷蔵庫と壁の間に挟まっていたネコのこと、
手を引っかかれうずくまる父のこと、
包帯を巻いた父のこと、
ネコイタイイタイ病だったと告げた父のこと、、、、
父は今も元気に地元で暮らしている。
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