哲学対話テクスト

 ボランティアで哲学対話を開催しました。議論のきっかけのためにテクストを作ったので、せっかくですしnoteに載せます。小学生用。

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私 …   小学六年生の主人公。アニメはあまり見ない。
ガンちゃん …  デカくて強い。鬼滅が好き。
ユウキ …  ガンちゃんの子分。鬼滅が好き。
ヒメ …  ガンちゃんたちと仲良い女の子。鬼滅が好き。
ハカセ …  賢いが弱い。呪術が好き。
鬼滅 … 鬼と戦うやつ
呪術 … 呪霊と戦うやつ

▶放課後の6年1組に入ってみると…。

LEVEL1
「全集中(ぜんしゅうちゅう)! 水(みず)の呼吸(こきゅう)!! チュドーーーーン!!! ギャハハハ!!!」
 教室(きょうしつ)に入(はい)るとガンちゃんたちがさわいでいた。きっとまた鬼滅(きめつ)ごっこだ。でも、今日(きょう)はどこか、ようすがおかしい。
「オラァ! やりかえしてみろよ!」
「無量空処(むりょうくうしょ)はどうした〜!?」
「ザーコ! ザーコ!!」
 いつもだったら、ガンちゃんと戦(たたか)うのはユウキとヒメのはずだ。けど今日の敵役(てきやく)はハカセみたい。それになんだか一方的(いっぽうてき)だし、ふんいきもちょっとワルい。しかたないな。とめにはいろう。
「ちょっとまって! なにしてるの?」
「ああ!? いいところだったのに、ジャマすんな!」
 ああ。やっぱりガンちゃん、おこっちゃった。
「でも今日はちょっとおかしいよ。なんで3対(たい)1で戦ってるの?」
「ふん! 元(もと)はといえば、ハカセがワルいんだぞ」
 ユウキも不満(ふまん)そうだ。重(かさ)ねてヒメがこうつづけた。
「ハカセが、呪術のほうがオモシロいっていうんだもん! わたしそんなの読(よ)んだこともない!」
「五条(ごじょう)悟(さとる)のほうがつよいとかいうから、オレらでためしてやったんだ! ま、鬼殺隊(きさつたい)のほうがつよかったがな! ギャハハ!」
 とうのハカセは、うなだれてだまっていた。
 …なるほど。まとめるとこういうことかな? ゴンちゃんたちは鬼滅がすき。で、ハカセは呪術がすき。でもそこでハカセが、呪術のほうが鬼滅よりすごいっていったから、ゴンちゃんたちはおこってしまった。それでナカマハズレが始(はじ)まっちゃったんだな。
「で、オマエはどっちの味方(みかた)なんだ!?」

質問:君ならなんて返事をする?

LEVEL2
「どっちの味方でもないよ! 鬼滅をすきな人が多くても、呪術を好きな人が多くても、人それぞれでいいじゃない! みんなちがってみんないい! でしょ!?」
「ま、まあたしかにな…わるかったよ…」
 いきおいにまけてゴンちゃんがあやまると、急(きゅう)におおきな声(こえ)がきこえた。
「…そんなことないっ! 人それぞれだなんて、そんなのウソ!」
 え? みんなぽかんとしていた。とつぜんどなったのは、ヒメだった。みたこともないようなコワい顔(かお)をしている。いいこといったつもりだったのに。どうして?
「ど、どうしたの?」
「ヒメ…なにかあったのか?」
 ゴンちゃんたちもおどろいてるみたいだ。
「ヒメ、なにがあったのかはわからないけど…」
 いつでも相談(そうだん)にのるよ。そういおうとしたとき、ヒメは走(はし)って教室(きょうしつ)からでていってしまった。なぜか泣(な)きそうな顔(かお)だった。
「ヒメはね、男の子なんだよ。」
 沈黙をやぶったのはユウキだった。
「…どういうこと?」
「こころが、だよ。ヒメって女の子だろ? でも、女の子なのは、じつは体だけなんだって。ほんとうは男になりたいんだって。きにしてるらしいよ。みんな男か女なのに、わたしはそのどっちでもなくて、きもちわるいって。」
 ヒメんちとは親(おや)が仲(なか)いいからさ、ママがいってたんだ。ユウキはそういってからまただまった。おまえお母さんのことママってよんどるんかい。そんなこといえる空気(くうき)じゃなかった。しばらくしてから、ゴンちゃんがようやく口をひらく。
「ヒメが男の子って…なんかへんな感(かん)じするけど、でも、それをいやがっちゃあ呪術をいやがってるのとおんなじだよな。ヒメはヒメだ。おれたちのナカマだ!」
 そっか。たしかにゴンちゃんのいうとおりだ。男の子でも女の子でもない子をナカマハズレにするのは、鬼滅好きが呪術好きをいやがるのとおんなじだよな。…でも、ヒメが男の子? そんなの、やっぱへんだよ。いっちゃわるいけど、なんか、キモチワルいよ。

質問:君はヒメについてどう思う?

LEVEL3
そこでずっとだまっていたハカセがしずかにはなしはじめた。
「ふうん。じゃあ、おおくてもすくなくても関係(かんけい)ないってことね。そんなこと、ほんとにできるかな?」
「…あ? どういうことだ、オメー。」
 ゴンちゃんがいらついた口調(くちょう)でたずねる。
「ちょっとかんがえてみればわかることさ。かんたんな例(れい)をあげてみようか? じゃあ、たとえばヒメが、動物をいじめるのがだいすきな子だったらどうするんだ? どうしてもやめられなかったら? ほかのあそびじゃたのしくなれなかったら? ヒメだけずっとあそべないの?」
「そういうわるいところをなおしてあげるのが友(とも)達(だち)じゃないか。」
 ハカセはユウキの反論(はんろん)にもすましたかおでつづける。
「へえ? なおしてあげるって、まるで動物をいじめるのはわるいことだって口ぶりだな。いじめはわるいっていえるのは、それこそ『みんなは動物をいじめないから』じゃないのか? 男でも女でもないやつを認(みと)めるなら、動物をいじめるやつもみとめてやれよ。」
「いやいや、なんだってぼうりょくはよくないだろ。」
「さっきまでぼくをたたいてたやつにはいわれたくないね。…まあたしかに、この例だとわかりにくいかもしれない。でもこんなはなし、いくらでもあるぜ。ペットはどうだ? ボクたちは犬に首輪をつけるよな。でも人間には首輪はつけない。これって、犬を人間からナカマハズレにしてるからじゃないか? オカマはよくって、犬はだめなのか?」
「…じゃあ犬もナカマにいれればいいじゃん。」
「はあ? バカだなあ、キミ。」
 イラッ。こんなやつたすけなきゃよかった。
「そこで犬をたすけたら、ボクたちはウシもブタもたべれなくなるぞ。だって人間は食べないのにBBQをするのはナカマハズレだからね。そしてはなしはどんどん進んでいく。いつかは小さな虫をコロすのがこわくて息すらできなくなっちゃうぜ。」
 また教室はしずかになった。ハカセはウザいし、はなしもむずかしいけど、でもきっとすごいたいせつで、そしてとってもこわいことをいっている。それだけはなんとなくわかった。
 鬼滅みたいに、敵と味方がはっきりしてればラクなのに。みんな帰るきっかけをさがしてうつむいている。チャイムはいつまでもならなかった。

質問:キミはどうやって生きていく?

ーーー

 「ナカマハズレ」というキーワードを切り口とした、多様性とラベリングの恣意性に関するお話でした。「ナカマハズレってよくないよね。多様性、認めるべきだよね。でもちょっと待って、どこかでナカマハズレを作らないと、僕達生きていくことすらできなくない?」、こんな理路。

 細かい反省は下のリンク先を参照していただきたいのですが、まあ粗の多いことです。作成が間に合いませんでした。推敲がままならなかったばかりか、最後の方は手癖で書いてしまっています。フリガナすらふれてないし。子供たちは楽しんでくれましたが、それは最低条件にすぎません。これではいけない。次はもっと良いものを。


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