21.7.12 カス

90.カス
 目が覚めた。酔いはまだ覚めていない。コンクリートの硬質な冷たさに弾かれるように起立する。ここがどこなのかもわからない、が、少なくとも川越よりもずっと奥の、埼玉の僻地であることには違いなかった。目の前に駅がある。とりあえず階段を上がる。スナック菓子の油分が胃の奥からもくもくと立ち込めている。最悪に気持ち悪い。
 数十分後に上りの始発が来るようだ。朦朧と待ちぼうける。乗車、端の席になだれ込み、時計を確認する。今から渋谷に行っても試験までまだ余裕がある。今日の一限は英語中級の最終試験だ。僕はコマ数を極限まで絞っているため、一つでも単位を落とすわけにはいかない。たとえ受験したとしても、まったく予習していないこの状態でどれだけ点数を取れるかはわからないが、試験を受けないことには何も始まらない。また胸焼けが立ち込めた。吐き気がする。銀のポールに頭をかけてゆっくりと目をつむった。

 また目が覚めた。…目が覚めた!? 車内がいつの間にか乗客で埋まっている。両隣をいい感じの格好をしたお姉さんに挟まれている。一体どれほど寝ていたんだ、僕は、と思って車窓から外を見るとそこは菊名駅、横浜市だった。試験まであと10分―――。

 …てな感じで落単が確定して逆ギレした僕は、そのまま謎の通学を決め込んだ慶応義塾大学のベンチで、痰とワインでぐしゃぐしゃになった全身を木漏れ日と蝉時雨にさらしながら、ぐっすりすやすやと寝たのでした。カス。

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