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わたしの好きな本

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【わたしの好きな本】シリーズを主に集めてみました。
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記事一覧

『金子みすゞ童謡全集』著者/金子みすゞ 監修/矢崎節夫 JULA出版局【わたしの好きな本】

 金子みすゞさんについてはすでに多くの人々がその素晴らしさについて語ってくれています。有名ないくつかの詩についてはやはり多くの人々が様々な場面でふれていて、それぞれの感想や感動をもっていることと思います。
 今回ご紹介する本には、金子みすゞさんの綴った五百十二篇のすべての詩が網羅されています。国語辞書ほどの厚みや大きさがありますが"一家に一冊"と言っても過言ではない価値と存在感のある本です。
 す

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『グレープフルーツ・ジュース』オノ・ヨーコ著 南風椎訳【わたしの好きな本】

 今こそ、今、この不穏な時代だからこそオノ・ヨーコさんを評価する一助になればと思いこの文章を書き始めました。
 わたしはビートルズが大好きです。とりわけ最近リリースされた最期の新曲と言われている『NOW AND THEN』を聴き込んでいて一層その思いは深まりました。それと同時に、ふとオノ・ヨーコさんのことにも想いを馳せました。2024年2月18日現在、御歳91。本当に偶然なのですが、わたしがこの文

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『わたしは樹だ』文 松田素子 絵 nakaban 【わたしの好きな本】

 なんと力強い絵本であろうか。ある"樹"が読者に語りかけるかたちで物語が展開する。樹の声が生々しく直に脳髄に響いてくる。その語りに耳を傾け、樹の姿に目を奪われているうちに、読者は惹き込まれるように生命や自然、地球に想いを馳せるようになる。
 更に驚くべきことには、この絵本のなかではひと言も"宇宙"という言葉がでてきていないのにもかかかわらず、否応なしに宇宙という"全体"をも読者は感じ、意識するよう

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『掃除婦のための手引き書』-ルシア・ベルリン作品集- ルシア・ベルリン著 岸本佐知子訳【わたしの好きな本】

*文中""内は本作品集からの引用。『』内は本書収録の作品名。

 "カルマテ(どうどう)、リンド(いい子ね)、カルマテ(どうどう)。デスパシート(ゆっくり)……ゆっくりよ……"。[カタカナ部分はスペイン語]

 冒頭に挙げたカルマテ…は、この作品集のなかの『わたしの騎手』中の一節です。書店で本書が平積みされていたコーナーのルシア・ベルリンを紹介する無料の小冊子のなかに「試し読み」と銘打たれてこの『

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『おちゃのじかんにきたとら』ジュディス・カー作 晴海耕平訳【わたしの好きな本】

"考えられるかぎり与え、そして受けてください。もっともっと。勇気をもって与えてください!与えて貧しくなった人はいません!"
-アンネ・フランク著 中川李枝子訳 『アンネの童話』所収のエッセイ"与えよ"より-

 今回ご紹介する本は、ジュディス・カー作、晴海耕平訳の『おちゃのじかんにきたとら』です。1968年にイギリスで出版された絵本です。絵本ですから基本的にこども向けですが、おとなが読んでも十分に

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『木を植えた人』ジャン・ジオノ著 原みち子訳【わたしの好きな本】

"生命は自分だけのものではないことを知っている人が静かに放射する愛を私たちは感じます"

 今回ご紹介する本はジャン・ジオノ著、原みち子訳の『木を植えた人』です。冒頭に掲げた言葉は訳者の原みち子さんによるあとがきのなかのものです。まず最初にお伝えしておきたいのは、翻訳とあとがきの秀逸さです。わたしは原文のフランス語はまったくわかりませんが、翻訳された日本語から漂う気品によって訳が成功していることを

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中間色のくすんだ色調

 リトアニアで生まれ、アメリカで活躍したベン・シャーンという画家がいる。社会派リアリズムの作風で知られ、焼津の漁船第五福竜丸をテーマにした作品群『ラッキー・ドラゴン』が有名だ。その中の一枚に焼津の町並みを俯瞰気味にとらえたものがある。さまざまな色合いの屋根が混沌と佇み独特の雰囲気を醸し出していて実に焼津らしい。焼津で生まれ育ったわたしはそれを見て、この画家が焼津の空気感をよくとらえていることにひじ

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