スポーツ指導では『ケーススタディ』という考え方は有効なのか?(スポーツ教育学のおはなし)

こんにちは。
ジョゼ佐藤です。
先日、サッカー指導者をやっている教え子から、こんな相談をいただきました。

サッカー指導において、『ケーススタディ』という指導の仕方は有効なのですか?

とのことでした。
私はそれに対し、「サッカーの習熟度や理解度に応じてですが、有効なことだと思います」と返事をしました。
そして教え子に、「なぜそれが有効なのかどうかと思ったのですか?」と逆質問をしました。すると教え子は、

「ケーススタディ」という考え方って、選手を型にはめるですとか、指導者の願望を一方的に当て込んでいる印象があります。

たしかに、日本におけるスポーツ指導においては、指導者が「選手を型にはめる」「指導者の願望を一方的に押しつけている」というイメージを連想させてしまうような強引な指導、パワハラ的な指導が目立ってしまっているという状況も多くみられると思います。

しかし、一般的に『強豪チーム』と言われるチームの中でも、強引な指導やパワハラ的な指導をしていない指導者の方によるチームの練習風景を観てみると、『ケーススタディ』の要素を含んだ練習が普通に行われている場面もあります。

ということは…

強豪クラブで行われているということは…

『ケーススタディ』の要素を含んだ練習は、日常的にごくごく普通に行われているということですよね!?

教え子の質問とは違う様子ですよね!?

なぜ、このようなことが起きているのでしょう?

そしてなぜ、教え子からこのような質問が出てしまうのでしょうか?

ここから考えてみましょう。

「ケーススタディ」という考え方って、選手を型にはめるですとか、指導者の願望を一方的に当て込んでいる印象があります。

その理由の一つとして、「選手のほうが、ケーススタディの効果がわからない」ということが考えられます。
ここで、「ケーススタディの悪い例(=教え方の上手でない指導者)」のほうから話してしまいますが、よくある教え方の悪い指導者は、

“おい!今日は「◎◎が○○する」(※)という状況判断の練習をするからな!集中してやるように!!”

※ケーススタディの一例のことです

などと選手に練習方法の内容だけを伝えて、いきなりケーススタディの要素を含んだ練習を始めてしまうことです。
これだと選手には『ケーススタディの練習をする意味と理由(メリット)』が何も伝わらず、選手たちは練習の意味と理由を理解していないので、漠然と、

“コーチから強引に練習をやらされた!”

“ただ、コーチの思い描く「型」みたいなことを無理矢理押しつけられた!”

というイメージのままで練習をすることになるのです。

そうですよね。
選手たちは、

“なんのための練習なのかはわからないけど、コーチが「やれ!」と言うならそれなりな練習なんだろうから、とりあえずやってみるか!”

という気持ちでその練習に取り組んでいくと思います。

そのため、これだと、ケーススタディの練習の効果を得られるのは、ケーススタディの意味と理由をあらかじめ他の大人(以前いたチームの指導者か、選手のご家族など)から教わっている選手だけとなると思います。

(ケーススタディの意味と理由を自力で見つけ出せる中学生や高校生はまずいないと思います。ネットを使って熱心に勉強をするような選手は自力でたどり着くかもしれませんが…)

指導者はせっかくの練習の機会、指導の機会なのに、自分が指導している選手の中に「練習内容を理解をしていない選手」という子どもがいるというのは正直悲しいことですよね…

私は悲しいです。
しかしかく言う私にも、ケーススタディの練習やパターン練習を行った結果、同様のエラーを起こしたことがあるのです。

【私の失敗談】

今から20年ぐらい前に「日本代表ではパターン練習をやっている」ということを聞いた私は、練習の意味や理由の説明もせずに「やれ!」と言って強引にパターン練習をやらせたため、選手たちの様子は、

●「コーチからやらされている」という気持ちになりながら練習をすることになった

●「なんのための練習なのかがわからないから、自分のどこが上手くなったのかわからない」という気持ちになってしまった

●「この練習をやって、試合でどんな成功ができるのか?」という成功のイメージができないから、不安になってしまった

結果的に、選手のやる気や信頼感を奪い、指導に失敗してしまいました。

その失敗からの反省を活かしたいと思います

出会った選手全員を平等に成長させたいと願う指導者の私としては、そんな選手がいることをなんとしても防ぎたい気持ちになります。せっかく練習をしているのに練習の成果を得られずにボールコントロールや体力だけが身に付いているだけの状態なんて、本当にもったいないことだと思います。

そうです。
これがこの記事で一番申し上げたいことなのですが、

『ケーススタディ』や『パターン』の練習をやって失敗してしまうのは、その練習方法が間違っているから失敗するというのではなく、指導者の説明の仕方や、選手への指導の仕方が間違っているから選手が上手くいかない!というだけのことなのです。

“練習の選択の仕方が間違っているのではなく、指導者の説明の仕方や選手への指導の仕方が間違っているから上手くいかない”

これは経験の浅い指導者が頻繁に起こしてしまうエラーになります。
今回取り上げました練習方法『ケーススタディ』の練習方法でエラーを起こしてしまう指導者の方は、この理由でエラーを起こされてしまうのだろうと私は考えます。

同じ練習をやっているのに指導者によって結果が変わってしまうのは、なんとも残念な話です。そしてこのことも、私は防ぎたい。

では、「良いケーススタディの指導の仕方」とは、どんなものがあるのでしょうか?

選手たちが理解のできるように練習の意味や理由を説明して、選手たちがケーススタディの練習をマスターしてほしいですよね。

ここでケーススタディの良い指導の仕方を検証していきましょう!

「ケーススタディ」の良い指導の仕方

まず、育成年代の優れた指導者は、練習を始めるときに、『その練習をやる意味と理由(メリット)』を選手に伝えます。
それはケーススタディの練習を行うときも、同じ考えです。

“今からやる練習をマスターすれば、◎◎の能力が身に付いて、君たちのサッカーのプレーの成功率がより高くなるでしょう”

優れた指導者は、「これをやったら貴方たちはどのくらい上手くなる」という説明を選手にわかりやすく説明ができます。

わかりやすく説明ができることのメリットは、その説明ができれば、選手たちは「自分たちが成功する」「自分たちのプレーが上手くいく」などという成功体験をイメージできるため、練習への意欲が増えることになります。

そこで、私が中学生や高校生にケーススタディの練習を行う際に用いる論文として、とても参考になる論文がありますので、ここに引用(紹介)させていただきます。

【球技スポーツの状況判断】

スポーツ教育学研究より

坂井・大門(1994)
坂井・大門(1994)

【球技スポーツの状況判断は3つ】

❶ゲーム状況から得られる状況
❷予期図式
❸探索による選択的注意

「❷予期図式」とは:過去の成功体験もしくは不成功体験したプレイ行動の記憶

この論文の中にある、『予期図式』の記憶と選択がケーススタディに当たるのですが、選手は試合中に、この、ケーススタディの練習をやることで得られた予期図式の選択を状況に応じて行うことができるから、試合の中でのプレーを成功させている(もしくは成功率を上げている)のです。

つまり、「ケーススタディの練習」というのは、選手に「予期図式のメモリー」を増やすという作業であることに他ならないのです。

選手の技能の習得には「成功体験を増やしていく」という作業が必要なのですが、ケーススタディは、予め指導者が用意した「成功体験を覚えてもらう」ということなのです。

であるならば…

中学生や高校生の指導であれば、「ケーススタディの練習」というのはチーム練習の中ではなくてはならないことなのではないでしょうか。

「ケーススタディ」=「パターン練習」=「共通意識」という言葉で、日本のサッカー指導では実は昔からあった

そうです。
私の知るかぎりでは、日本のサッカー指導においても、

共通意識:ハンス・オフト氏
パターン練習:フィリップ・トルシエ氏

といった、日本代表の実力を躍進させた歴代の日本代表監督を務められた方も、今の「ケーススタディ」につながる練習方法、指導方法をしっかり取り入れていたのです。

ハンス・オフト氏は、『トライアングル』や『アイコンタクト』と言った選手がイメージのしやすいワードを上手く用いて選手たちに説明をし、そのワードを指導者と選手の間で『共通意識』という言葉で認識し、試合になったら「トライアングルの形を作る」とか「パスの際にはアイコンタクトをする」などといったプレーを成功させるイメージを思い出させるようにトレーニングでは意識づけを行いました。
また、フィリップ・トルシエ氏の場合は『パターン』という言葉を用いて、今のケーススタディと同じように、数種類の「攻撃時における成功率の高い例」をパターンとして選手間で認識してもらい、実際の試合での攻撃の場面においてはそのパターンを想起して発揮することを目指しました。

そうです。

日本には、外国人指導者の方からの流入になりますが、昔から『ケーススタディ』につながる練習方法、指導方法が使用されていたのです。

では、実際に、指導者はどのようにケーススタディの意味と理由を説明すればよいのでしょうか。

選手にはどうやってケーススタディの意味と理由を伝えますか?

上記のようにケーススタディの意味と理由が理解できるならば、指導者は、それを教えている中学生や高校生にも理解のできる説明の仕方で説明をしてみましょう。

例)中学生のケース

“今から自分が「ケーススタディ」という、試合の中で実際に起こりやすい、プレーの成功が起こりやすい場面を説明します。その場面での『成功』ということを皆の頭の中に記憶する(覚える)ことができれば、皆が実際に試合で同じような場面が起きた時に「これは練習でやったケーススタディの場面だ!!!」ということに気づいて、頭の中からその場面の記憶を呼び起こすことができれば、試合でもプレーを上手く成功させることができるのです。だから練習の中でもこの、成功例の場面をしっかり覚えて、試合の中で呼び起こすことができるようにしてみましょう!”(以上がケーススタディの意味と理由、メリットの説明です)

などという説明をしてみてはいかがでしょうか。※指導者の方が状況に応じてアレンジされてみてください。

このように、練習を行う際に「練習の意味と理由(メリット)」を選手に伝えることができれば、選手たちはその練習をなんのためにやるのかもわからずやるよりは、全然頭の中に入っていき、記憶し、理解ができると思います。

逆に、選手たちにその練習の「意味と理由(メリット)」を伝えることができないと、選手たちは、無理矢理やらされている、なんのために練習をやっているのかわからない、といった、練習や指導に対しての負のイメージばかりが積もり、やがてはプレーに対しての自信や活動に対してのやる気を失うことにつながるんじゃないかなと思います。

選手に「練習の意味と理由(メリット)」を伝えることができれば、選手たちの自信とやる気は確実に上がることが保障できるので、中高生の指導者でケーススタディの練習を取り入れたいと検討されている方は、ぜひ、この方法で選手たちに教示をされてみてはいかがでしょうか。

ケーススタディの参考資料

参考資料として、中高生向けのケーススタディの良い事例ばかりを集めた、大変参考になるnoteをご紹介いたします。

“ケーススタディと言ったって、どんな例を練習させればいいのかわからないよ!”

と思う指導者の方は、今一度ご購入を検討されてみてはいかがでしょうか。私は購入させていただきましたが、ケーススタディの事例の説明画像もついていますので、選手たちに説明をするときにも大変わかりやすいnoteになっていると思います。

Twitterでもフォロワー数が5000名以上、独自の戦術眼やセンスをお持ちのきーす氏のnote記事です。

今回の私のnote記事は、以上になります。
この記事の内容について、なにか疑問点やご意見などがありましたら、なんなりとお申し出ください。
それでは、ご清聴誠にありがとうございました。

以上

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