Epoch Times紙の主張に反して、CDCのデータはCOVID-19ワクチンが入院のリスクを増加させる事を示してはいませんでした。

【主張】

  • COVID-19ワクチン接種者は入院しやすくなる傾向がある。

  • COVID-19ワクチンの入院予防効果は時間の経過と共にマイナスに転じた。

  • ワクチン接種を繰り返すと免疫力が低下し、癌等の生命を脅かす病気に罹り易くなる可能性がある。

【詳細評定】

《裏付け不十分》

  • この主張は、ワクチン効果の統計的推定値に依存しています。

  • しかしながら、この主張はこれらの推定値を取り巻く大きな不確実性を考慮していません。

  • つまり、ワクチンが入院リスクを増加させるか減少させるかを結論づけることは、このデータでは不可能ということです。

《出典の誤読》

  • この主張は、Irrgang氏らの研究を裏付けとして引用しています。

  • しかしながら、彼らの研究は正反対の結果を示しており、ワクチン接種を繰り返すことでSARS-CoV-2ウイルスの中和効果が高まることを示しています。

  • 更に、この研究の著者は公にこの主張を否定しています。

《キーポイント》

  • COVID-19の2価ワクチンは、SARS-CoV-2のオリジナル型とオミクロン変異型を予防するために開発されました。

  • 米国CDCのデータによりますと、XBBと呼ばれるオミクロン亜型が支配的な系統の感染による入院に対しては、2価のブースターの効果は限定的であり、また減少傾向にあります。

  • しかしながら、BQ.1やBA.4/5のような他のオミクロン系統による感染の場合は、重症化から保護する効果があります。

【レビュー】

COVID-19ワクチンはCOVID-19で発病するリスクを高めるというシナリオは、2020年後半のワクチン接種キャンペーン開始以来、何度も再浮上してきました。Health Feedbackは以前、このシナリオを助長する主張は不正確または誤解を招くものであり、疫学データの欠陥分析に基づいていると何度も 説明 してきました

2023年6月にも同じシナリオが再浮上し、The Epoch Timesの主張では「COVID-19ワクチンの入院に対する有効性は時間とともにマイナスに転じた」、言い換えれば、COVID-19ワクチンを接種した人は入院する可能性が高くなったとしています。これまでと同様、この主張は疫学データの誤解を招く解釈に基づくものであり、根拠がありません。以下にその理由を説明します。

《二価ワクチンの入院効果についてCDCの研究では結論が出ていません》

2023年6月15日付のEpoch Times紙は、米国CDCの疫学者Ruth Link-Gelles氏が米国FDAの第182回ワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会発表した内容について報じています。

Link-Gelles氏は、いくつかのオミクロン系統に感染した場合のCOVID-19入院予防におけるmRNA二価COVID-19ワクチンの有効性に関するデータを発表しました。ワクチンの有効性(VE)は、感染、入院、死亡といった特定の結果を減少させるワクチンの能力を測定するものです。VEがプラスであることは、ワクチンがその転帰のリスクを効果的に低下させることを意味しています。理論的には、VEがマイナスであれば、ワクチンはそのリスクを増加させることになります。

  • Link- Gelles氏は、IVYワクチンサーベイランスネットワークのデータを用いて、特定の条件下で入院に対する平均ワクチン効果(VE)がマイナス8%であったことを報告しました

    • オミクロン系XBBが優勢な時期(2023年1月23日から2023年5月24日)に入院した場合。

    • 入院した人が90日以上前に2価ワクチン接種を受けていた場合。

  • Epoch Times紙が主張の根拠としたのは、この所見の切り取りです。

平均VEは、上記以外の全ての条件下でプラスであったことを念頭に置くことが重要です:

  • オミクロンの優勢な系統がBA.4/5(2022年9月8日~11月13日)の場合

  • オミクロンの優勢な系統がBQ.1(2022年11月14日~2023年1月22日)の場合

  • CDCの別のワクチン監視ネットワークであるVISIONネットワークからデータを入手した場合。

しかしながら、この論文はいくつかの重要な注意点を考慮していませんでした。

まず、Link-Gelles氏は平均VEとその95%信頼区間(CI)を報告しました。平均VEは確かに-8%ですが、95%信頼区間は-44%から+19%でした。

このことが何故重要なのかを理解するために、我々はまず、このVEデータが米国のワクチン接種を受けた全人口ではなく、人口のサンプルから得られたものであることを理解しなければなりません。つまり、算出されたVEは、全人口を分析に含めた場合の真のVEの推定値であるということです。

95%CIは、この区間が真の未知のVEを含んでいることを95%保証することを意味します。より具体的には、同じ研究を100回繰り返し、その都度新しい95%CIを計算した場合、真のVEは95%の確率でCIに含まれることを意味します[1]。

Link- Gelles氏が報告した95%CIに戻りますと、実際のVEは-44%と+19%の間のどこかにあると95%信頼性があると言うことが出来ます。言い換えれば、このデータだけではVEがマイナスかプラスかを結論づけることは不可能です。しかしながら、二価ワクチンの有効性を調査している他の研究を参考にすることで、より理解を深めることが可能です。

例えば、CDCがVISION Networkから入手したデータでは、前述のように入院に対して正のVEが認められています[2]。

また、ノースカロライナ大学の研究者も、XBBオミクロン系が優勢であった場合でも、入院に対するVEが低いながらもプラスであったと報告しています[3]。

ですから、Epoch Timesの主張は、単一のVE推定値のみに基づいており、逆の効果を示した他の推定値は除外されています。

会議で発表されたVE推定値には他にも注意点があります。CDCの発表では、「ワクチン未接種者がワクチン接種者と有意に異なる場合(例えば、COVID-19危険因子による)、絶対的ワクチン効果の推定値には偏りが生じる可能性があります」との警告が出されています。

つまり、CDCが提示した絶対的VEをそのまま用いて決定的な結論を出すことは不可能です。何故なら、ワクチン接種を受けた集団と受けていない集団の間には、ワクチン接種とは無関係に、重症COVID-19の発症リスクに影響を与える違いが存在する可能性があり、それがVEの計算に影響を与える可能性があるからです。

《抗体研究はワクチンが免疫系を弱めることを示唆してはいません》

Epoch Times紙はまた、彼らの主張を裏付けるために、ワクチン接種を繰り返すと「免疫力が低下し、癌のような生命を脅かす病気にかかりやすくなる可能性がある」ことを示すとされる科学的研究を引用しました。

Epoch Times紙は、mRNAワクチンの3回目の接種後に産生される抗スパイク抗体の変化を報告したIrrgang氏らの研究に間接的に言及しています[4]。しかしながら、Epoch Times紙の結果の説明は誤解を招くものです。

Irrgang 氏らは、2回目と3回目のワクチン接種後にIgG4と呼ばれる特定のクラスの抗体の増加を観察しました。

この主張の一部は、抗体のIgG4クラスが抗炎症作用と関連しており、従来は抗体と関連していた特定の免疫機能を欠いていることに関連しているのかもしれません[5]。

しかしながら、mRNAワクチン接種後のIgG4クラス抗体の増加が免疫反応を弱めることを示す証拠は今のところ見つかっていません。エアランゲン大学の免疫学者で、Irrgang氏らの研究の共著者であるKilian Schober氏は、このような見解は「確かに単純すぎる」とツイッターに書き、「mRNAワクチンは何百万人もの命を救ってきた」と指摘しました。

Schober 氏は、IgG4抗体は依然としてスパイク・プロテインと結合する能力を保持していると強調しました。Irrgang 氏らは、ブースター投与後に抗体のスパイクへの結合能力が向上し、抗体を介したウイルス中和が改善したことを観察しました[4]。

ハーバード大学医学部のShiv Pillai教授は、この研究には関与していませんが、抗体の標的中和能力は「ワクチン接種後の免疫防御の最も厳密な相関」であると説明しています。また、抗スパイクIgG4抗体は標的により強く結合する可能性さえ示唆されております。Pillai 氏は、「実際的には、(IgG4抗体は)現時点ではワクチン接種患者の免疫力を低下させる可能性は低い」と結論付けています。

ワクチン接種キャンペーンが始まって以来、ワクチンがCOVID-19[2,6,7]による入院リスクを効果的に減少させることが多くの研究で示されてきました。ある研究では、ワクチン接種によってCOVID-19による死亡が世界で2000万人ほど回避されたと推定されています[8]。

要するに、Epoch Times紙の発表に関する報道は誤解を招くものだということです。2023年6月のCDCのデータは、COVID-19ワクチンの接種回数が多いほど入院リスクが高まることを示しているわけではありません。CDCの大半のVE推定値は入院リスクの減少を示唆しています。絶対的VEの計算における統計的不確実性とバイアスの可能性により、確定的な結論は得られません。ワクチン接種者の抗体産生に関する研究では、ブースター接種によりSARS-CoV-2の中和が増加することが示されています。ある研究ではmRNAワクチン接種後にIgG4抗体が増加したことが示されているものの、これがウイルスの中和を阻害したとは示されていません。

《参考文献》

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