ビタミンD3サプリメントはビタミンD欠乏症の治療には安全であり、殺鼠剤と比較するのは誤解を招きかねません。
【主張】
ビタミンD3は殺鼠剤である!
ビタミンD3はクロロホルムを混ぜた羊の毛を放射線処理したものである。
ビタミンDレベルが低いのは、光の不足とビタミンAの多い食事のせいだ。
【評定詳細】
事実無根です:
ラノリンは羊の毛から抽出されるワックス状の物質で、ビタミンD3サプリメントの一部に使用されています。
しかしながら、羊の毛自体もクロロホルムもビタミンD3サプリメントの含有成分ではありません。
ビタミンDの欠乏は、日光の不足だけでなく、複数の要因の結果として生じる可能性があります。
誤解を招きかねません:
殺鼠剤の中にはビタミンD3を使ってネズミを殺すものがありますが、この効果はビタミンD3が大量に使われているからで、人工ビタミンD3が本質的に有害だからではありません。
ビタミンD3サプリメントは、くる病や骨粗鬆症などの合併症を引き起こすビタミンD欠乏症の治療に役立ちます。
【キーポイント】
ビタミンDは、丈夫な骨を作り維持し、体内のカルシウムとリン酸イオン濃度を調整するのに重要な栄養素です。
ビタミンDは食物や日光浴から摂取することが出来ます。
但し、自然からの摂取で必要量を満たすことが困難な場合は、ビタミンDのサプリメントが推奨されることもあります。
ビタミンD欠乏症のリスクが高いのは、母乳栄養の乳児と高齢者の2グループです。
母乳栄養の乳児にリスクが高いのは、母乳には十分なビタミンDが含まれていないためです。
高齢者にリスクが高いのは、ビタミンDを蓄えたり作ったりする能力は、加齢と共に低下するからです。
【レビュー】
2024年5月に投稿されたFacebookのリールでは、ビタミンD3サプリメントを「殺鼠剤」と呼び、「放射線を浴びた羊の毛にクロロホルムを混ぜたもの」と呼んでいました。また、ビタミンDレベルが低いのは日光不足と「高ビタミンA食」のせいであり、安全なのは太陽からのビタミンD3だけだと主張する内容でした。このリールは記事執筆時点で403,000回以上再生されていました。
このような主張をしたのは、FacebookやInstagram上でThor Torrensという名前で活動しているEvan Torrensです。同氏はInstagramで18,000人以上のフォロワーを持つヘルスコーチで、血液検査や毛髪ミネラル検査等に関するアドバイスを含むウェブコンサルを1回820米ドルで提供しています。彼のLinkedInページには、Rockland Community Collegeでビジネスの準学士号を取得していることが記載されていますが、医学や健康に関する関連資格は記載されていません。
ビタミンD3サプリメントに関するTorrensの主張は不正確であり、誤解を招くものです。以下で説明します。
ビタミンD3サプリメントは「クロロホルムを混ぜた羊毛を放射線処理したもの 」ではありません。
ビタミンDは脂溶性ビタミンの一種で、カルシウムの吸収に関与し、丈夫な骨の形成と維持に必要不可欠な栄養素です。また、血液中のカルシウムとリン酸イオンの量を調節し、筋肉の収縮に影響を与え、免疫系が正常に働くのを助けます。
ビタミンDには、主にビタミンD2とビタミンD3の2種類があります。ビタミンD2は主に植物や菌類に、ビタミンD3は主に動物や人間に存在します。人間の身体はどちらの形でも吸収し、利用することが出来ます。ビタミンDは食物から摂取することが可能で、マグロや サーモンといった脂の乗った魚はビタミンDの豊富な供給源となっています。
また、日光を浴びることでもビタミンDを生成することが可能です。太陽からの紫外線は、皮膚にある7-デヒドロコレステロールという化合物をプレD3に変換し、ビタミンD3に変化させることでビタミンDの生産を開始します。ビタミンD3はその後、肝臓やその他の組織に運ばれ、更に代謝を受け、ビタミンDの生物学的に活性な形態であるカルシトリオールが生成されます。
TorrensがビタミンD3サプリメントを 「殺鼠剤 」とレッテル貼りし、これらのサプリメントが同様に人を中毒に陥れているとほのめかすのは誤解を生じさせかねません。
ビタミンD3は確かに殺鼠剤の成分ですが、毒になるのはその量に応じてであることを肝に銘じておく必要があります。これらの殺鼠剤はビタミンD3が大量に含まれているために毒となるのです。これによりげっ歯類はビタミンD3の過剰摂取となり、体内のカルシウムとリン酸濃度が致死量まで上昇することになるのです。
人間でも過剰摂取は同じ効果をもたらします。しかしながら、これはビタミンD3が人間にとって本質的に有害であることを意味するものではありません。先に説明したように、ビタミンDは健康維持に重要な役割を果たしています。ビタミンDが過剰であると健康上の問題が生じるのと同様に、ビタミンD欠乏は、骨が弱くなったり、歯に異常が生じたり、発作やけいれんを起こしたりします。
様々な物事に言えることですが、Goldilocksの法則が当てはまります:つまり、ビタミンD3は 「ちょうど良い 」量を摂取することで効果を発揮するのです。
ビタミンD欠乏症は日光不足だけでなく、複数の要因によって引き起こされる可能性があります。
「日光不足と高ビタミンA食が原因でDレベルが低い」というTorrensの主張は不正確であり、根拠がありません。第一に、「高ビタミンA食」がビタミンDレベルの低下を引き起こすという主張を裏付けるエビデンスは提示されていません。我々はTorrensに連絡を取り、新しい情報が入手次第、このレビューを更新する予定です。
ビタミンDとビタミンAを一緒に摂取した場合、ビタミンDに対する血中カルシウム濃度の上昇が抑制されることが、9人を対象に行われた研究で確認されています[1]。ビタミンAとビタミンDは、遺伝子制御に関与する同じタンパク質のいくつかに結合することから、著者らは、この拮抗作用は、2つのビタミンが同じタンパク質を取り合うことによるものではないかと仮説を立てています。
しかしながら、著者らはまた、1992年のスウェーデンの栄養ガイドに基づき、レバー1人前、つまり食品からのビタミンA最大摂取量に相当する量のビタミンAを使用したことを報告しています。これが多くの人の食生活を代表しているかどうかは疑問が残ります。更に、この研究では、高濃度のビタミンAがビタミンD欠乏を引き起こすという結果は出ていません。
全体として、ビタミンD欠乏症もビタミンA過剰症も、米国の一般人口にはあまり見られません。
米国国立健康統計センターが実施したNational Health And Nutrition Examination Survey(国民健康・栄養調査)では、2019年に、1歳以上の米国人口のほぼ4分の3が十分なビタミンDレベルを有していると報告されています[2]。2012年、米国CDCは、米国人口の約2%がビタミンA過剰症のリスクがあると報告しました。
第二に、この主張は、特にビタミンD欠乏症のリスクが高いグループにとって、日光からビタミンDを摂取するだけでは限界があることを考慮していません。
特に、母乳で育てられた乳幼児は、母乳に十分なビタミンDが含まれていません。子供のビタミンD欠乏症は、骨が軟らかくなり骨格が変形する「くる病」の原因となるため懸念されています。同時に専門家は、生後6ヵ月未満の乳児は皮膚のメラニンが少ないため、日光による皮膚ダメージを受けやすいため、直射日光を浴びないようにすることを勧めています。そのため、米国小児科学会は、母乳で育てられた乳児にビタミンDのサプリメントを与えることを推奨しています。
その他の高リスクグループには、高齢者が含まれますが、これは高齢になるにつれてビタミンDを蓄えたり作ったりする能力が低下するためで、クローン病やセリアック病といった、食物から栄養素を吸収するのが困難な疾患を持つ人も含まれます。
日光は体内でビタミンDを生成するのに一役買ってくれますが、過剰な紫外線は皮膚癌のリスクも高めてしまいます。更に冬場は、我々の身体に必要なビタミンDを作るのに十分な日光を浴びるのに長時間を要します。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のRobert Ashley医学部教授は、冬に十分なビタミンDを作るには、正午に太陽の下で2時間程過ごす必要があると説明しています。
ビタミンD欠乏症と闘うには、バランスの取れた食事を摂り、健康状態と天候が許せば、屋外で日光浴をすることが重要です。また、必要に応じてビタミンDのサプリメントを利用することも有効です。簡単に言えば、ビタミンDの供給源を1つに絞るのではなく、複数に頼ることが重要なのです。
結論
ビタミンD3サプリメントを殺鼠剤に例える主張は誤解を招きかねません。
ビタミンD3は殺鼠剤に使用されることがありますが、その毒性は大量に使用されることに起因するものであり、人工ビタミンD3が本質的に有害だからではありません。
ビタミンDを日光だけに頼らせるという提案は、この解決策の限界を考慮に入れていません。
例えば、ビタミンD欠乏症のリスクが高い母乳栄養の乳児は、日光による皮膚損傷を受けやすいため、専門家は直射日光を避けるよう助言しています。
また、冬にビタミンDを摂取するには長時間日光に当たる必要があるため、日光だけに頼るのは現実的ではないかもしれません。
一般的に専門家は、ビタミンDを食事、日光、そして必要に応じてビタミンDのサプリメントといった様々な摂取源から摂取することを勧めています。
引用文献
1 – Johansson and Melhus. (2009) Vitamin A Antagonizes Calcium Response to Vitamin D in Man. Journal of Bone and Mineral Research.
2 – Herrick et al. (2019) Vitamin D status in the United States, 2011–2014. American Journal of Clinical Nutrition.
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