Michael PalmerとSucharit Bhakdiによる根拠のない主張は、COVID-19ワクチンが臓器に害を与えることを実証してはいません。

【全主張】

  • mRNAワクチンは「全身を巡り、様々な臓器に蓄積」する。

  • それらは「SARS-CoV-2スパイクタンパク質の長期間の発現」を誘発し、

  • 「自己免疫様炎症」を引き起こし、

  • 血管臓器障害を引き起こし、

  • 「時には致命的な結果をもたらす」可能性がある。

【評定詳細】

観測結果の真意を正しく理解していない

  • COVID-19ワクチン接種後に死亡した人々の組織臓器における白血球の量は、多くの剖検例で同程度です。

  • 記事の主張とは異なり、自己免疫性炎症を示していません。

不十分な裏付け

  • 病理学の専門家は、Burkhardの分析には彼の方法についての記述が不十分であり、これらのデータからいかなる結論も導き出すことは不可能であると指摘しています。

出典の誤記

  • COVID-19ワクチンからのmRNAは、大部分が注射部位に留まり、それが細胞のゲノムに統合されることを示唆する証拠はありません。

  • このような主張は、Pfizer社が行なったラットでの生体内分布試験とLund大学の研究者による研究のそれぞれに対する誤った解釈から生じています。

【キーポイント】

  • COVID-19ワクチンは、販売承認を受ける前に、いくつかの臨床試験を通じて安全性と有効性を実証しました。

  • しかしながら、規制当局および保健当局は、潜在的な希少効果を特定するために、ワクチン接種を受けた人々の間で起こりうる安全性の問題を引き続き監視しています。

  • COVID-19ワクチン接種の利点は、既知及び潜在的なリスクを上回り続けており、ワクチン接種後の重篤な反応は稀であることを示す圧倒的なエビデンスが存在します。

【レビュー】

2022年8月19日、「mRNAワクチンによって誘発される血管・臓器障害:因果関係の反論できない証明」と題する記事がTwitterで話題になりました。化学教授のMichael Palmerと退職した微生物学者Sucharit Bhakdiが執筆したこの記事は、「COVID倫理を求める医師団」というグループのウェブサイトに掲載されたものです。ソーシャルメディア分析ツールCrowdTangleによりますと、この記事は、Instagramを通じてある程度の関与を得ましたが、Twitterで広く共有され(例はこちらこちらこちら)、25,000以上のインタラクションを得ました。

記事の中で著者らは、COVID-19ワクチンが被接種者の死亡を引き起こすメカニズムを実証したと主張し、ワクチン接種を中止するよう求めています。著者らは、主に2つの論拠に基づいて結論を出しています。第一は、ワクチンが全身に分布し、「多くの臓器でSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の長時間発現」を誘導するというものです。第二は、ワクチン接種によって産生されたスパイクプロテインが「 自己免疫様炎症 」を引き起こし、「 重大な臓器障害、特に血管障害 」を引き起こすというものです。

しかしながら、著者が提示したとする「反論の余地のない証拠」は、彼らの主張を裏付けるものではありません。それどころか、以下に説明するように、記事全体が、入手可能な科学的証拠と矛盾する、誤った科学研究の解釈と欠陥のある分析に依存しているの です。

この論文の著者と発行者は誰ですか?

この記事の著者2人は、COVID-19とCOVID-19ワクチンについて誤った情報を流布した過去があります。COVID-19のパンデミックは「偽物」であり、ワクチンは世界人口を「壊滅」させるというBhakdiの虚偽ながらも広がった主張は、Lead Stories, USA Today, Africa Check等の複数の組織によって論破されています。

2020年9月、Palmerはウォータールー大学の学生に、COVID-19を「偽の緊急事態」とする授業概要を配布しました。これにより、同大学の科学部長は、カナダのテレビ・ラジオチャンネルであるCBCニュースで、Palmerの意見は「ウォータールー大学や科学部では共有されていない」という声明を出したのです。

PalmerとBhakdiは、Doctors for COVID Ethicsというグループの創立署名者です。香港大学とAsian Network of News & Information Educatorsによるファクトチェック・プロジェクトAnnie Labによりますと、このグループは2021年初頭からCOVID-19ワクチンに関する誤った情報を広めてきたということです。COVID-19ワクチンの誤報に取り組む米国の6つの研究機関の連合体《Virality Project》は、このグループを「COVID-19ワクチンへの疑念をさらに深めるために医学的資格を利用する繰り返し犯」と表現しています

COVID-19ワクチンに含まれる脂質ナノ粒子のうち、体内を移動するのは極一部で、注射部位がその大部分を保持する

PalmerとBhakdiは、日本における規制機関である医薬品医療機器総合機構(PMDA)にPfizer社が提出した生体内分布データを引用して、「ワクチンは速やかに体内を分布する」という主張を裏付けています。しかしながら、これは誤解を招くものであり、Pfizer社のデータは、実際には、脂質ナノ粒子の大部分が注射部位に留まり、他の組織に移動するのは極僅かであることを示しているのです。

Pfizer社の研究者は、COVID-19ワクチンのmRNAを封入したものと同じ脂質ナノ粒子をラットに注射して、ワクチンが体内の臓器や組織にどのように分布するかを評価しました。この研究で使用されたナノ粒子には放射性標識が付けられており、研究者は放射能レベルを測定することで、異なる時期に各組織に存在したナノ粒子の量を推定することが出来ました。

Health Feedbackが以前のレビューで説明したように、Pfizer社が提出した技術文書の5ページと6ページによりますと、投与した脂質ナノ粒子の大部分(52.6%)が注射後1時間の時点で注射部位に残り、注射後8時間の時点で18.1%が肝臓に移動していることが示されています。記事の内容とは逆に、ラットに使用した用量はCOVID-19ワクチンに使用した用量よりも遥かに高かったにも関わらず、他の組織におけるナノ粒子の量は投与量の1%を超えず、殆どの場合、0.1%以下であったということです。

論文の主な根拠が、専門家から疑問視されているデータに依存していること

PalmerとBhakdiは、論文で提示された証拠の大部分が、引退した病理学者Arne Burkhardtのデータに基づいていることを認めました。このデータは、COVID-19ワクチン接種後6カ月以内に死亡した15人(女性8人、男性7人、28歳から95歳)の病理組織学的分析(病気による変化を調べるために顕微鏡で組織を調べること)を行なったもので、COVID-19ワクチン接種後6カ月以内に死亡した15人(女性8人、男性7人、28歳から95歳)のデータです。

Burkhardtは、いくつかの臓器組織にリンパ球(白血球の一種)の集積を発見し、これをCOVID-19ワクチン接種による免疫システムによる体内臓器の「攻撃」と解釈したのです。

Burkhardtがこのような主張をするのは今回が初めてではありません。最初の公開記録は、2021年9月20日、ドイツのロイトリンゲン病理学研究所でBhkhardt自身、電気工学の元教授Werner Bergholz、引退した病理学者 Walter Langが主催した「病理学会議」にまで遡ります。2021年12月10日、BhakdiとBurkhardtは、ライブ配信された《Doctors for COVID Ethics Symposium》で同じ主張(この4ページの報告書にまとめられている)を繰り返しました。

しかしながら、Burkhardtのデータと結論は、証拠に裏付けられていないとして、専門家から激しい批判を受けています。

連邦保健省の支援を受けた大学病院RWTHアーヘンのCOVID-19剖検のドイツ登録チームは、ファクトチェック機関Correctivに対し、Burkhardtは画像を誤って解釈していると指摘しました。彼らは、リンパ球の蓄積は「多くの剖検例で見られるもの」と同様であると説明しました。更に、症例の選択基準が「不明確」であり、方法論全体が理解不可能であり、関連する臨床情報が不足しているため、Burkhardt氏のデータから結論を導き出すことは不可能であると述べています。

ドイツ病理学会(Deutsche Gesellschaft für Pathologie)は、この会議とその内容から「明確に」距離を置く声明を発表しました(原文ドイツ語から英語への翻訳です)。

「これらは個人的な意見であり、私たち専門家集団の立場ではありません。既に他の人が批判的に指摘しているように、発表されたデータは科学的に正しいものではありません。勿論、このワクチンが合併症を引き起こす可能性も排除出来ませんが」

https://www.pathologie-dgp.de/die-dgp/aktuelles/meldung/statement-der-dgp-zur-pressekonferenz-todesursache-nach-covid-19-impfung/ 

ドイツ連邦病理学者協会(Bundesverband Deutscher Pathologen)も、Correctivへの電子メールで同様の声明を出しています(原文ドイツ語から英語への翻訳)。

「我々の知る限り、Burkhardt教授とLang教授がビデオで発表した意見は、現在のところ、科学的証拠によって十分に裏付けられておらず、またコメントに値するような形式でもありません」

https://correctiv.org/faktencheck/2021/09/25/mitglieder-der-pathologiekonferenz-verbreiten-unbelegte-behauptungen-ueber-covid-19-impfungen-und-todesfaelle/ 

米国CDCは、「米国史上最も厳しい安全性監視プログラム下にある」にも関わらず、COVID-19接種後の死亡報告は稀であるとしています。更に、これらの報告は、Health Feedbackが以前いくつかレビューで説明したように、必ずしもワクチンが健康問題を引き起こしたことを意味するものではありません。安全性監視のデータから、COVID-19ワクチンは安全であり、ワクチン接種後の重篤な反応は稀であることが示されています。

mRNA COVID-19ワクチンがSARS-CoV-2のスパイク・プロテインの「長期的な発現」を引き起こすことを示す証拠はない

PalmerとBhakdiは、ワクチンからのmRNAが体内で活性を維持し、SARS-CoV-2のスパイク・プロテインを永久に生成するという仮説を立て、COVID-19ワクチンの臓器への被害が疑われることを説明しました。

その仮説を裏付けるために、著者らはLund大学の研究者による研究を引用しています[1]。PalmerとBhakdiは、この研究が「ヒト由来の細胞はPfizer社のmRNAワクチンをDNAにコピーし、それを自身の染色体DNAに挿入することが可能」であることを示したと主張しました。加えて、このDNA挿入が遺伝子を傷つけ、癌や 白血病を引き起こす危険性があるとも述べています。

しかし、これは不正確です。Health Feedbackが以前のレビューで説明したように、引用された研究は、mRNAが我々のDNAを変化させるとは示していないのです。その代わりに、実験室で様々な量のPfizer-BioNTech製COVID-19ワクチンで処理した肝臓癌細胞は、より多くのLINE-1とワクチンmRNAの少なくとも部分的なDNAコピーを生成したことを示したのです。LINE-1は、逆転写酵素と呼ばれる酵素をコードする要素であり、RNAからDNAを生成することを可能にするものです。

この研究の著者らは、その結果に基づいて、ワクチンがヒトゲノムの完全性に影響を与える可能性があることを示唆しました。しかしながら、この研究では、逆転写されたDNAが、DNAが保存されている核に入ったことも、細胞のゲノムに統合されたことも示されませんでした。更に、実験室で成長する癌細胞は、人間の健康な細胞を代表するものではないので、この研究の結果を人間に外挿することは出来ません。

COVID-19ワクチンのmRNAが長期的に体内に留まるという考えは、科学的根拠のない俗説です。COVID-19mRNAワクチンは、SARS-CoV-2のスパイク・プロテインを生成するための遺伝子命令を筋肉細胞に送り込みます。こうして、将来ウイルスに遭遇した場合に、ウイルスを認識し、より迅速に反応するように免疫系を訓練するのです。しかしながら、ウイルスから身を守るのは、訓練された免疫システムからの反応であり、ワクチンそのものではありません。

ワクチンのmRNAは壊れやすく、遺伝子の指示を伝えると細胞内の機械によって急速に分解されてしまうのです。COVID-19ワクチンで生成されたスパイク・プロテインは、体内で作られる他のプロテインと同様に、最大で数週間は体内に残ると考えられています。

結論

PalmerとBhakdiの論文には、COVID-19ワクチンが死亡と因果関係があることを証明するものは何もありません。提示された全ての証拠は、誤った解釈をした研究結果や、信頼出来るとは思えない死者の組織の不十分な病理組織学的分析に基づいています。これに対して、安全性監視データの厳密な分析は、COVID-19ワクチンが高い安全性プロファイルを持っていることを示しています。

参考文献


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