バンドエイド話のレビューです。

以下の記事のレビューです:

【レビュー】

バンドエイドが癌を引き起こす、或いはバンドエイドには癌を引き起こす化学物質が含まれているという主張が、2024年4月初旬からSNS上で広まり始めました。TikTok動画がその一例で、現在までに44万8000回以上再生されています。また、Daily Mailの記事も「BAND-AIDSに癌を引き起こす永劫性化学物質が見出された」という見出しで同様の主張を展開しています。

この主張は、2024年4月2日に発表されたブログMamavationによる記事に基づくもので、18の異なるブランドから40の絆創膏を研究所に送り、「有毒なPFAS『永劫性化学物質』の兆候」を検査し、特に絆創膏の有機フッ素濃度を測定したと報告しています。

Mamavationは、検査された40種類の絆創膏のうち26種類に10ppmを超える有機フッ素が含まれており、全体として有機フッ素のレベルは11~300ppmであったと報告しています。

しかしながら、このテストは、バンドエイドやその他の絆創膏が癌を引き起こす、或いは癌を引き起こす化学物質を含んでいるという主張に対する十分な証拠にはなりません。

Science Feedbackが話を聞いた専門家達は、Mamavationが実施したテストの種類は非特異的であり、絆創膏が発癌リスクをもたらすかどうかの問題に対処するには不十分であると注意を促しました。彼らはまた、何千ものPFAS(「永劫性化学物質」とも呼ばれます)が存在し、特に2つの化学物質が発癌リスクに関与しているものの、全てのPFAS化学物質が同じ発癌リスクをもたらすと確実に仮定することは出来ないという事実を強調しました。以下で説明します。

PFASとは何か?、どのようにして人体に危害を及ぼす可能性があるのか?

パーフルオロアルキル類、ポリフルオロアルキル類(PFAS)は、人間が作り出した化学物質の一群です。この系列がどの程度の規模なのかは情報源によって異なりますが、少なくとも数千種類のPFASが存在するというのが、権威ある情報源の一般的な見解です。

欧州環境庁(EEA)の2019年の資料によりますと、PFASは「4,700以上の化学物質」で構成されており、米国環境保護庁(EPA)のCompToxデータベースは15,000以上の化学物質をPFASとしてカウントしています。PubChemデータベースは、2021年に経済協力開発機構(OECD)から改訂された定義を使用しており、PFAS系列の構成要素として700万以上の化学物質が含まれています[1]。

これらの化学物質は通常、フッ素原子に結合した炭素原子の鎖を含んでいます。炭素とフッ素の化学結合は、化学で知られる最も強い結合の一つであり、多くのPFASに撥水性や耐熱性といった優れた特性を与えています。こうした特性により、PFASは消火用発泡体から焦げ付きにくい調理器具、撥水性の衣類に至るまで、様々な製品に広く使用されています。

炭素とフッ素の結合の強さは、諸刃の剣であることが判明しました:炭素とフッ素の結合は、多くのPFASの望ましい特性の鍵である一方で、PFASが環境中に残留し蓄積する理由でもあります。PFASは生物にも蓄積されるため、これは人間の健康にも影響を及ぼします。

大部分の人は、食品、水、衣類といった日常品を通してPFASに曝されています(下の図1を参照)。しかしながら、PFASやPFAS含有物質を扱う仕事をしている人や、PFAS生産施設の近くに住んでいる人といった、特定のグループは、より高いレベルの曝露を受ける可能性が高くなっています。

図1-PFASへの曝露経路。
European Human Biomonitoring Initiative (HBM4EU)による原文を基に作成。

EEAはPFASを「新たな化学物質のリスク」と呼び、ある種のPFASが癌、生殖能力の低下、免疫機能の低下といった様々な健康問題に関連するという研究結果を挙げています。

同様に、米国有害物質・疾病登録局(ATSDR)のウェブサイトにも、血中コレステロール値の上昇、ワクチンに対する免疫反応の低下、妊娠による高血圧や子癇前症といった、PFAS曝露による潜在的な健康影響について数多く記載されています。

ミシガン州立大学PFAS研究センターの教授兼副所長であるDan Jones氏は、Science Feedbackの取材に対し、動物実験ではPFASへの曝露に関連したいくつかの癌の発生率の増加が示されていると述べています[2]。また、疫学調査では、ヒトの腎臓癌や精巣癌がPFAS暴露と関連していることが示されています[3-6]。また、肝臓癌[7]や白血病[8]との関連を発見した研究もあります。

しかしながら、PFASがもたらす健康リスクを研究する上での最大の課題のひとつは、これらの化学物質が非常に多いことです。健康への影響は、PFASの「ほんの一部」に対してしか立証されていません、とJones氏は述べています。また、研究では一般的に一度に一つの化学物質しかテストしない傾向がありますが、現実の世界では、人々は様々なレベルの様々なPFASに曝されています。

特にペルフルオロオクタン酸(PFOA)とペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の2つのPFASは、健康への影響に関して最も研究されている物質の一つです。

ストックホルム大学で汚染化学を研究するIan Cousins教授はScience Feedbackの取材に対し、PFASが癌を引き起こすという科学的根拠は、一般的にこの2つの化学物質に関係していると語っています。実際、2023年12月、国際癌研究機関(IARC)はPFOAをグループ1の発癌性物質に分類し、PFOSはグループ2Bの発癌性物質に分類しました。

非営利団体Cancer Research U.K.は、IARCの分類について次のように説明しています

IARCの分類システムは、ある物質が癌を引き起こす可能性があるかどうか(その「危険性」)を反映していますが、その物質がどの程度危険であるか(その危険度)を示すものではありません。

IARCは、PFOAをグループ1に分類することで、全体として、科学的証拠から癌を引き起こす可能性があることを示唆しています。だからと言って、同グループの他の物質と同レベルの危険性があるという意味ではありません。能動喫煙、副流煙、大気汚染もグループ1に分類さ れますが、リスクのレベルは全く異なります[...]。

PFOSは現在、グループ2Bに分類されており、これはPFOSが癌を引き起こす可能性の証拠がまだ確定していないことを意味します。これは、アロエベラやワラビシダといった植物と同じカテゴリーですが、やはり、(リスクがあるとしても)そのレベルは分かりません。

PFAS and cancer: what do we know about forever chemicals? - Cancer Research UK - Cancer News

PFASの環境と健康への影響に対する懸念から、各国政府はPFASの使用と生産を削減し、最終的には全廃することを目的とした規制措置をとるようになりました。例えば、PFOAとPFOSはいずれも、米国と欧州連合(EU)では生産されていません。しかしながら、その他のPFASはまだ数多く使用されています。

Mamavationの調査結果は、絆創膏が癌を引き起こすことを示す十分な証拠にはならない

Science Feedbackが話を聞いた専門家は、Mamavationの試験には極めて重大な限界があることを強調しました。具体的には、健康リスクを実際に特定するために、Mamavationは単なる有機フッ素レベルではなく、特定のPFASをテストする必要がありました。〔全文が科学者の発言により構成されている説明はこちらから]。

Dan Jones氏は、Mamavationの結果は「有害なPFAS化学物質の潜在的な存在を示す指標」にはなるものの、絆創膏から検出されたPFASが実際に発癌リスクをもたらすかどうかを確実に示すことは不可能である、と述べています。

これは、PFASが何千もの化学物質から構成され、その全てが同じ性質を共有しているわけではないという事実に帰結します。PFASの中にはリスクをもたらすものもあるが、「殆どは無害」なものもあると同氏は述べています。

そのため、絆創膏に含まれるPFASが発癌リスクをもたらすかどうかを理解するためには、具体的なPFASを特定する必要があります、とCousins氏は述べています。同氏は、Mamavationのテストは有機フッ素の含有量しか測定していないため、この主張には十分な証拠がないと結論付けています。

RMIT大学のOliver Jones教授は、Mamavationの有機フッ素濃度測定のみというアプローチは「あまり良い方法ではない」とし、具体的なPFASの特定が必要であったと述べています。

彼はまた、PFASは至る所に存在することから、PFAS試験におけるサンプルの慎重な取り扱いの重要性を強調しました。「サンプルを汚染しないよう、サンプルの採取と保管には細心の注意が必要です」、「もし注意が払われなかったとすれば、検出された有機フッ素の少なくとも一部が、他の発生源から絆創膏に付着した可能性も考えられます」、と述べています。

最後に、Mamavationの記事には、テストした絆創膏のサンプルの数についての詳細が記載されていないため、再現性の問題も提起しました。

「もし1つか2つのサンプルしかテストしていないのであれば、その種類の絆創膏の全てを結論づけるには十分ではありません」、と彼は説明してくれました。 「偶然PFASが含まれていたものをテストしただけの可能性もありますから、これだけでは、その種の絆創膏全てに同量のPFASが含まれていると結論づけるには十分な根拠とはならないと思います」、と述べています。

彼は、ある物質の毒性について議論する際には、投与量を念頭に置くことが重要だと強調しました。

「毒性学会の第一のルールは、『量が毒を作る』です」と彼は述べています。「水でさえも、必要な量であればどんなものにも毒性があるのです。問題は毒性があるかないかではなく、私達が曝露される量において毒性があるかどうかです」

PFASの偏在性と、大部分の人が既にかなりのレベルのPFASを体内に持っているという事実を考慮した場合、彼は絆創膏に含まれるPFASによる潜在的な健康リスクは 「非常に小さい」と考えています。

背景として、1999年から特定のPFASの血中濃度を測定している米国の国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey)では、2017年の一般集団におけるPFOAとPFOSの平均血中濃度は、各々1リットル当たり1.4マイクログラムと4.3マイクログラムであったと指摘しています。1マイクログラムは100万分の1グラムです。

「PFASを削減し、その影響についてもっと研究を進めるべきだと思いますが、切り傷に絆創膏を使うことを心配する必要はないと思います」と同氏は述べました。

Scientists’ Feedbackの和訳は別記事とします。

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