水道水中のアトラジンが原因で子供が自らを トランスジェンダーであると認識するようになったという証拠は何もありません。

【主張】

  • 水道水中のアトラジンが子供の「性同一性障害」を引き起こしている。

【評定概要】

  • アトラジンは米国で一般的に使用されている除草剤であり、環境保護庁は飲料水への混入量を規制し、潜在的な生態学的リスクや人体への健康リスクを評価しています。

  • ヒトを対象とした科学的研究では、アトラジンの暴露と性同一性障害との関連性は認められていません。いくつかの研究では、アトラジンは先天性異常やその他の生殖に関する健康問題に関連しています。

  • Robert F. Kennedy Jr.の主張は、オスのカエルがアトラジンに暴露された場合、一部のカエルは生殖能力を失い、卵巣が発達するという2010年のカリフォルニア大学バークレー校の研究結果に基づいているように思われます。ヒトとカエルの生態の違いから、これらの知見が人間にもそのまま当てはまるという訳ではありません。

【レビュー】

民主党の大統領候補である Robert F. Kennedy Jr.は、6月5日のポッドキャストでこのような持論を展開しました。

「子供達、特に男の子に見られる問題の多くは、私達が目にしている性同一性障害の多くを含め、その多くが化学物質への曝露に起因していることは、恐らく過小評価されていると思います」、 とKennedyはポッドキャストのホストで保守派のコメンテーターであるJordan Petersonに対して語りました。

このポッドキャストのエピソードは、ワクチンに関する誤った情報を共有したとしてYouTubeからは削除されましたが、クリップはTwitterやTikTokで拡散され続けているとのことです。

TikTokは真偽不明、誤解を招く、又は虚偽のコンテンツに対抗する努力の一環として、ポッドキャストから動画を同定しました。(PolitiFactとTikTokのパートナーシップについての詳細はこちら)。

専門家によりますと、「性同一性障害」は医学用語ではなく、Kennedyのチームにこの言葉の意味を明確にするよう求めたところ、返答はありませんでした。性同一性障害とは、人の性自認が出生時に割り当てられた性と一致しない場合に起こりうる苦痛の経験であり、トランスジェンダーによく見られます。

ポッドキャストでKennedyは、水中の除草剤アトラジンに晒されることで、一部の雄のカエルが雌の性器を発達させ、不妊になることを発見した研究に言及しました。彼の説明は2010年に発表された研究の詳細と一致しています。

「カエルがそうなるのであれば、人間もそうなるという証拠は他にも沢山あります」、とKennedyは述べています。 彼はその証拠となるような例を何一つ提示することはありませんでした。Kennedyは10日後、Joe Roganのポッドキャストでも同様の発言をしています。

しかしながら、カエルのカーミットには申し訳ありませんが、ヒトとカエルには生物学的に重要な違いがあり、アトラジンはヒトに健康上のリスクをもたらすかもしれませんが、アトラジンの曝露がヒトの性同一性障害に関連するという証拠はありません。

ケネディの研究チームは、コメントの要請に答えてくれませんでした。

アトラジンとは?

米国農務省によりますと、アトラジンとは国内で最も一般的に使用されている除草剤の一つです。1958年に初めて登録されたアトラジンは、広葉植物や草の光合成を阻害することで効果を発揮します。アトラジンは主に大規模農業で、政府から使用制限農薬の散布資格を認定された人々によって使用されています。

環境保護庁によりますと、アトラジンは連作作物からの流出水を通して飲料水に混入するということです。連作作物とは、とうもろこし、大豆、米、綿といった一年草の食用・繊維用植物のことです。

安全飲料水法に基づき、EPAは飲料水中のアトラジン濃度を規制しています。法的規制値は0.003ミリグラム/リットル、10億分の3です。

EPAがアトラジンに対して2018年に実施したヒト健康リスク評価では、「飲料水を含む全ての食事曝露源を評価した結果、懸念されるリスクは認められなかった」としています。EPAは、この除草剤で処理された芝生で遊ぶ子供達や 職業上の除草剤への曝露に対する潜在的リスクを指摘しています。

しかしながら、全ての人がEPAの評価に同意している訳ではありません。EUでは使用が禁止されており、生物多様性食の安全擁護する多くの団体がその使用に反対しています。連邦殺虫・殺菌・殺鼠剤法は、最新の科学に対応するため、EPAに定期的な農薬の再評価を義務づけています。2020年、アトラジンはリスク軽減策を更新して再承認されています。

この決定は、EPAが「実質的な証拠」を欠いたまま決定を下したとして複数の団体から訴訟を起こされていました。 EPAは決定の一部を再評価することを認められており、新たなリスク軽減策を提案しています。パブリックコメントの後、アトラジンに関する規制が最終決定される予定となっています。

アトラジンに関する懸念の中心は、体内のホルモンを乱す可能性にあります。ヒトにおけるアトラジンの曝露は、先天性 欠損症低体重児出産を含む生殖に関する健康問題に関連しています。また、この除草剤を使用する農家では、腎臓病喘鳴肥満度の上昇との関連性を示唆する研究もあります。

しかしながら、人間に対する研究では、アトラジンの曝露と性自認や性的指向との関連性は示されていません。

アトラジンとカエル

Petersonとのポッドキャストでの討論の中で、Kennedyはカリフォルニア大学バークレー校で2010に行なわれた研究と同じ結果について述べています。

「実験室でアトラジンをカエルで一杯の水槽に入れると、カエルは化学的に去勢され、強制的にメス化されます。 そして10%のオスのカエルは完全に生存可能なメスに変わり、生存可能な卵を産むことが出来るようになるのです」とKennedyは語りました。

この研究についてのkennedyの説明はほぼ正確で、最初に発表された時、この研究はかなり注目集めました。主席研究者のTyrone B. Hayes氏は『ニューヨーカー誌』に紹介されました。この研究に対する反応は、《Infowars》の右翼ポッドキャスター、Alex Jonesが「カエルがゲイになるような化学物質を水に入れるなんて気に入らない!」と叫ぶバイラルなミームも生み出しました。

更に詳しく知るために、PolitiFactはカリフォルニア大学バークレー校統合生物学部のHayes教授にお話を聞きました。

彼は、アトラジンの動物や人間への健康への影響について更なる研究を支持するとしながらも、今回のKennedyの主張については、「その関連性を示すデータはありません。

Hayes教授はまた、人間と両生類との主な違いについても説明してくれました。両生類も魚類も、「皮膚には比較的浸透性があります」、「そのため、低用量であれば、より多くの化合物を吸収する可能性があります」と彼は主張します。殆どの人は飲料水を通してアトラジンに曝されます、とHayes氏は述べました。皮膚や肺を介した曝露は、化学工業の世界では極当たり前なお話です。

アトラジンに曝された場合、人間は尿を通してアトラジンを容易に濾過することが可能です。カエルは排尿した水の中で生活するため、長期的な曝露を免れることが難しいのです。

Hayes教授はまた、両生類は魚類や爬虫類の一部と同様、性的により流動的であるとも述べています。

「遺伝的にオスのカエルにエストロゲンを与えると、卵巣が出来ます」、とHayes教授は述べてくれました。同じことが人間には当てはまりません。

Hayes教授は、ラットや マウスといった哺乳類におけるアトラジンの研究結果を示し、テストステロンの低下や生殖器の異常について懸念を示しています。テストステロンが低レベルになると、性欲減退、疲労、体脂肪増加、うつ病などの健康問題を引き起こす可能性があるが、性同一性障害やトランスジェンダーであることとは関係がないと専門家は指摘しています。

何故トランスジェンダーになる人がいるのか、何故トランスジェンダーや性別不適合であると自認する若者が増えているのか、専門家はまだ分かっていないと言っています。

「治療前のトランスジェンダーがトランスジェンダーでない人とホルモンレベルが違うというデータはありません」と、内分泌学者でマウントサイナイ・トランスジェンダー医学外科センターのエグゼクティブディレクターであるJoshua Safer博士は述べています。

《評定》

Kennedyは、水道水中の除草剤アトラジンが子供達の「性同一性障害」の原因になっていると述べています。

「性同一性障害」は医学用語ではないため、我々がこの用語の明確化を求めたところ、Kennedyのチームは回答しませんでした。 性同一性障害とは、人の性自認が出生時に割り当てられた性と一致しない場合に起こりうる苦痛の経験です。

アトラジンが人の健康、特に生殖に関する健康やホルモンに害を及ぼす可能性を示唆する研究もいくつかあります。しかしながら、アトラジンの曝露と性同一性障害とを関連づけたヒトを対象とした科学的研究は存在しません。

Kennedyが言及したと思われるカエルを使った2010年の研究では、アトラジンの暴露がカエルを女性化させる効果があり、遺伝的にオスのカエルに卵巣を発達させる可能性があるという証拠が見つかっています。しかしながら、生物学的な違いから、これらの研究結果を人間に対してそのまま適用することは出来ません。カエル研究の主任研究者によれば、Kennedyの主張を裏付けるデータは今のところないということです。

我々はこの主張を「偽」と評価します。

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