ゼロから分かる、参院選の比例代表 - 「そもそもどういう仕組み?」「なんで個人名の方が良いの?」
以前の記事では、女性の政治家が少ないことの背景とその一つの可能性としての比例代表という仕組みについて書いてきました。
今回は、その比例代表のそもそも仕組みの部分について、より詳しく説明します。そして、その上で現状の課題と、その現状に対してどういうことができるかについて考えてみます。
比例代表には大きな可能性がある!
まずお伝えしたいのは、比例代表には大きな可能性がある!ということ。当選のために必要であった”泥臭い男性社会的な地元活動”の必要性が薄まることで、実力本位の政治家が生まれる可能性があります。これが女性の候補者を増やすにあたっての一つの希望です。
そして、実際に女性の割合は「選挙区」と比較すると「比例代表」の方がわずかながら高くなっています。
そんな可能性を秘めた『比例代表』という仕組みですが、実態としてはその可能性をまだまだ十分には発揮できていないというのが現状です。この記事で、ぜひその可能性を感じ、あなた自身の投票にも活かしてほしいです。
結論から言うと、このキャンペーンにて何度も何度も書いているとおり「比例代表には個人名を書こう!」の一言に尽きますが、この点についてちょっと詳しく説明していきます。
ゼロから分かる、比例代表の仕組み
前提の話として、そもそもの参院選での投票について。
参院選で投票に行くと投票用紙を2枚渡されます。「選挙区」と「比例代表」の2つで、これからの話はこの2枚目の話。そして、この投票用紙には「政党名」と「個人名」のどちらでも書くことができます。
この点を理解していただいた上で、比例代表での当選者の決まり方について簡単に眺めていきましょう。
① 政党単位での集計
『政党名が書かれた投票用紙(政党票)』と『個人名が書かれた投票用紙(個人票)』を、『政党単位』で集めて集計します。
たとえば「自由民主党」と書いてあっても「岸田文雄」と書いてあっても全部これらを「自由民主党」の票としてまずはカウントする、ということです。
上の図の例だと、
A党としての得票数:政党票20票+個人票10票=30票
ということ。B党だと同様に20票。
② 政党への当選者数の割り当て
次に、『政党単位』で集まった票の数に応じて、政党ごとでの当選者数を割り当てます。
この図の例だと
全体の当選者数(ダルマの数)が 5
A党が30票
B党が20票
なのでそれぞれ
「3人」と「2人」
が割り振られることになります。
※ちなみに、今回の参院選での当選者数は「50」なので、この「50」という数を全ての政党で奪い合う形になります。
この段階ではまだ『政党単位』での当選者の数しか決まっていません。
誰が当選するのかを決めるのは次のステップ。
③ 候補者の順位付け
政党単位での当選者の数の割り当てが決まったら、次に政党内での当選のための優先順位付けを行います。
この優先順位の決め方は「個人票」の数。「政党票」はもう使われません。
もちろん、たくさんの「個人票」を獲得した人が優先順位が高くなり、当選しやすくなることになります。
④ 政党内での当選者の割り当て
政党内での「個人票」の数での優先順位が決まったら、最後に政党ごとの当選者数を順位の上からに割り当てていきます。
A党であれば割り当てられた当選者数は3なので上から3人が当選、4番目の人は落選ということになります。
以上が、比例代表での当選者の決まり方の流れです。
結局、なんで「個人に投票するべき」なの?
この説明分かりました?
何となく流れは分かったかもしれませんが、これだけだとなぜ「個人に投票するべき!」というところに行き着くのか分からない方もおられるかもしれません。リアルでも「やっぱり分かんねーよ!!」と言われることが多々あります。
ということで、この部分をしっかり分かっていただくために、もう1つの説明を考えてみました。
比例代表は「2つの選挙」?
比例代表の仕組みはなかなか理解することが難しいのですが、これはどうしてなのだろうと考えてみて、
「どの政党を選ぶか」と「どの人を選ぶか」
という2つのことを1枚の投票用紙で行うためではないか? と思い至りました。
これを示したのが下の図。
「どの政党を選ぶか」というのは先ほどのステップの「② 政党への当選者の割り当て」の部分で、これを政党「間」での選挙と仮に呼びます。
もう1つの「どの人を選ぶか」というのはステップの「④ 政党内での当選者の割り当て」の部分で、これは政党「内」での選挙とします。
比例代表を、この2つの選挙が組み合わさっているという構造で捉えると「政党名ではなく個人名を書いた方が良い」ということが理解しやすくなるように考えています。以下、それぞれの投票パターンでどうなるのかを整理してみます。
「政党名」を書く場合
政党名で投票する場合、あなたが参加するのは政党「間」での選挙のみ。どの政党が良いかを選ぶだけ。
これは要するに、その政党にいる候補者の中で誰が当選するべきかについては「誰でも良いよ!」と表明する、ということです。
実際に誰が当選するかは、個人票を投票した人たちの投票結果によって決まります。
政党名で投票する場合、あなたは政党「内」での選挙に参加することはできません。極端な話、過去に差別的な発言をしていたおっさん、何のために立候補したのかよく分からない元タレントであったとしても文句は言えないわけです。
「個人名」を書く場合
一方で、個人名で投票した場合は具体的な個人に投票することになるので、政党「内」での選挙に、もちろん参加することになります。
また、その個人はどこかの政党に所属していますので、間接的にその政党にも投票することにもなります。つまり、政党「間」での選挙にも参加できます。
このように、「個人名」を書く場合には比例代表の中にある2つの選挙のどちらにも参加することができるのです。
あなたの声をより強く反映するためには?
これを整理すると、以下の表のようになります。
これまで書いてきたことの繰り返しですが、「政党名」に投票する場合には政党「内」の選挙、すなわち「どの人を選ぶか」というプロセスには関わることができません。一方で、「個人名」に投票すれば、どちらの選挙にも参加することができます。
このように考えると、あなたの声をより強く反映させるためには、「個人名」で投票するべき、ということが理解いただけるのではないかと思います。
「絶対にこの人に当選してほしい!」と熱烈に思える候補者がいる人は決して多くないですが、各候補者のwebサイトやSNSでの発信を覗いてみると「ちょっとこの人はツラいな」「この人はちょっと良いこと言ってる」くらいのレベルでも感じられる部分はあるかと思います。その声を反映させるためには「個人名」がオススメです。
実は、ぜんぜん利用されてない「個人票」
これまでは比例代表の仕組みの面からあなたの声を投票に反映させるためには「個人票」で投票するべきということを書いてきましたが、この仕組みが効果的である理由がもう1つあります。それは、
認知度があまりに低くてほとんど利用されていない
ということです。
政党票と個人票の割合
実は前回の参院選で「個人票」を入れたのはたったの25%。
これは何を意味するかというと、投票者数全体のわずか25%の人たちの「個人票」によって、誰が当選するかという優先順位が決められているということです。
言い換えると、誰が当選するべきかについて残りの75%の人たちは他の人たちにお任せしちゃってる、ということでもあります。
個人票の少なさがもたらすもの:組織型候補
この結果として生じているのが何かというと、この仕組みをよく知っている人たちによる選挙ハック。郵便局や農協、業界ごとの労働組合といった組織が自分たちの業界の代弁者を国会に送るために組織的に特定の候補者に対して投票することが行われていると言われています。
その分かりやすい例とされるのが2019年の参院選で言うと、つげ芳文氏。彼は肩書きに「元全国郵便局長会会長」とあるように郵便局関係の業界から支持され、ご本人の知名度は決して高くないものの60万票という自民党の中での最大の個人票を集めています。
そんなつげ氏のwebサイトはこんな感じ。思いの冒頭から出てくるのは郵便局、そして画像にもそれは反映されています。
2019年の参院選の当選者をざっと見た限り、つげ氏のように明確に肩書きにも支持組織が記載されている人たちがそれなりにいます。自民党で言うと、山田敏男氏は元全国農協中央会専務理事など。
この傾向は、もちろん自民党だけではありません。こちらは立憲民主党。得票数トップの岸真紀子氏は「自治労特別中央執行委員」という肩書きで、他にも比例代表の上位5位までが何らかの組織の肩書きのある人たちがずらりと並んでいます。
支持組織っぽい肩書きがプロフィールに入っている人を拾っただけでの数字でこの程度。実際には肩書きにはないけれども組織的な支援を受けているケースもあると思われるので、これが全てというわけではありません。
ざっと目についた団体は以下のようなところ。
個人票の少なさがもたらすもの:タレント候補
もう1つ、個人票の少なさがもたらすものはタレント候補。過去に俳優やアーティストなどをやっていた人が立候補するパターン。本業をやってたときの知名度がある分だけ多くの人に知られていることから、実績や能力などは置いておいて起用されることが多々あります。
2019年の参院選では俳優の山本太郎氏がれいわ新選組を立ち上げて自身も立候補し、個人票の得票数圧倒的トップである99万票を集めました。この他、元格闘家である須藤元気氏は立憲民主党から立候補して当選。ちなみに同じ立憲には元モーニング娘の市井紗耶香氏、元RAGFAIRの奥村政佳氏もいましたが、これらの方は落選しています。とはいえ、あと少しで当選という惜しいところに位置しており、知名度の高さの効果を実感させる結果となってます。
2016年の参院選では、元SPEEDの今井絵理子氏が32万票程度を集めて当選しています。今井氏は今回の選挙にも出ていますし、この他に自民党からは元おニャン子クラブの生稲晃子氏が今回は立候補しています。
生稲氏は候補者向けのアンケートへの回答で資質について疑問を持たれるようなドタバタがありつつも東京選挙区での情勢報道ではほぼ当確扱いで、タレントパワーの強さを見せつけています(もちろん、背景に自民党の組織力はありつつも)。
だから、比例代表には女性名を書こう!
随分と長くなりましたが、このような背景の上で今回の「#女性に投票チャレンジ」キャンペーンの意義があります。
女性の議員は少なくて、その背景には女性が政治に参加しにくいという現状があります。一方で、比例代表はこれまでの泥臭い選挙戦を一変させ、これまで選挙に関わることが難しかった候補者を増やしうる可能性を持った仕組みですが、実際にはあまり活用されていません。
この「女性が政治に参加しにくいこと」と「比例代表の仕組みが生かされていないこと」をつなげて、ポジティブ・アクションとして比例代表の投票には女性の名前を書こう! というのが本キャンペーンが目指しているところです。
最後に
この記事では、比例代表のそもそもの仕組みから我々の「#女性に投票チャレンジ」キャンペーンが目指すところまでを書いてきました。冒頭に書いたとおり、一言で言えば「比例代表には個人名を書こう!」なのですが、その背景にはこういうことがあるのでこのあたりに関心をお寄せいただけると個人的には嬉しいです。
以下の記事が、この記事の続きです。実際にどの程度の人が個人名を書いたら選挙結果が変えられるのかについてのシミュレーションをしてみました。わずか0.13%で当選結果は変えられる??ぜひこちらの記事もご覧ください。
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