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新しい仲間がやってきた!

 春は出会いの季節です。4月4日に城西大学でも無事に入学式が執り行われ、男子駅伝部にも新しい仲間が多く加わりました。 

 私の指導者の原点を振り返った時、ターニングポイントになった瞬間がいくつかありますが、高校2年生で初めて出た国際大会の世界クロカンはとても衝撃的でした。ノルウェーのスタヴァンガーで行われた大会は、前日の雨のせいで足がすっぽりと埋まってしまうようなぬかるんだコース。とても走りづらく、私が苦戦している中、アフリカ系の選手たちは驚くようなスピードで走っていったことに大きなショックを受けました。そして大学入学後に出場した世界ジュニア(今のU20世界選手権)ではトラックでも圧倒的なスピードを見せつけられ、彼らの強さを思い知らされました。

 日本国内では彼らは勝負の対象でありライバルでした。山梨学院大に留学生として来ていたジョセフ・オツオリさんやステファン・マヤカ君は勝たなければいけない相手であり、箱根駅伝は特別視することなく、将来への一通過点だと当時の早稲田大学の指導者であった瀬古利彦さんから教え込まれました。チームメイトの武井隆次、花田勝彦、渡辺康幸らも同じ考えのもとに切磋琢磨していた頃です。彼ら留学生に勝ちたいという思いと同時に、高地トレーニングに興味を持ち学ぶきっかけになりました。私たち日本人が住んでいるところから2000m以上も高い環境で生活し、トレーニングしていたからです。社会人になってからも国際大会や海外合宿の経験を積むことができましたが、高地環境での生活の機会には恵まれませんでした。その思いを捨てきれず29歳を過ぎた頃、所属先を辞めて、エチオピアやアメリカの高地へ訪れました。特にエチオピアでは彼らの人生を懸けた競技に対する姿勢、特にハングリーさに圧倒されたことは今も鮮明に覚えています。しかし新たなトレーニングに取り掛かるには、年齢的に少し遅すぎたようにも感じました。

1993年日本インカレ10000メートル 写真/陸上競技マガジン


 時が経ち、高地トレーニングがより身近になった今では日本にいながらも人工的に高地環境を作り、低酸素トレーニングの実践できます。今ででこそフィットネスクラブや実業団チームが導入していますが、2012年頃は低酸素の研究は進んでいたものの、現場では活用している人はほとんどいませんでした。そもそも低酸素環境がつくれる施設は、大学の研究施設に研究用のトレッドミルやエアロバイクのみといった具合です。個人で購入するにしても、ポータブルの低酸素機で睡眠時に低酸素曝露による効果を目的としたものでも高額であり、利用するにはそれ相当の知識がないと続かないため、活用する人はほとんどいませんでした。そこで私は自作で低酸素環境を作り、低酸素トレーニングを追求するようになりました。作る過程において、運動の呼吸による二酸化炭素の処理や湿度の管理などが難しく、様々なトラブルがありましたが、今ではいい思い出です。苦労の甲斐があって山口浩勢や村山紘太、後に砂岡拓磨などが利用し成長してくれたことによって低酸素トレーニングの効果を証明してくれる形になりました。これからも現状に甘んじることなく、さらに進めていけばきっとアフリカの高地でトレーニングしている選手らに近づけるのではないかと期待も抱いています。

  指導者となって20年がたちますが、時代の変化とともにトレーニングも変わり、日本社会もグローバル化していきました。城西大学でも多くの留学生が学んでおり、今やキャンパス内は国際色豊かです。ただ私は新しいものへの関心が高く、変化を前向きに受け入れるようにいるのですが、選手として留学生を受け入れることに対してだけは保守的な考えを持っていました。アフリカ勢と戦えるようになりたい一心で、自分たちで考え、工夫することで選手を強くできると思っていたためです。

 しかし低酸素トレーニングを始めるようになって10年。先ほど挙げたような選手がオリンピックに出るなど結果を残し、軌道に乗ってくる中で、「もし、高地出身者が日本の環境にいながら低酸素トレーニングによって元々持っていた能力を失わず、向上させられないだろうか」という興味を抱くようになりました。

 そして偶然にも20年前の教え子から紹介を受け、ヴィクター・キムタイ君というケニアからの留学生を受け入れることになりました。エリウド・キプチョゲ選手をはじめとしてケニアの中でも世界的な選手を輩出しているカレンジン族です。日本への興味が非常に強く、インテリジェンスに富んだ性格もいい素敵な青年です。

  いうまでもなく多くのケニア人ランナーは、高地での成果とトレーニングは当たり前の環境です。日本のような標高の低いところでは気圧の関係でケニアよりも酸素濃度が約5%増える換算になるため、同一速度で行った場合では呼吸が容易に感じられ、これまで以上の速度で維持できるなど、高いパフォーマンス発揮が可能になります。初期、中期的に考えれば、従来のトレーニングよりも強度の高い(走速度が速い)トレーニングを行うことで、筋、神経機能にこれまで以上の刺激を入れられ、筋が発達していく傾向にあると考えられます。

 しかし長期的に考えれば、逆に低地の環境に順化して、本来持っていた優れた酸化能力などが失われて成長は鈍化していく可能性があります。これらを回避するためには、低酸素環境によるトレーニング刺激を適宜行うことは有効だと考えています。

 彼を指導することで私も学びや発見が多くあるのではないかという期待もあります。彼らはなぜ速いのか。秘密を探りながら彼をワールドクラスへ導きたいと希望をもっています。かつて私が経験した刺激を部員たちにも感じ取ってもらい、成長に繋げて欲しいと願っています。

 今まさに城西大学男子駅伝部は新たなフェーズに突入しようとしています。

今年は15名の新入生が入部しました

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