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ロッテ・佐々木朗希は「メジャーに行くのは早い」という意見の愚かさ。

 千葉ロッテの佐々木朗希にポスティングによるメジャー挑戦の可能性があるという報道が出た。僕も10月末ごろにそんな噂を耳にしていたから、動き出したのかなと思った。

とはいえ、報道は全社によるものではなかったから、ポスティングの提出締め切りを待つしかないのだろうと思う。そこで、結果は判明するだろう。

ただ、こうしたニュースは実はそれほど珍しくない。その年は噂されていなかった選手の”ポスティングニュース”は意外に多かったりする。実は昨季も、山本由伸がポスティングされるかもしれないというニュースはあったのだ。

なぜ、そのように振って湧いてくるかのように出てくるのだろうか。今日はその点を解説したい。

やや早いタイミングでの「メジャー挑戦」のニュースが流れると、こんな意見がささやかれる。

「まだ、何もしてない。活躍してから行くべきだ」
「優勝に導いてから挑戦するのが筋というものだ」

といった意見だ。そう言いたくなる理由は分からない訳ではない。

そもそもポスティングという制度は選手の権利ではない。選手と球団の両者の思惑が一致して発生する制度だと言っていい。元々、球団は選手の保有権を所持している。それはフリーエージェントにならない限りは自由にならない。

選手の希望だけでポスティングが実現できる訳ではないのだから、説得力のある形で「メジャー挑戦を口にすべきだ」という意見は分からない訳ではない。

けど、いつの時代の話をしているのだとも言いたい。

よくよく考えていただきたい。
メジャーリーグの扉を実質的に拓いたのは野茂英雄さんだ。
1995年のことだから今から何年前の話だろうか。30年近くだ。

僕は高校生の時だった。それからメジャーへの門戸は開かれ、多くの日本人選手が海を渡った。

つまり、今、日本でプレーする選手の多くはメジャーリーグでプレーする日本人の姿を当たり前のように見ている。メジャーは夢ではなく、いずれはたどり着くであろう就職先なのだ。

メジャーリーグに挑戦する日本人選手は大きく分けて二つのタイプが存在すると思う。

一つはそもそもメジャーを目指してNPBに入ってきた選手。
もう一つはNPBでトップになったことによってさらに上を目指したくなった選手だ。

二つ目が多くを占める。最近はWBCなどの国際大会もあるから、そう思う選手は増えてきているだろう。

ただ、前者もそう少なくはない。

大谷翔平がそうだし、彼の先輩である菊池雄星、筒香嘉智、吉田正尚もその部類だ。口にはしないけど、今もNPBでプレーしながらメジャーに行くことを前提とする選手はいるはずだ。

それは甲子園球児が目標とする選手にメジャーリーガーを上げるようになってきている現状を見てもわかるだろう。

いわば、時代の変化とともに、選手の目標も変化してきているわけだ。

となってくると、問題はどのタイミングでメジャーに挑戦するかだ。

多くの人は「成績」を材料にしたがるけど、僕はそうじゃないと思っている。

モチベーションだ。
これからも日本でやっていこうと思えるか。自分を高める舞台としてここが正しいと思えるかどうか。そこじゃないか

メジャーリーグの環境が施設を含めて、指導法やチーム内での関わり合い。居心地はアメリカの方が良さそうだと知ってしまった選手たちであれば、なおさら、気持ちはアメリカに向くであろう。

僕はブルージェイズの菊池選手を日本時代に手厚く取材していた。
彼が日本でのプレーが最後となった2018年、チームはリーグ優勝を果たしたが、日本一に輝くことはできなかった。

「やり残したことがあるのではないか」

当時、そういう質問をする記者も数名いたが、僕は、そういう問題じゃないんじゃないかと思った。

ある日、TIKTOKを見ていたら、サッカー日本代表の吉田麻也選手、板倉滉選手などが雑談をしていた。その中で、「海外挑戦をするタイミング」の話になり、吉田選手が「Jリーグでレギュラーとしてプレーすると、体調がすぐれない中で試合に出る時がある。その時に、7割くらいのプレーレベルでなんとなくやれちゃう時が来る。それが欧州に行くタイミングだ」という話をしていた。

要するに、選手が6、7割、もっといえば全力を出さなくてもやれてしまうと感じてしまった時点で、モチベーションは減退していると僕は思う。そんな自分を変えるには環境を変えるしかない。

よくよく考えてみるとわかるのだけど、大谷翔平にしても、ダルビッシュにしても、松坂大輔にしても、確かに、彼らは成績を残してはいたが、だからメジャーに行ったかというとそうではないんじゃないか。

ダルビッシュがメジャー挑戦が決まった時の記者会見で言ってましたよね。
正確な言葉は思い出せないけど、

「シーズン中に対戦する相手チームから『今日は打たせてよ』とかそういうことを言われたのがメジャー挑戦のきっかけ」

というような話だったと思う。
つまり、みんなモチベーションが保たれない。今のままじゃ敵わないんじゃないかという場所に身を置くことで、自分をもう一回り成長させたいからメジャーに挑戦しているのだと思う。

だから、成績は関係ない。
「チームを優勝に導いてから行け」というけど、野球はチームスポーツ。一人で優勝できるはずがない。

ただ、一つ重大な問題がある。それが、先にも書いたように一度NPBに入ってしまうと、球団の保有になってしまうという事実だ。

佐々木朗希について、ここで問題にすべきは、その先手を打っているかどうかだ。

先手とはプロ入りする前の入団交渉だ。

佐々木はああ見えてクレバーな男だ。18歳の高校生にはそれはできないと思われるが、今時、プロ入団前に条件を突きつけてくる選手も少なくない。

ある代理人の話によれば、
「日本のルール上、一番選手が強気に出られるのは『相手が来てほしい』と懇願するプロ入団前だ。特にドラフト上位の選手はその機会しかない」

だから、この問題、議論すべきは「成績云々」の話ではない。
早いか、遅いかの問題ではない。

佐々木朗希は果たして先手を打っているのかどうか。
入団交渉の際に、条件をつけて、入っていたとしたら、この事態は急展開するかもしれない。

議論すべきはそこなんじゃないかなと思う。



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