お祭り騒ぎの裏には、必ず孤独の顔が隠されている

拒否の中でも、心をダメにするという点で、おそらくこれほどひどい拒否はないだろう。
専属の乳母がついているというのに七日間も気がつかない。
これは悲惨だ。
赤ん坊が揺りかごから消えても、不思議ともなんとも思わない大人たち。
心はめちゃめちゃにされ、孤独という西風が彼らを吹き払い「ないない島」に追い散らしてしまう。
若さがあるから耐えられるようなものの、普通の大人なら完全にノイローゼになってしまうだろう。
ピーターパンはその状況を生き抜いた。
「ないない島」で目を覚ました彼は、孤独にも負けず、パニックにも陥らなかった。
彼と同じ運命の子どもたちがまわりにいるのを見て、悲惨を勝利へと逆転させたのだ。
迷い子少年たちを軍団にまとめあげ、最悪の形で親から拒否されたという共通点を絆にして、ひとつの連帯意識を芽生えさせることに成功した。

そして、人付き合いが怖いピーターはキャプテンにおさまった。
持って生まれたリーダーの資質をフルに発揮し、他の少年たちのために存在理由を見つけてやった。
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さて、そうして連帯感やグループ・アイデンティティ(集団同一性)を持ったにもかかわらず、ピーターと彼の仲間たちは、みんな孤独で淋しくてたまらない。
それを克服するために、悪夢を空騒ぎに変える。
子どもたちはいたずらっ子になることで、自分たちの孤独を陽気さと手品でカムフラージュしようとする。
ピーターが笛を吹くのも、同じ理由による。
クラスにかならず一人はいる道化役は、表面は陽気だが、ほんとうは違う。
『ピーターパン』の著者バリーは、ピーターの性格には孤独が深刻な役割を果たしていると述べている。
ピーターが底の浅い人間だということは、これまで繰り返し指摘してきたが、彼のお得意は自分に都合がいいように態度をたちまち変え、魔法によって変身することだ。

それと、他人が心配したり、気づかってくれるのを知ると、同情を引いて思い通りに相手を動かそうとしたり、無関心を装って出鼻をくじいたりする。
なんとかして逃れようとするのだが、ピーターはいつになっても孤独の虜だ。

私たちは皆、孤独を経験している。
人それぞれの感じ方があるだろうが、重苦しく、灰色の日々がいつまでも続く、そんな気分だ。
ある人は、体の中にぽっかり穴が開いたような空しさを覚えるかもしれないし、別の人は、自分が取るに足らないちっぽけな存在で、風邪の吹くままにどこにでもころがっていくゴミみたいに思うかもしれない。

人の温もりが欲しく、どんな不便を耐え忍んでも、人のそばにいたがる人もいる。

とくに、最後のタイプはティーン・エージャーに多い。
彼らは、まだ孤独を詩的に解釈するほど大人になっていないから、淋しさをそのまま感じて、気をまぎらわせてくれる人とのふれあいを求める。
そのために高い代償を払うことがあっても苦にしない。
「不安」と「無責任」に加えて、家庭の中で「孤独」を感じ始めるとピーターパンシンドロームの基本症状がほぼそろったことになる。
父親から疎外され、母親に怒りと罪悪感を感じ、自尊心をどんどんなくしたら、家族に所属感が持てないという絶望的な感覚に取りつかれるのもすぐのことだ。

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