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いわゆる「三光作戦」に係る主張に対する今流行りのファクトチェックみたいなもの(笑)

日本軍が華北の中国共産党軍及び農民を対象に「焼き尽くす」「奪いつくす」「殺し尽くす」という方針に基づき、無差別な大量虐殺と略奪を繰り広げた「三光作戦」というものがあった、という中国の主張がありますよね。
本邦でもその主張に乗っかった主張を見ることが過去には多かったのだが、最近はあまり見ない。でも性懲りもなくグダグダ言ってる残党みたいなのは残ってる。まあ、日本共産党なんですけどね。
中国共産党が解放した抗日拠点地に対して掃討作戦をして、そのあまりの残虐さに云々、と。

で、その残党さんの主張をいくつか確かめてみる。
主張1 日本軍は「燼滅作戦」という作戦を行っており、これは根拠地になっている集落の中の共産党軍の利用する施設だけを破壊するのではなく、全集落を跡形もなく焼き払う。また、今はまだ根拠地となっていない集落も焼き払う。共産党軍が根拠地を置けない様に、全集落を住民ごと跡形もなく消滅させ、共産党軍が生存できない様にするものである。

で、作戦計画等を確認してみた。
日本軍の作戦は、共産党軍を急襲し、それを追撃して退路を遮断して撃破し、その後残敵の掃討に移行し、最終的に共産軍の拠点を破壊する、という対ゲリラ戦の教科書どおりのもの。

岡村寧次北支那方面軍司令官の晋察冀辺区粛正作戦開始にあたっての訓示「晋察冀辺区粛正作戦開始ニ方リ作戦参加将兵ニ與フル方面軍司令官訓示」(昭和16年8月16日)には住民の虐殺や略奪を命じる部分はない
そもそも、岡村寧次って規律が弛緩した北支那派遣軍の司令官になって、「焼くな、犯すな、殺すな」という三戒(3つの禁止)をスローガンにして規律の立て直しをした人なんで、そんなもん命じるわけがないよね。(大笑い)
また、この作戦に参加した第1軍作戦計画「第一作戦計画 晋察冀辺区粛正作戦計画」(アジ歴C11110992000)第2項指導要領の6には、「敵地区の住民に対しては本作戦の真意を知らしむるの他、各種宣伝宣撫工作を併用して匪民(ゲリラと一般人)分離を図る」とあり、無辜の一般人と共産軍を分離する旨が明記されており、住民の殺害や略奪を命じる箇所は存在しない

主張2 作戦計画や命令で虐殺や略奪の禁止を明示していないことは、暗に虐殺や略奪を命じるものである。

えーと。
基本的なことから。
作戦計画は命令作成の基礎となるものであり、その計画に基づいて部隊は行動するわけでございまして、計画に書かれていない行動を暗に命令・指示する作戦計画などございません。そんなことをしたら「暗に指示したはずのこと」をやらない部隊がでてきてしまいます。命令を実行しない、という行為は軍隊では「抗命」と申しまして、作戦行動中の抗命は陸軍刑法第57条に死刑・無期または十年以上の懲役と定めのある重罪でございます。ところが、命令書に記述されておらず、「暗に命じている」だけならその部隊の責任は追及できません、その一方で命令が実行されないと指揮官の構想は実現できなくなります。そんな命令出すわけありませんね。軍の作戦行動が成立しませんから。
常識以前の問題ですが、一応確認。

晋察冀辺区粛正作戦の一年前、昭和15年夏から秋にかけて行われた共産党軍の討伐作戦「晋中作戦」の記録を見てみましょう。
第1期晋中作戦戦闘詳報 (第12号) 自昭和15年9月1日至昭和15年9月18日 独立混成第4旅団』(アジ歴C11111403800)
本作戦実施にあたり、独立混成旅団長の片山省太郎少将は、「討伐隊ニ与フル注意」という指示を文書で出しております。(上記史料15コマ目)
この指示において、指揮官である旅団長は指揮下部隊に対し「(敵の根拠地であることが明白な地域の焼き討ちを行う場合においても)虐殺略奪等に類する行為は厳に戒めるを要す」と一般住民の虐殺やその財物の略奪を明確に厳禁しております。
また、同戦闘詳報においても、住民の虐殺等を報告する部分は一切存在しない

主張3 片山少将の注意は部下に判断を丸投げしただけで、厳罰に処すると言っていないから虐殺も略奪も禁止していない。暗に虐殺や略奪を示唆している。

もう、何をかいわんやですが、一応国語辞典と関係規則を確認。
まず、国語辞典
「厳に」[副]きびしく。厳重に。きつく。
「戒める」[動マ下一][文]いまし・む[マ下二」してはいけないと命ずる。禁止する。「肉食を―・める」
「要す」[動サ変][文]えう・す 必要とする。なくてはならないこと。どうしてもしなければならないこと
厳重に禁止しなくてはならない」どこにも部下の判断なんか求めてないですよね。小学校4年生レベルの国語の問題です。
指揮官が「やるなよ!絶対やるなよ!」と言っているのが暗に「やれ」という意味になる軍隊とは「押すなよ!絶対押すなよ!」というセリフが「押せ」という意味になるダチョウ倶楽部みたいな組織だったとでもいうのでございましょうか?
そんなわけありませんね。問題外です。

次、規則。
厳罰に処すると言っていないから禁止していない。規則が禁止していれば別に言う必要ないですよね。「作戦中に勝手に実家に帰ったら厳罰」とか「作戦中に嫌いな指揮官の頭に銃を向けて引き金引いたら厳罰」なんてことも書かれていませんし。
何故かって?規則で禁止と罰則が定められているから。
で、どの規則?と申しますと。
陸軍刑法第9章第86条「戦地又ハ帝国軍ノ占領地ニ於テ住民ノ財物ヲ略奪シタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ処ス」(アジ歴A03020745299)
俘虜取扱規則第2条「俘虜ハ博愛ノ心ヲ以テ之ヲ取扱ヒ決シテ侮辱虐待ヲ加フベカラズ」(アジ歴B02032474300)
陸軍懲罰令第一条「陸軍軍人ニシテ其ノ本分ニ背キ軍事ノ定則ニ違ヒ其ノ他軍紀ヲ害シ風紀ヲ紊リ陸軍刑法ノ罪ニ該ラサル者アルトキハ本令ニ依リ之ヲ懲罰ス」(アジ歴A15113689800)

で、集落を焼き払った?
それが何か?
ゲリラの村を住民の住居もろとも焼き払うって、1983年の「特定通常兵器禁止制限条約」の議定書Ⅲの発効まで合法だったんですよね。なんなら住民ごと焼き払っても必ずしも違法ではなかったわけですよね。
皆さん映画で見るでしょ?ベトナム戦争でアメリカ軍がナパームでベトコンの村を住民ごと焼き払うの。あれ、合法だったんです。
つまり、1940年とか1941年の時点で、ゲリラの村を焼き払う作戦って全く合法の軍事行動だったわけでございます。
ちな、日本軍は「ゲリラと住民の分離」「住民の虐殺・略奪を厳禁」して住民ごと集落を焼き払うようなマネは命じておりません。

焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書III;1983年発効)
文民及び民用物をナパーム弾等の焼夷兵器による攻撃目標とすること,人口周密地域にある軍事目標を攻撃目標とすること等を禁止している(部分的な使用規制)。

主張4 共産ゲリラはヒットアンドアウェイ戦法を使うから日本軍には捕捉されない、日本軍が掃討したのは共産軍が逃げた後の農民しかいない

いや、第1軍作戦計画「第一作戦計画 晋察冀辺区粛正作戦計画」(アジ歴C11110992000)で明確に「封鎖線を作る」「封鎖線の中の敵を探して撃破する」って言っているので、共産党軍をガッツリ捕捉する計画でございますよ。で、共産軍の不意を突くために急襲をするわけですし、当然戦場には逃げ遅れた敵兵や、隠れて日本軍がいなくなるまでやり過ごそうとする敵兵は出ますの。
そういう残敵を敵主力の撃破が終わってからゆっくり始末する、というのがこの作戦でございます。
で、実際上記作戦の成果報告「第1軍作戦経過の概要(晋察冀辺区粛正作戦)第5 作戦の成果」(アジ歴C11110992300)で敵兵の遺棄死体や捕虜、鹵獲兵器、押収した弾薬などの物資等が報告されとりますんで、共産軍は捕捉されております。はい。
まあ実際の作戦は第1期作戦経過の概要(アジ歴C11110992100)及び第2期作戦経過の概要(アジ歴C11110992200)にあるとおり、敵主力は日本軍との戦闘を避け、あちこちに逃げ散らばってしまったので、共産軍主力を撃滅することはできず、逃げ遅れた敵の掃討やその施設の破壊に留まったので、作戦自体は失敗ではあったものの、660名の共産軍ゲリラの遺棄死体を確認しておりまして、共産軍はいなかった、なんてのも「ウソ」でございます。

主張5 独立混成第4旅団の第1期晋中作戦戦闘詳報の第6項「将来の参考となるべき事項」(アジ歴C11111396800)の第3には、「燼滅ナルモ重要書類ノ押収、敵ノ事情調査ニ有利ト認ムル男女ノ生擒ハ勉ムベキモノナリ」とあり、情報価値がない男女は皆殺しにしたのだ!

まあ、この文言だけ拾い読みすればそう取れなくもないんだがーw
主張3の解説にあるとおり、本作戦にあたって独立混成第4旅団長の片山少将は虐殺や略奪を厳禁(アジ歴C11111403800 15コマ目)しているので、情報価値がない男女は皆殺しにする計画だった、などとは読めないのよね。
さらに、「将来の参考となるべき事項」(アジ歴C11111396800)第2には、「燼滅ニ方リ苦力等の略奪強姦等軍紀ヲ紊スモノアリ厳ニ留意ヲ要ス」と作戦中に略奪と強姦が発生したことを反省材料としている。
略奪(苦力の略奪とは肉体労働者の拉致)や強姦をしてはならない、ということが反省材料になるということは、当然のこととしてそれ以上の罪にあたる虐殺を認めていたとは読むことができない。
また、皆殺しをしていたならば、苦力という労働者を生かして利用していたことと矛盾し、また、昭和17年以前は戦地における強姦は親告罪であるので、司令部が強姦の発生を認知していたということは、被害者が日本側の憲兵隊に通報したことを意味する。つまり、強姦の被害者は死んでいない。
このことからも、第1期晋中作戦戦闘詳報の第6項「将来の参考となるべき事項」(アジ歴C11111396800)の第3を「虐殺を命じたもの」と読むことはできない。

主張6 昭和15年8月30日の独立混成第4旅団『石太沿線両警備隊討伐計画 (第629号)別冊』に、敵及び土民に仮装する敵と並んで、敵性住民の殺戮が命じられている!敵兵も共産党を支持する住民も皆殺しにした証拠だ!

お、なんかもっともらしい(笑)
で、ここで問題の『石太沿線両警備隊討伐計画 (第629号)別冊』(アジ歴C11111403900及びC11111404000)を読んでみる。確かに「敵及び土民に仮装する敵と並んで、敵性住民の殺戮」(C11111404000 34コマ目)を命じておりますね。
さて、「敵兵及び土民(現地住民)に仮装(化けた)した敵兵」を殺すのはなんら問題ないわけですが、問題の「敵性アリト認ムル住民中十五才以上六十才迄ノ男子」の殺害なわけですが。
敵性って何?と。
国語辞典プリーズ。
てき‐せい【敵性】 の解説
敵とみなしてよい性質。戦争法規の範囲内では、攻撃・破壊・捕獲などの加害行為を加えることが交戦国に認められる性質。「―国家」

このことから、敵性住民とは共産党支持者ではなく、「国際法上敵として加害が認められる住民」ということになり、何らかの敵対的行動をとった者、というお話になります。これらの者に対する加害は国際法上の問題はないようでございます。
むしろ国際法上の加害が認められる「敵性」があっても児童や女性、老人には危害を加えないという紳士っぷりは注目に値しますね。

さらに、実際に敵兵や現地住民を無差別に殺戮しているかというと、そんなことは全然なく、『石太沿線両警備隊討伐計画 (第629号)別冊』(アジ歴C11111404000)を見ると随所で捕虜を捕獲しており、無差別の虐殺なんぞしていらっしゃらない模様が伺えます。
皆殺しになんかしてませんよ?

主張7 北支那方面軍司令官の岡村寧次が三光作戦の戦犯にならなかったのは共産党と対立していた蒋介石とズブズブだったから!

確かに岡村寧次は戦後国民党軍の軍事顧問になってるわけですが、共産党が所謂「三光作戦」に関して岡村の訴追を要求した記録も発見されていなければ、前述の共産党軍の討伐の実行部隊の指揮官である片山少将は終戦時南方にいて国民党軍の庇護を受けられる状況になかったにも関わらず、何の戦争犯罪にも訴追されず、戦後まもなくの1946年に復員しており、1950年代に中国共産党が独自に行った戦犯裁判でも岡村ともども訴追なんぞされていないわけでございます。
つまり「三光作戦」なるものは、極東軍事裁判だけでなく、その他の戦犯裁判においても訴追されていない、「通常の軍事作戦」というお話になります。
まる。

まあ、残党さんの主張は「偽」ってことでいいと思います。(にっこり)


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