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言葉なき師

 前職(ウリハッキョの日本語教員)で、新任時代から10年間続けたのは、1回の授業で1冊以上の本を紹介すること。自分は一時の師匠だけど、良い本は一生の師匠になるから。

 点呼では、返事の際、各々が読んでいる本を掲げるようにして、クラス全体の本紹介となるようにした。毎年恒例、中3の最後の授業は、本の紹介をするだけ。最後に全員の名前を呼びながら、色のついたチョークで、板書した本リストに一箇所ずつ丸印をつけていく。終業のベルが鳴ると同時に、生徒たちがどよめく。一人ひとりの名前の一部と、印が重なる仕掛けだ。リュックから取り出した古本と本のリストは、生徒たちへのプレゼント。

 2月のある日、現職場(元祖平壌冷麺屋)向かいにある図書館の依頼を受け、オススメ本リストを作成することに。直近の5年間で読んだ中から50冊を選び(チョ・ナムジュ「82年生まれ、キム・ジヨン」、柳美里「JR上野公園口」、ちゃんへん.「ぼくは挑戦人」、深沢潮「緑と赤」、黄英治「こわい、こわい」他)、翌月に「今月の主人公」という企画で、本とリストが展示された。 

 数日後、私の勤める冷麺屋にご来店した読書通のお客さんが、冷麺の注文をした後に、リストを取り出し「ナイスチョイス」と親指を立ててくれた。図書館に立ち寄って来たらしい。嬉しかった。 そして、もう7年前になる、最後の「最後の授業」を思い出したのだった。

※朝鮮新報に掲載されました。

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