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DTxが拓く医療・ヘルスケアの可能性。COOが見据える未来の医療とは

ジョリーグッド取締役COOである北詰裕亮さんに、DTx(デジタルセラピューティクス)に関してお話を伺いました。医療分野でのデジタル技術の活用は、患者のみならず医療現場の負担軽減にもつながり、将来の医療・ヘルスケアにおいて重要な役割を果たすことが期待されています。DTx市場は着実に成長を続けており、今後の展開に注目が集まっています。その進化や可能性について、北詰さんのお考えをお聞きしました。

ー簡単に自己紹介をお願いいたします。

新卒で博報堂に入社し、約30の企業・ブランドの広告制作を担当しました。
かねてから事業開発に興味を持っていたこともあり、博報堂時代の後半はスポーツ事業や映画、アイドルビジネスのようなエンタテインメント事業開発に携わり、いろいろな現場を楽しんできました。

ジョリーグッド代表・上路は博報堂時代の同僚です。2019年、ジョリーグッドを起業しVRで社会課題に向き合っていた上路と再会し、ジョリーグッドに入社することとなりました。COOとして経営に参画し、会社のオペレーションを円滑にするためのフローと組織作りに取り組んできました。入社してからもうすぐ4年が経とうとしています。

COOのメインミッションは、事業を成長させて売上を伸ばすことです。私が入社した当時のジョリーグッドが成長期を迎えていたこともあり、1年目から2年目、3年目、4年目と着実に倍々ゲームの勢いで売上を伸ばしてこれています。大きな意味では、現在もPMF(プロダクトマーケットフィット)達成に向けてのトライアルを続けていますが、成長していく中で新しいチャレンジも織り交ぜながらバランスのよいビジネス成長に貢献できていると考えています。

コロナ禍初年度、全国でECMOに精通した医師はわずか60人。VRがECMOの教育を担った。

ージョリーグッドが向き合っている課題は何でしょうか?

現状は医療教育とメンタルヘルスケアに注力しています。

ジョリーグッドは、もともと医療に特化していたわけではなく、VRやAIといった新たなIT技術を活用して社会課題の解決に取り組んできた企業です。例えば、工事現場での事故を減らすために、VRを活用した安全教育プログラムを提供したり、防災トレーニングVRや介護士育成VRなど、様々な分野でVRを活用したプログラム開発に取り組みました。振り返ると、選り好みせず多様な課題に向き合ってきたことが、今のジョリーグッドのクリエイティブ力の源泉になっている気がします。
2018年11月に大手医療機器メーカーとの出会いがあり、ここから医療分野での取り組みが始まりました。その後、2020年に新型コロナウイルスのパンデミックが発生し、医療分野が社会的に非常に注目されるようになりました。

コロナ禍の医療現場における課題として表出したのが人手不足です。新型コロナウイルスの重症患者の治療に使われる人口心肺装置(ECMO)の取り扱いに精通した医師はわずか60人しかおらず、その方々がECMO使用法を教えるために全国を飛び回っていたのです。

そこで、ECMOの技術教育にVRを活用しようと考えました。指導医の技術を100台のVRゴーグルに詰め込めば、必要とされている複数の場所で同時にセミナーを実施することが可能になります。このコロナ禍での取り組みを通して、人の命を救うためにVRを役立てることができると強く実感しました。

これを境に、ジョリーグッドが向き合う社会課題のうち医療が占める割合が増加しました。様々な課題に向き合いつつ、優先順位をつけて医療にフォーカスしている状況です。

コロナ禍においてもう1つ問題となったのが、精神疾患患者の増加です。日本では精神的なストレスを感じている方が多く、また災害も多いためPTSDのような精神疾患に悩む方が多くいます。

そこで、精神疾患の治療にVRを活用できないかと考え、2020年3月から国立精神・神経医療研究センターと共同で基礎研究を開始しました。医療教育に加えてメンタルヘルスケアへのVRの活用が増え、注目が高まっています。

VRだからこその没入体験を治療に活用

ージョリーグッドが現在取り組んでいるDTxについて、まずはどういうものか教えてください。

DTxとは、病気の診断や予防、治療を支援するためのデジタル技術であり、一般的にはデジタル治療とも呼ばれています。現在の第4次産業革命の流れの中で、デジタルヘルスケアは医療分野でも大きな進展を遂げており、オンライン診療やパーソナルヘルスケアレコードなど、データビジネスやデジタル治療は世界的なトレンドとなっています。

DTxは許認可が必要な事業であるため、すでに認可を受けている製品やサービスはまだ限られていますが、ベンチャー企業、製薬会社、大学、医師などが協力して数多くのプロジェクトが進行しています。これらの取り組みは、認可を得るための取り組みであり、DTxの普及と発展に向けて重要な役割を果たしています。

ージョリーグッドのDTxの事業内容を教えてください。

ジョリーグッドでは、DTx事業部において、薬事と非薬事2つのアプローチで取り組んでいます。

1つ目は、うつ病治療に対するVRを活用した認知行動療法でCBT-VRと呼んでいます。このプロジェクトは帝人ファーマ社との共同開発であり、現在探索的試験を実施中です。
CBT-VRの活用は、治療効果とともに、医療者や患者さんの負担を軽減する効果にも期待しています。
2つ目は、メンタルヘルストレーニングでのVR活用でこちらは非薬事領域のアプローチになります。具体的には、大塚製薬と共同開発した「FACEDUO(フェイスデュオ)」というサービスを提供しています。現在提供しているものは、SST(ソーシャルスキルトレーニング)の方法論をベースにしたVR活用で、統合失調症の患者さんの退院準備や就労準備、日常生活の支援のために、さまざまな社会的場面を体験してもらい、対人コミュニケーションなどのトレーニングを行います。
従来のSSTでは、支援者とのロールプレイングが主な手法でした。ロールプレイングでは、会議室のような場所で「ここはコンビニです」といった具体的な場面を設定し、言葉で説明したりイラスト付きのカードを使ったりして、大部分を患者さんの想像力に頼る形式で行われていました。

しかし、VRを活用することで、瞬時に仮想の場面に入り込むことができます。これにより、患者さんの負担や支援者の負担を軽減することができます。さらに、VRを使用することで、何度でも失敗できるという安心感が生まれます。このような環境づくりによってトレーニングを円滑に進めることができます。

現場の医療者、支援者が広めたくなるプロダクト作り

ーDTx市場の可能性はどのようにお考えですか?

DTx市場は成長しており、日本では2023年から2025年にかけて急速に拡大し、6兆円規模に達すると言われています。

ジョリーグッドの事業拡張という視点では、対象疾患の横展開が考えられます。つまり、現在展開している疾患の他の疾患治療にもVRを活用できないかの検討です。これに関しては多くの企業から問い合わせをいただいている状況であり、どのような疾患にどのようなソリューションが提供できうるか社内でいろいろ検討している段階です。

また、医療者の不足に対応するため、訪問看護や職場復帰のための就労支援を行う事業所など、病院以外の場所でもVRを活用して地域の患者さんをサポートする社会を作りたいと考えています。

現代では病院だけで患者さんを支えることが難しくなっています。そのような状況においては、施設間で共有できるプラットフォームを構築し、同じソフトウェアを利用できる環境にすることが大切だと考えています。地域の各施設が連携し合って1人の患者さんを支えていく。そんな社会の実現に少しずつ近づいていけるようサービス拡充やプロモーションも計画しています。
例えば、いくつかの自治体や基幹病院と協力して地域連携のモデルケースを作り、成功事例を発信していくことも計画中です。これにより、サービスに対する認知や関心が高まり、DTx事業自体の関心や市場ポテンシャルも底上げされていくことを目論んでいます。

ーDTx事業がこれまで成長してきた経緯を教えてください。

プロダクト開発において、私たちはビジネスを設計するプロデューサー、コンテンツ制作するクリエイティブディレクター、開発エンジニア、CS、そして医療エキスパートの五者が協力して取り組むチームワーキングを非常に重視しています。

どれほど便利な機能を持っていても、現場の声が反映されていない場合、プロダクトの十分な活用が進まない可能性があります。
ジョリーグッドでは、精神医療領域のトップランナーの一人である蟹江絢子医師が社員となり、自身が現場で感じてきた課題や蓄積した知識を提供しています。それをクリエイティブやエンジニアが受け止め、プロデューサーが具現化するような形で開発を進めています。

このように、チームメンバーそれぞれが自分の視点でフラットに意見を出し合いながら開発を進める環境と体制を効果的に機能させることで、現場でより使いやすく利用価値の高いプロダクトに熟成させていくことができると考えています。
さらに、開発段階からKOL(キーオピニオンリーダー)の先生方にも一緒にプロダクトを作り上げているという意識を持っていただくことで、「ともに知恵を出し合って作り上げたものなので、広めていこう」という動きも生まれやすくなります。大きな社会課題であればあるほど、自社だけで完結しようとせず、一緒に課題に向き合ってくれる仲間を社外にも広げていく視点は大切だと感じています。

治す医療から、楽しみながら予防するヘルスケアへ

ーDTxの未来をどのように捉えていますか?

医療の未来を広く考えると、病気の治療と健康維持・増進のためのヘルスケアの間には垣根がなくなるでしょう。たとえば、肥満による生活習慣病予防のために薬を服用したり、ランニングをしたり、専門家のカウンセリングを受けたりする行動は、個々の生活者にとって垣根のない一連の行動です。病気の予防や治療のための行動がつながり合い、一体化していくと考えています。

製薬業界でも「アンメットニーズ」と呼ばれる、顕在化していない生活習慣病や不眠症等への対策が注目されています。これからは、従来のように投薬治療だけに頼るのではなく、プログラム機器を活用した健康管理や心理社会的療法などを組み合わせて利用するシーンも増えてくるでしょう。生活者1人1人の心と体の健康をトータルでサポートしていくために、これまでカバーできていなかった領域を補完したり、総合的支援を強化していくためのツールとしてDTxが担う役割がどんどん大きくなっていくという風に捉えています。

また、DTx自体が新しい概念でもあるので、薬事法の改正や診療報酬の見直しなど、業界ルールが変化してきておりこの流れはこれからも続くでしょう。DTx事業の成長のためにはこういったルール変更や規制緩和の動きにも注視していく必要があります。

ー今後の戦略を教えてください。

プロダクト開発において、垣根を作らずに多様なアイデアを取り入れることが重要です。現在は医療的な見地から医療現場のニーズに合ったプロダクトを優先的に開発していますが、将来的にはより軽やかに、医療・ヘルスケアをエンターテインするようなアイデアを取り入れることも重要になってくると考えています。

例えば、メンタルヘルストレーニングのプログラムにゲーミフィケーション要素を導入するなど、ユーザーが楽しみながら毎日の習慣として病気の予防や健康増進につながる行動ができるようにデザインしていく、という視点です。

ジョリーグッドには、テレビのバラエティ番組を制作していたディレクターや、広告出身のプロデューサー、元ゲームエンジニアなど、バックグラウンドの異なるメンバーが多数在籍しています。彼らが主体的にプロダクト作りに取り組むことで、プロダクトの新しいコンセプトやフォーマットが生まれ、市場の拡大につながると期待しています。

異能同士がイノベーションを生み出す場所

ーどのような価値観を持った人と働きたいですか?

新しい挑戦に興味を持ち、そのために行動を起こすことを躊躇しない人であれば、どのようなバックグラウンドを持つ人でもDTx事業において貴重な戦力になると考えています。実際に、ジョリーグッドには医師や心理士はもちろん、会計士、薬事顧問、元CA、パーソナルトレーナーなど、様々なバックグラウンドを持つ人々が集まっています。

ジョリーグッドのプロダクト開発のベースはコミュニケーションにあります。バックグラウンドが異なるとしても、チームワークを円滑にするコミュニケーションの素養と成長意欲さえあれば、チームの一員として活躍できると思います。

言い換えれば、異なる知識や能力を持つ人々が意見を交換し、プロダクトを共同で作り上げるための環境を会社として提供しているということです。我々はこれを「異種格闘技戦」環境と呼んで大切にしているコンセプトですが、自分と視点が全く異なる才能との出会いは新たな刺激となり、そこからさまざまな壁を打破してイノベーションを生み出す原動力になっていきます。自己成長を望み、刺激を求め、これまで出会ったことのない自分に会ってみたい好奇心旺盛な方は是非迷うことなくジョリーグッドのプロジェクトに参加してみてください。お待ちしています!