転職活動記1

某月某日、ある企業より面談を行うとの通知が来た。今の会社に対する不満の裏返しで転職活動をしている部分もあるので、基本、どこにでも行くことにしている。
ただ、問題は、今の居住地が恐ろしくアクセスの悪いところだということだ。

今回の話を受けるにあたり、一応、ネットで予定を仮組みしてみた。大丈夫、行ける。ただ、片道5時間かかるけど。今の自分に、行ける場所なのに行かない選択肢はない。本来なら、前泊したいところだけど、有給休暇に縁のない生活になって、早や5年か。先日、全社の時間外労働についてのレポートを回してきた奴がいたけど、何の嫌味かと思ったよ。悪かったな、仕事ができず、残ってばかりの社員で。全部サービス、もはやボランティアの域に達しているけどな。

そんな訳で、早朝の電車に乗り込み、何度か乗り換えを経て目的の駅に着いた。電車の中では、死んだ魚の目をしたおっさんが、ぶつぶつと何かを言っている。それが自分だ。ずっと、面談のシミュレーションをしていた。時期によって、スムーズにシミュレーションが進むこともあるが、今日はだめだ。疲労が溜まっている。頭が働かない。

本当は、駅前で何か消化の良い食事を摂る予定だったのだが、バス乗り場まで行く途中、バスの待ち時間を計算に入れていなかったことに気づく。そのために食事の時間が吹き飛んでしまった。鞄を探すと、ゼリー飲料とブドウ糖があったので、急遽補給した。これじゃ、力出ねぇよ。

予定の10分ほど前に会社の前に着く。でかい建物だ。普段、プレハブのような事務所で働いているから、これだけで圧倒されそうになる。こんなところで働いている自分の姿が思い浮かばない。それでも、約束通り、建物に入り、いつも以上にぎこちない面談を終えた。時間を無駄にさせてしまい、申し訳ない。期待されていた人材でないことだけは、間違いなく伝わったはずだ。

帰路、バス停で時刻表を見ると、そもそも電車に間に合うバスがないことが判明した。帰路に乗る予定の電車は、一時間に一本しかないことに加え、予約をしているから、乗れなかった場合のダメージは結構でかい。とりあえず、道は何となくわかるので、歩くことにした。あたりには人通りが多く、中にはジョギングを楽しんでいる人たちもいる。時計を見ると、駅まで行くには時間が足りないような気がする。折悪く、タクシーも通らない。やむを得ず、走ることになった。途中、書類鞄を持つ手を替えながら走る。革靴は走りにくい。嫌がらせのように、交差点に地下道があるので、階段を降り、登る。結局、駅に着いたのは5分前で、辛うじて電車に間に合うことができた。

座席に荷物を置き、まず顔を洗い、汗を落とした。それでも汗が止まらない。腹が減ってめまいがしそうだが、食べるものは何もない。帰りの電車も、乗り換えがあるが、待ち時間は数分だ。その電車を逃すと、駅で1時間待つはめになる。仕方がないので、飲食は諦め、ひたすら時間をやり過ごす。気のせいか、帰りの電車のほうが揺れがひどいように思った。ひとつ良かったことは、帰りの車掌さんの案内が素晴らしかったことだ。聞きやすく、耳に心地よい。英語の発音も見事なものだった。

何はともあれ、無事に帰宅したが、翌日は休日出勤だった。
面談で木端微塵に砕かれた 明日は朝からひとり出勤 
短歌か何か、わからないけど、そんな言葉が頭に浮かんだ。


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