はんちく

 今、寝る前に本を読んでいる。
 メルカリで譲っていただいた村上春樹さん訳のチャンドラー「ロング・グッドバイ」だ。大学生のころ、チャンドラーは読んでいたが、名作と言われる所以はわからなかった。当時は、スペンサーシリーズのほうが面白かった。面白いと思える小説を求めていたのだろう。大学生協で、並んでいる本を手に取り、中身にめを通していたことを覚えている。

 今の自分には、この「ロング・グッドバイ」が面白く感じられる。先日、押し入れから発掘した「ビッグ・スリープ」は淡々と読み終えた感じだったのに、本に向かう執着心が違う。それほど読書に充てる時間は取れないのだが、間をおかず読んでしまう。人物造形がしっかりしていて、ある程度の感情移入ができるためかもしれない。

 読んでいると、文章の中に知らない言葉があった。それがタイトルの「はんちく」だ。文脈から、明らかに差別用語であることはわかった。サンピン、チンピラ、輩なら知っているが、マーロウにはぴったりこない。最初、はんちくという言葉を見たときに、おでんの具のようだと思った。読んだ時の語感から、はんぺんとちくわを思い浮かべたのだろう。何だかわからないが、魚のすり身を使った食べ物を連想させる。ちょっと塩気があって、酒にも合う、そんな食べ物だ。

 後日、ふと思い出して「はんちく」について調べてみた。出てきた意味は中途半端、だった。まさに今の自分にぴったりだ。会社では、ゼネラリストといえば聞こえはいいが、実際のところは目の前の仕事を片付けいるだけだ。そこにとどまっているから、知識が深くなることはない。あれもこれもやっている。でも専門家にはとおく及ばない。まさにはんちくだ。今の会社に嫌気が差してもう何年にもなるが、資格試験の勉強と転職活動の両立ができていない。転職活動が忙しくなると、勉強が疎かになる。しかも、転職に至らないのだから、時間が失われていくだけだ。前に向いて進めず、時間と労力だけが損なわれ続けている。

 いつも思うことは、これからどうするかということだ。現在の自分ははんちくだ。さてこれからどうするか。大きな方針を立てて、僅かずつでもそこへ向かって歩いていかなければならない。


 

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