アキバ探偵シリーズ 秋葉原八十八ヶ所お遍路事件 #2
「
JR秋葉原駅の東側、神田方面から上野方面へと突き抜けるような昭和通りを渡り、秋葉原駅を通り抜けると、一般的に"電気街"と呼ばれるエリアにたどりつく。
常に何かしらのアニメのデコレーションがなされている"アトレ"や各種オタク向けショップがひしめく"ラジオ会館"、"デ・ジ・キャラット"が微笑みかけてくる最近1階に街頭ディスプレイを設置した"ゲーマーズ"の前を通り抜ければ秋葉原中央通りだ。
歩行者天国に賑わう人々のざわめきの中、オノデン坊やの2000年代前半を彷彿とさせる3Dアニメーションが巨大ディスプレイに描画されるのを見て、メイド喫茶めいどりーみんのポップで耳に残るアイドルソングを聞き、どこかから香るケバブのスパイシーで食欲を誘う匂いを嗅ぐと自分が秋葉原に来たんだという実感g….」
「先生、またぶつぶつ独り言を言っていると、お巡りさんに呼び止められますよ」
探偵の独り言を咎めるのは、まるで他人のふりをするかのように"秋葉探偵"から、三歩離れて歩く"小林少年"だ。黒のショートパンツに肉付きの薄い生足が春の陽光によく映える。
「大丈夫だ。今週だけでもう万世橋のお巡りさんに14回も声をかけられている。ここに配属されているお巡りさんとはみんな顔見知りになった。もはや独り言くらいでは声もかけられん。ん?噂をすれば」
おーい、と秋葉探偵探偵が中央通りのホコ天(歩行者天国)の監視を行っている、お巡りさんに声をかける。
すると、お巡りさんはその声に反応し、何故か痙攣するかのように震えたかと思うと、ピポーッ!と奇声を発しながら走り去っていった、後を追いかける同僚らしき他のお巡りさん達。
「ふむ?春だからかな。市民の模範となるべき警察官といえど、この陽気では少々気が違ってくるのかもしれん」
「先生のせいでノイローゼになったんですよ。何度もこんな変態の相手をさせられれば無理のないことです、お可哀想に」
まあ、僕は先生のお相手なら何度だってウェルカムですけどね!とドヤ顔をしながら言う小林少年。それを無視する秋葉探偵。地獄に落ちろ。
休日の秋葉原ではホコ天が行われ、中央通りが歩行者に開放される。
00年代前半は、野生のコスプレイヤーに、それを血眼で撮るカメコ、ラジカセを中心に輪になって踊るタケノコ族(?)など、ウィリアム・ギブソン的な都市カオスで賑わっていたが、現在は観光目的のパンピー達とそれをカモにする、ガールズバーの声掛けにあふれている。
「ところで、"秋葉原商工振興会"はなんだって言ってるんだ?この退屈を間際らしてくれる、ちょっとはマシな事件なんだろうね?」
じゃないと、ああなりかねんと先程のお巡りさんに目線を向ける秋葉探偵。
お巡りさんはコケー!と言いながら、歩行者の間を稲妻のように走り抜けている。捕まえようとする他の警官達だが、グースステップを混ぜた動きに翻弄されている。
「自分が仕出かしたことを他人事のようにおっしゃりますね….。まあ、お聞きした感じ、奇妙な事件ではあります。特に被害者も出ている訳ではないらしいのですが…」
10階建てのアミューズメント施設、ゲームパニック前を通り過ぎながら事件のあらましを語り始める小林少年。
春の麗らかな風に誘われて、マリンキャップから零れ落ちる瑞々しい髪房に、道行くオタク共が目を奪われる。
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