掌編小説「糖分が足りてません。」 ショートショート 文芸
私は朝から忙しい。昨日、課長にお願いしていた原稿ができていなかった。課長にあさイチで、「課長、すいませーん。昨日お願いした原稿できていますか?」と尋ねる。
課長は、スポーツ新聞を見ながら、返事もしない。
すっとぼけてやがんな、どうせ、忘れてたんだろと思いながら、一呼吸おいて、
「課長、すいませーん。昨日お願いした原稿できていますかー!」
と少し、大き目の声で言ってみる。隣の席の原田くんが、笑いをこらえながら、くっ、くっと悶えている。
課長は、新聞をデスクに置くと、
「吉田さん、原稿いま、つくってるんだ。もう、ちょっと待って」
と言うと、おもむろにノートパソコンを開き、電源をいれる。
わたしは、新聞読む前に、はよせんかーいと心の中でつっこみをいれる。
しかし、わたしは大人の女、にっこりと笑うと、
「お願いしまーす」
と自分のデスクに戻った。
11時前には、課長の原稿も片付き、お昼を楽しみにしていると、安田さんがやってきた。安田さんは、わたしのポジションにいた人で、現場に出された定年前のおばさん。わたしのいるポジションに戻りたいらしい。
安田さんは、わたしのデスクまで来ると、
「あなた、この前のメール、内容が間違っていたわよ」
わたしは、わたしんとこまで来てわざわざ言うことかなあ、返事するのめんどくさいなあ。と思いながらも、私は大人の女と思い直し、「すいませーん」と言いながら、飴を差し出してみる。
安田さんは
「そんなのいらないわよ」
ときびすを返してドカドカと行ってしまった。
残ったのは、もやもやだけ。そう、もやもやしてきた。あー、なんだか、無性に腹がたってきた!あー、なんか、ないかな。私に今、必要なのは、糖分、そう、とうぶん、とうぶん、とうぶん、ぶん。
私はお昼のチャイムがなると、財布を手に取り、ダッシュで、近くのコンビニに走る。
12時1分に、コンビニに入店。ドリンクコーナーに走る。
あった。あった。これよ。これ、茶色の紙パックに雪の結晶のマーク。
じゃじゃ~ん。雪印コーヒー500ml。
わたしが愛する糖分のかたまり。
あい、らぶ、いっと。
わたしは、糖分のかたまりを手にとり、すばやく、支払いを済ませる。
12時2分、イートインコーナーに着席、紙パックにストローをイン。思っいっきり、すいあげる。
うまー。あまー。体に、糖分が染み渡っていく。
吸い上げる。あまー。
吸い上げる。あまー。
最後に差し掛かる。
あまー。最後まであまー。
体に、糖分が染み渡りました。
ありがとう、雪印コーヒー。
昼からも頑張ります。
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