結果や結論に付着物など無いものだ
越えてはいけない線の先の方がずっと生き易い世界だった、厳しさが両手を広げて迎え入れてくれた、妥協なんか存在しない世界、それこそが俺の求めるものだった、たった一人でその日の最良を目指して躍起になる、そんな日々に俺は夢中になった、野垂れ死ぬかもしれない未来を受け入れた時からかもしれない、そう決めたのはきっと、成功が目的ではないと自覚したからだ、何かが足りない、幼いころからずっとそう思いながら生きて来た、なにかがもの足りない、見える筈なのに見えていないものがある、そんな感じはずっと消えなかった、そして何十年経っても胸の内側を引っかき続けていた、思えば俺は、ずっとその手掛かりを気にしながら生きてきたのだ、それはそう―奇妙な例えだが、まるで呪縛のようだった、逃げられない宿命のように付き纏っていた、それは時折とても近くにやって来ては、早かったとばかりに離れてしまうのだ、まるで、いつでも俺を食らうことが出来るのに程よく肥えるのを待っている獣のようだった、そう、確かにそいつからはどこか獣臭い、剥き出しの本能のような香りがしたんだ、最初の接近は二十代の頃だった、闇雲に文章を書き連ねていたころだ、その頃には恋人のようにずっと寄り添っているような気さえしたものだ、でもある時急にふいっと離れていった、まるで俺の運命を見限ったみたいに、それから少しの間、俺はあやふやな大地に立っているみたいに揺れながら過ごした、書いても楽しくなかった、そう、誰しも経験することだろう、若さによる勢いを実力だと勘違いしてしまうのだ、でもそれは結局戻って来た、少し肩の力を抜いて書くことが出来るようになってからだった、俺は若さを失い、実力を取り戻したのだ、こんな言い方は傲慢に聞こえるだろうか?けれど、あえて断言させてもらうけれど、俺が歩んできた道というのは誰にでも歩ける道では決してない、一番に必要なのは経験でも要領でもなかった、ただ覚悟を決めるかどうかという問題だったような気がする、それからは色々な書き方をするようになった、自分の思い入れなど読むやつらにとっては関係のないことなのだ、ということを理解したせいかもしれない、テレビを見ながら数行ずつ書いたって面白いものを書くことは出来た、ある程度は経験であり、ある程度はセンスだったと思う、でも結局、俺がそれを手に入れたのは覚悟を決めたことが一番大きいのだ、覚悟とは何の覚悟なのだ?おそらくは人並みの幸せを諦める覚悟だ、そして、それと同時にどんな境遇にあろうとも書き続けようという覚悟でもあった、越えてはいけない線の先は楽園だった、人間が自分自身を存分に生きることが出来る世界だったのだ、たとえばここにひとつの点がある、これは突き詰めなければただひとつの点というだけで終わってしまう、けれど、それを誰が、どんな目的で、なぜここに点を打ったのかというようなことを考え始めると、ひとつの点はそれ以上の意味を持って存在する、ひとつの点はある種の示唆のようになるし、暗示のようにもなる、矜持のようにもなる、不安定なものをうたうようでもあるし、揺るぎ無い完全体のようにも見えてくる、現代はひとつの点をひとつの点のままで捨て置いてしまう、そして一度結論が出たら見向きもしない、ファーストフードを食べ過ぎてすぐに出て来るものに信頼を置き過ぎる、バリューパックを食べたところで得をするのは財布の中身だけだぜ、金と時間をかけたほうが美味いものを食えるってやつらは知らないのさ、いや、もしかしたら、好き嫌いが激しいのかもしれないな、子供と同じさ、ずっと小学校に通っているつもりで生きているんだ、変わらない世界、自分を取り巻くものが未来永劫そこにあると信じていたいのさ、無難に、はみ出さずに、周囲との同調だけを頼りに生き続ける、その先に何がある?本当に変わらないでいるためには、変わり続けていなければ駄目なんだ、変化を繰り返し、瞬間瞬間の自分の根幹を理解し続ける、その努力をしない限り、人間は先へ行くことなど出来はしない、スクロールゲームみたいなものさ、置いて行かれたくなければ、画面の中で動きながら考え続けるしかないんだ、考えこんだときに脚を止めてしまう人間は、それがどれだけ真剣なものであってもリタイヤの意思だとみなされる、違うんだと声を荒げてももう遅い、脚を止めたのは自分自身なのだから、なあ、こういうと俺がまるで、他のすべてを投げ打って書き続けているように聞こえるかもしれないけれど、実のところそんな格好いいものでもないんだ、俺はただそれが楽しいからそうしているのさ、答えの無い世界に飛び込んで答えを探し続けることは、違法薬物よりもずっと気持ちをハイにしてくれる、ぶっ飛んだ感覚の中で、この世には無い言葉を見る、結局のところそいつに変わるものなんてどこにも無いんだって、それだけのことなんだよ。
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