水が絶えなければ循環は続いていく
本当に恐ろしいのは自身の存在とその周辺のすべてが本来あるべきはずの意味を失ってしまうことだ、豪雨に洗われた路面のように本質を剥き出しにして、けれどなにも語ることは出来ない、本当に恐ろしいのはそうした、一言も発せられない正直さや純粋さだ、人間でいえばそれは、火葬場の炉から出て来る真っ白い骨でしかありえない、俺たちはその骨に様々な、生きている間しか必要でないものをあれこれと纏って、本音とも嘘とも言い切れない曖昧な世界を生きる、全員が正直で全員が嘘つき、それは俺たちがシンプルには成り得ないからだ、ピュアネスには近寄ってはならない、彼らが一番質の悪い嘘をついている、潔癖症の手のひらは合成洗剤で荒れまくっているのだ、俺が、言葉が言葉そのものであってはならないと頻繁に語るのは、そんな純粋の嘘が嫌いだからだ、正直さとは何だろうか?簡単なことを簡単なまま話すのは別に正直さでもなんでもない、それはただの当り前というやつだ、自身の混沌について語ろうとするときに、理路整然と語ってしまっては説得力もクソもありはしない、混沌は混沌のままで吐き出されるべきで、だから俺は狂ったように言葉を塗り重ねる、結局のところ、俺が詩を書くのは混沌に向かおうとするからなのだ、そうだね、で終わってしまうシンプルさは嫌いだ、混沌のまま差し出された混沌はシンプルだがひとことでは片付かない、だからこそ書かれる意味がある、俺は脳味噌で探れない自分の深淵をそうした手段でうろついているのだ、五感の無いところまで潜らなければならない、肉体が勝手に言葉を並べ始める階層まで降りて行って、出来るだけ正確に伝えなければならない、それを書いているのは俺であって俺ではない、俺の生霊による自動書記のようなものだ、俺は身体を貸しているだけなのさ、知識や学習能力で計算された文章を書こうなんてこれっぽっちも考えちゃいないんだ、そんなものは数行で欠伸が出て忘れてしまうよ、井戸を掘るようなものだ、水脈さえとらえることが出来ればあとは掘り進めればいい、水は出口を見つければあっという間に穴を駆け上がって地上へと溢れ出すだろう、どうしてそんな行為が必要なのか、俺はもうそんなことについて考えるのはとっくの昔に止めたけれど、しいて言うなら結局のところ、自分の根源がどこにあるのか知りたいのさ、川の流れを逆に辿るように、道なき道を歩けるだけ歩いて、水が湧き出る場所を探したいだけなんだ、それは本能的な欲求なんだ、けれど、本能だけではそこに辿り着くことは出来はしない、なぜだかわかるか?本能は基本的に混沌でしか在り得ないからだ、一言も発せられない正直さや純粋さだ、俺たちは血の流れを感じながら、それとまったく関係の無いような顔をして生きる、そんな面倒臭さが無ければ、永遠に辿り着けないものなんだ、それが理由としてシンプルなのか複雑なのかというところには、特別興味も無いけれど、とにかく俺は身辺調査報告のような自己紹介をするよりはこんな風に自分の奥底にあるものを表現していたいのさ、そこにどんな意味があるかなんて話はもうどうでもいいんだ、そこに説明をつけることは余計なことなのさ、ただ自分が確信した道を精一杯進むのみさ、そんな暮らしの中で生み出されるものが俺すらも知らない俺の真実なのだ、それはもしかしたら俺よりも俺の書いたものを読んだ誰かの方がよりはっきりと理解しているかもしれない、俺はこれがどういうことについて話しているものなのか、厳密にいえばまるで理解していない、これは俺の理解の範疇に無い事柄かもしれない、あるいは俺が、もうそれについて理解することを放棄しているのかもしれない、本能とかけ離れながら本能に従って生きているとしばしばそういう現象が起こる、俺は人間でも動物でもない、俺という固有の存在に過ぎない、だからこうしたものを残す必要があるんだ、俺には前例が無い、後に続くものも無い、俺は俺が生きているうちにどんなことを思いながら生きていたのか、最深部まで辿って語る必要がある、それはきっと俺以外に誰も語ることが無い、俺以外に誰も知ることが無い世界だ、俺の言語は俺だけのものに変わり続ける、そのうちに俺にしか理解出来ないものになるだろう、それについては少し前にも書いた気がする、でもいまはその頃とは違う気持ちでこう書いている、俺は人間でも動物でも無い、本能の扱いを変えた固有の生きものだ、だからこんなことを繰り返している、俺の並べる言葉は俺の人生に浮遊するイメージだ、そしてもしかしたら真理かもしれない、俺は時々顎を動かしてその言葉の噛み応えを確かめる、それには生肉のような感触がある、俺の中にある野性がそれを求める、出口を探した言葉たちが血飛沫のように吹き上がる、本来そうあるべきものたちの速度は速過ぎもせず遅過ぎもしない、ただひたすら自分たちに必要な速度で動き続けているだけなのだ、そしてそれは特別な変化を起こすことが無い、そこに乗っかろうとする俺たちだけが振り落とされて泡を食ったりしてるのさ。
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