印に縛られて動けなくなっちゃったりしても駄目
強奪者の化石を壁に張り付けたあとはエアガンで気の済むまで撃った、もっともそこそこ値の張るやつでも化石をぶち壊すことなんか出来やしない、せいぜい弱っているところが欠けるくらいさ、だけど、それがいったい何だって言うんだい、壊すことが目的じゃない、いつでもそこに狙うべき的がぶら下がっているっていうのが重要なのさ、そうじゃないのかい?コーヒーメーカーで四杯分まとめて作ったコーヒーが入っている水筒をラッパ飲みする、一杯じゃ足りない、いつだって一杯じゃ足りないと気付いたときからそうやって飲んでる、二回作る時もあるし、三回の時だってある、コーヒーの飲み過ぎは身体に良くないんだよってお節介な女とかは会うたびに言うけれど個人差ってもんがあると思うし、身体が求める分だけ入れてやることが正しいと思っている、いやだってさ、常識に照らし合わせて考えることが正しいのなら、スモウレスラーやフードファイターなんて軒並み早死にしなきゃいけないはずじゃないか、たったひとつのモノサシですべてを図れると考えるほうが間違っているのさ、俺はそう思うよ、もう何年もこうやってるけど、コーヒーのせいで具合が悪くなったことなんか一度も無いぜ、まあ、まあ、そのうちケツに火がつくのかもしれないけれど、その時はその時ってもんさ、自分の人生だ、自分で選択したものを信じられないでどうするんだよって話、いや、何も趣味嗜好のことに人生なんか持ち出す必要は無いのかもしれないけれど、なんていうかな、それぐらいの覚悟、うーん心構えは出来てるってことだよ、今日は二回目なんだけど、これで止めておくつもりだよ、気候とかさ、天気とかで若干飲みたい量って変わるんだ、そういうのってあるでしょ、わからない?それからエアガンの弾を拾う、適当に集めたりしないよ、カーペットに四つん這いになってさ、化石の発掘現場みたいに真剣に拾うんだ、本当に真剣に探せば見つからないっていうことはまず無いんだよ、それは見つからないんじゃなくって、探す気がないだけのことなんだ、カーペットをちょっと持ち上げてみたりさ、ソファーをちょっとずらしてみたりすれば必ず全部拾うことが出来るよ、長いことこうして遊んでいるけど弾を失くしたことなんかないよ、いや、まあ、なんせ量が多いからいつだって完璧に全部揃ってるかどうかなんて実際のところわからないんだけど、減ってる感じがしないってことさ、なんとなくわかるでしょ、そういう感じ、どうしてそんなことをやり始めたのかちょっと記憶に無いんだけれど、いまではこれは俺の生活には無くてはならないものになってるんだ、つまりさ、狙うとか、注意して拾うとか、めちゃくちゃカフェインを入れるとかね、そうすることでなんというか、脳内が整えられる感じがするんだよ、もちろん傍から見れば凄く無意味な行為に見えるだろうことも理解しているけれどね、でもよく言うじゃないか、一見無意味に見えるものでも深く追求してみると驚くほど下まで辿り着く、みたいな、これはつまりそういうことなんだよ、簡単に言うと、身体がそうすることを求めているのさ、そんなことしてなんになるのっていうやつはきっと、意味というものを自分で考えてみたことが無いんだろうね、非常に常識的な、世間的なと言い換えてもいいけれど、そうしたものを受け入れる以外の手順がないんだよ、きっと、筋トレだってそうじゃん、だらしない身体しているやつほど言うよね、あんなのなんの意味があるんだって、でももちろんそこには意味があるし、やり過ぎなければ身体にだって絶対良い、それはどんなジャンルのどんな行為だってそうなんだよ、だから個人差ってものに敏感になることが必要なんだ、自分が何を求めてその行為に耽っているのか、それは理解しておくべきなんだ、頭でどうこうって話じゃないよ、身体で知るんだ、感触としてなんとなく掴んでおくくらいがちょうどいい、思考して、定義としてしまったらその時点で窮屈になってしまうからね、壁に飾るシュプレヒコ―ルはちょっと甘いくらいの見解にしておくべきさ、勘違いしている人が多いのだけど、答えを出せることが人間の美徳じゃない、だから現代は結論が早いことばかりがもてはやされている、動体視力を鍛えているわけじゃないんだ、早けりゃいいってもんじゃない結論が出たらそこで終わりになっちゃうだろ、そしたらその方面はそれ以降手つかずってことになるんだよ、引出にしまわれて、鉤を掛けられてそれでお終いってさ、そんなことじゃ駄目なのさ、たったひとつの出来事を何度も考えるんだ、そうしている間にも出来事は増えていくから、同時に考えたり、交互に考えたりしながら生きていくんだ、人間的マルチタスクとでもいうのかな、そうして人は答えに近付いていくんだよ、でも辿り着くことは無い、答えなんて初めから無いんだ、それは道端に生えてる木に迷わないようにつけていく印くらいの意味でしかないんだよ。