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小説「蛇口をひねる」 第七話

 ほっ。よかった。本当に。私のせいで英美と、凛と、私の友情が崩壊しなくて。
ふう。思わず心の中で息をつく。
そして相手から次に紡がれる言葉を待つ。

「で、問い詰めようと思った訳」

…?
疑問が脳内に広がってゆく。正体不明のどろっとしたもの。
誰を?何て、考えるまでもない。凛。凛だ。
それにしても大げさだ。友達が部活を辞めた理由を聞きに行くためだけに、早起きして、まだ眠いって言っている自分の体に喝を入れつつ自転車を漕ぎ、こんな朝早くに教室に辿り着くなんて。
あの英美が。
ようやく自分が今さっき感じた疑問の正体が分かった。
友達と話したいなら、休み時間にすれば良い。秘密の話なら、人気のない適当なところに呼び出して。
それをどうして、英美はこんな面倒な方法を取るんだろう。ま、じ、で、訳がわからない。
あ、もしかして英美は、誰もいない教室で友達を待つ、とか二人だけの空間で友達に迫る、的ないわゆる「青春っぽいシチュ」に憧れてるんじゃないか。
だとしたら英美はただのバカ。少女漫画の読み過ぎ。

「おーい、れーちゃん?大丈夫?」
はっ。
「大丈夫!」
頭を使わずに返事をする。
「で、英美はなんていう少女漫画を読んでる訳?」
「え?」
予想通りの反応。心の中でガッツポーズ。
「いやだって、凛と話したいなら、普通に休み時間に呼び出しゃいいやんけ」
「あー…まあそりゃそうか…
…で、それと私が少女漫画を読んでいることには何の関係がある訳?」
「だから、そうやって、誰もいない教室っていうシチュにこだわってるところとか、恋愛系の漫画のイタイシーンに影響されたかなーって」

英美とは一緒にいるととっても楽だ。肩の力を抜ける感じ。
英美はおバカでちょっと鈍いから、多少ガサツに扱っても勝手に傷ついたりしない。
気を使わなくてもいい、そういう存在。

「ああ!そゆことね!確かに私ロマンチストだからなあ。本屋で買う本大体恋愛系だし」
自分でそれ言うか。
脳内でツッコんでいると、英美の声が脳に流れてくる。

「あのさ、」

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