次世代モビリティの社会実装に向けた鉄道ローカル線活用の可能性

人口動態が変化している日本では、特色豊かな全国の各地域をバランスさせて行くことが成長にプラスと考えます。そのためには、過疎化が進む地域で公共交通や物流サービスへのアクセスを維持するのも重要なポイントと思います。

次世代モビリティの大変革

現在、開発が進んでいる次世代モビリティの技術革新は、環境問題から要請された「電動化」と交通事故死を撲滅する「自動化」に端を発して、多くの産業分野を巻き込みながら拡大しています。

自動化によりハンドル操作から解放されたのならば、移動時間を仕事•学習•趣味•娯楽など別の目的に利用できます。ここに着目したIT業界が巨大な自動車市場への参入を目指し、自動車とインターネットを本格的に接続(Connected)させようとしています。
自動運転の自動車がネット環境下に入るならば、遠隔からのコントロールが可能です。自動車を必要な時に好きな場所へ移動させて利用できますので、自分専用に所有するメリットは小さくなりそうです。これにより、シェアリング(Sharing)ビジネスは自動車を重要な商品としました。もともと、日本国内で同時に走行している自動車は全台数の1割程度と言われています。自動車のシェアリングが主流となれば、国内の自動車は9割が不要になり、事業で車両を保有している産業分野への影響も小さく無いと思われます。

次世代モビリティのコア技術

次世代モビリティの大変革を技術的な用語で表現したのが、CASE(Connected、Autonomous、Sharing、Electric)です。

①自動運転(Autonomous)
国土交通省資料(自動運転のレベル分けについて)などによりますと、自動車の自動運転は五つのレベルに分かれています。レベル1、2は人の運転操作をシステムが支援します。レベル3〜5が本格的な自動運転で、システムでの運転操作を可能とするケースを徐々に拡大し、人の関与度合いを縮小させています。
・レベル3:システムが運転操作を実施、但し必要に応じて人が運転を担当
・レベル4:一定条件を満たしたエリア内でシステムが全ての運転操作を実施
・レベル5:常にシステムが全ての運転操作を実施(最終段階)
日本の法制度では、2020年4月レベル3へ対応する改正道路交通法が施行され、本年3月の閣議決定により2022年度内に公道でのレベル4が可能となる予定です。
本格的な自動運転の解禁は、近年の深刻なトラック•タクシー•バスの運転手不足を一気に解決する可能性があります。労働年齢人口減少の影響を受けている多くの産業分野で福音となるかもしれません。

②電動化
自動車の電動化は、脱炭素社会の実現を目指す全世界的な趨勢によるものです。少なくない国の政府が、石油由来の燃料を燃やしCO2を排出するエンジンを搭載した自動車の販売は2030年代までに禁止する、と表明しています。
走行時のCO2排出が無いことに加えて、エンジン車よりも部品点数が少なくシンプルな構造である点も電気自動車の強みです。高性能で大容量のバッテリーを低価格にすることは課題ですが、それをクリアできれば、エンジン車に比べて低いコストでの製造が可能となります。さらに、車両の維持やメンテナンスのコストを低減できるのも魅力です。これらは、多くの車両(トラック•タクシー•バスなど)を保有している産業分野で大きなメリットになると思われます。

次世代モビリティの社会実装の困難さ

供給サイドの産業界にメリットがあるのみで、次世代モビリティが普及するのは困難です。それを社会に受け入れて貰うためのシナリオやステップが必要です。
自動化では安心と安全が重要です。事故が起きた時、「高度なシステムが運転しているのだからやむを得ない」或いは「やはり人が運転していないので不安だ」との感覚はどちらが強いのか。社会的受容性は、事故率などの科学テータが基礎となりますが、実際は起きたことの印象に左右される場合も多いと感じます。
電動化では電力を供給する発電方式が問題となりそうです。再生可能エネルギーのみで供給となれば理想的ですが、「発電量の変動が大きく不安定」「電力料金が高くなる」などの理由から火力•原子力発電も必要との指摘があり、社会全体で合意できるのかは今後の状況次第と思われます。
次世代モビリティが普及するならば、地域社会と個人生活へ大きな影響を及ぼしますので、良い面だけではなく悪い面も当然あると思います。一旦ボタンをかけ違えてしまうと将来の大きな可能性を潰す結果になります。その為、技術や法制度を成熟させながら社会全体での合意形成を図る目的に、段階的な社会実装が進められている状況です。その重要なステップの一つが実証実験です。

実証フィールドとしてのローカル線の可能性

鉄道ローカル線は列車走行のために開発された交通輸送専用の敷地です。廃線となれば、気仙沼線•大船渡線のように専用道路へ整備し直して、路線バスを走らせることが出来ます。一般道路を走行するのと比べれば、信号•渋滞が無くノンストップでの定時運行が可能ですし、基本的に衝突事故が無いので安全です。
また、廃線の線路跡敷地はレベル4として条件を満たしますので、一般道路に先行した自動運転の実現が期待されます。そうなれば、レベル5の社会実装に向けて、事前検証を行いながら成熟度を上げていく最適な実証フィールドとなります。

人口減少トレンドで赤字ローカル線の旅客数を増やすのは簡単ではありません。そこで旅客収入の不足分を貨物輸送で補填しようと、貨客混載サービスの導入が検討されています。ただ、「人の乗り降り」と「荷物の上げ下ろし」では、列車•駅の構造やダイヤ編成への要求に違いがありそうです。1〜2時間に1本程度の列車本数であるローカル線も多いので、駅や列車が空いている時間帯を利用した貨客混載サービスの実証実験が可能ではないかと考えます。
さらに、駅は地域社会の玄関口ですので、駅前スペースを拠点とした次世代モビリティ(自動運転宅配車両や配送ドローン•ロボットなど)による地域住民への配送サービスは有効と思えます。次世代モビリティ配送と貨客混載列車輸送を組合わせたサービスなどの実証実験で、ローカル線を活用するのもあり得そうです。

次世代モビリティのコアとなるCASEやMaaSは、公共交通にアクセスができない交通弱者を無くすことが目標の一つです。その実現には、単に技術を導入するだけでは足りずビジネスとして成立することが求められています。赤字ローカル線の維持に向けて多くの議論がなされていますので、この困難な課題の解決に持続可能な次世代モビリティの活用策があればと思う次第です。

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