次世代技術で生活機能を動かす地域開発

地方では人口減少の加速が危惧され、流入超過で人口増の三大都市圏では高齢者比率が高まる傾向にあります。人口動態の変化が日本の各地域で顕在化しつつありますので、今後、その影響はさらに拡大すると予想されています。

次世代モビリティと生活機能

お昼時に移動キッチンカーの前でランチを買う人が列を作る光景は、日本各地で良く見るようになりました。将来は、インターネットで注文を受けたシェフが、自動運転のキッチンカーで移動しながら調理を行い、ドローンや配送ロボットでデリバリーする時代が来るかもしれません。そうなれば、お客さんは並んで待つ必要が無くなりますし、販売場所を探すシェフの苦労も無くなります。
「100年に一度の大変革」に直面しているモビリティ関連の技術進歩は著しいので、あながち全くの夢物語とは言えない状況です。このままのペースで進化するならば、eVTOLと呼ばれる空飛ぶクルマや大型のカーゴドローンが、都会の空を飛び交うスターウォーズの世界が実現する日も近いかもしれません。

人口減少や少子高齢化と言う人口動態の影響は大きく、日本の各地は様々な固有の問題を抱えています。次世代モビリティ技術を社会的課題の解決へ直接的に繋げるアイデアは重要と考えます。それにより、大都市部では交通渋滞や環境問題の解消、大都市近郊部や地方の中核都市ではシャッター商店街の有効活用、過疎地や島嶼部では生活交通の確保、などを実現する可能性はありそうです。
今後の一つの方向性として、これまでの生活基盤(スーパー、学校、託児所、公共交通など)が固定された場所にある静的地域開発ではなく、ITと次世代モビリティの技術で生活機能を動かす、動的地域開発の検討しても良いと思います。

動的地域開発のイメージ

ある日の夕方、仕事を終えた人たちがオフィスビルから出てきます。一人の女性が人の波から外れ道端で足を止めると、ほんの数秒、スマートフォンを慣れた手つきで操作しました。すぐに帰宅を急ぐ人の流れへ戻った女性は、そのまま地下鉄の駅へと向かいます。
三十分後、自宅の最寄り駅に着いた女性は改札を抜けると、駅前に広がるシェアリングスペースの中を進んでいきます。その左右には自動運転EVをベースとした移動型生活機能車両が整然と並んでいます。ウサギのキャラクターがペイントされた1台の移動型保育園に女性が近づくと、低床箱型のボディから元気よく男の子が飛び出してきました。担当の保育士と笑顔で挨拶を交わすと、男の子の手を引いて隣に停車している移動型スーパーの横へ立ち、ボディ側面のリーダーへスマートフォンをかざします。すぐに車両内部でロボットが動きだし、食材を入れた買い物袋を冷蔵庫から取り出すと、ゆっくり女性へ差し出しました。
食材を受け取った女性は、移動型キッチンに乗り込み夕食のカレーを料理しながら帰宅します。その間、男の子はインターネットに繋がれた車載モニターでオンラインゲームに夢中です。家に帰り鍋をコンロにかければ夕食の準備は完了し、家族と夕食を楽しんだ後は趣味の時間となり、女性は欠けた陶器を手にして金継ぎ作業へ没頭します。

上記のイメージは空想ですが、将来あり得る日常の姿と思います。
女性が会社を出たタイミングで自動的に保育園へ連絡が入り、男の子を乗せた移動型保育園が駅へ向かいます。スマートフォンから注文を受けたスーパーはカレーの食材を準備し、駅前の移動型スーパーで引渡した時点で料金を決済します。
これらは、自動車で帰宅中の料理やオンラインゲームを含めて、以前の記事に書きましたMaaSとCASEの技術で実現できる可能性があります。
・Connected:自動車をネットに接続して情報•エンターテイメント端末化
・Autonomous:自動車を自動運転化し、人をハンドル操作から解放
・Shared:自動車は所有から共同使用へ、移動時間も他の目的とシェアリング
・Electric:電動化で、脱炭素社会の実現に貢献
駅前のシャッター商店街や公共施設などに、移動型生活機能車両がアクセスできるよう、通信•充電•メンテナンスなどのインフラを整備します。これが動的地域開発のイメージです。
静的地域開発は、買い物や通院などで人が移動し生活基盤(スーパーや病院ばど)へアクセスするのを前提にしています。それとは逆に、動的地域開発は、生活機能を次世代モビリティに載せて人のいる場所へと移動させます。

バージョンアップしていく動的地域開発

従来の静的地域開発は、自治体や民間企業がコンソーシアムを組み、対象となるエリア全体の開発方針を策定し、オフィス•商業施設•病院•マンションなどを複合的に整備していきます。その祭の費用や期間を考えれば、駅•鉄道•道路•歩道などの交通インフラは既設の状態で維持するのが効率的です。ただし、これは開発サイドの観点なので、利用者サイドの視点で見れば交通インフラも一新した方が、より効果的とのケースは少なくないでしょう。
これに対して、動的地域開発は、先端技術を活かす方向性での街づくりを志向します。開発する際には、ヒトとモノが移動する動線を「空間」と「時間」の軸で計画するのがポイントとなります。そして、この「空間」と「時間」をシェアする具体的な利用者とビジネスのユースケースを想定することも求められます。
さらに、一度整備したら終わりではなく、進歩の早い次世代技術とビジネスに合わせて、地域を常にバージョンアップしていくのも必須です。そうでないと、動的地域開発の特徴が発揮できなくなります。

これからの地域開発では、人口動態、地域住民ニーズ、環境問題、エネルギー需要などの社会的な変化から強く受ける影響への迅速な対応が重要と思います。
行政機関と民間が連携して動的地域開発を導入するのも、一つの有力なアイデアだと思います。

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