不安感に押しつぶされ、喉に何かがせりあがってきそうなそんな時

こんな人、世の中にたくさんいるのだろう。
私がこんな気持ちになったのは
昨年旦那に突然先立たれた時だった。

何も食べられなくなり、あばら骨まで浮いてきた時には
こんなにも簡単にダイエットが成功するなんて、と思った。

ごはんを作ってはいた。子供がいるから。
旦那が死のうが子供の腹は減る。
犬だって朝と夜の散歩に行きたがる。
だから、旦那が死んだっていつもの毎日を送っていた。

けど、食欲は湧かないし、夜は眠れない。
うとうとしてきたかな、と思うと、口から心臓が飛び出るくらい
どきどきしてきて目が覚めてしまう。
とにかく不安で不安でたまらない。そんな毎日。

死んだ旦那には多額の借金があった。
事業をしていたから仕方がないとは思う。
ただ、遺産を相続するとなると、その多額の借金も背負う羽目になる。
そして相続したとしても、建てたばかりのマイホームは借金返済のために売る羽目になるだろう。

そう、家がなくなるのだ。そのことを考えると
大声で叫びたくなってしまったり、
布団の上でのたうちまわったり、
じっとしていられない気持ちに襲われたりした。

専業主婦を長らくやっていた私が稼げる金額なんて
たかが知れている。子供と犬二匹が住める家の家賃は安くない。

そんな家を探そうと思っていたけれど、
母は都営に住みなさいと言ってきた。
犬は母が預かり、私は子供と生活基盤を整えるように、と。
そして、犬を迎えに来たら良い、と。
(都営はペット禁止です)

私にとって犬は犬じゃなくて、
もう子供と同じくらい大切な存在なのに。
毎日寄り添って寝ているのはむしろ子供ではなくて犬の方なんだけど。

子供のことを第一に考えなさい、そう言われて、
犬だって家族なのにという私の思いは汲んでもらえなかった。
まぁ、ここは価値観の相違というやつで、
一生平行線であろう、そう思う。

家がなくなって犬とも離れる。
もう、どうにかなりそうだった。
こうなったら意地でも相続して家を保ち、
死ぬ気で借金を返していこうか、そんなことも考えた。

けれど、相続をやめようと思えることが起きた。
そう、新たな旦那の借金が発覚したのだ。
もしかしたら、他にもあるかもしれない。

弁護士さん曰く、
「まだまだ債権者が増える可能性がありますよ」と。
事業をしているとそういうことが多いのだとか。

もう、お手上げ。これ以上債権者が増えたら、
家を売却したとして手元に残るお金は少ないか、
もしくはマイナスになるかもしれない。

さらに、不動産売却は所得扱いになるから、
翌年受けられるはずだった手当などが受けられなくなる。

相続のメリットある?そう思った。
相続を放棄する。きれいさっぱり全てを捨てて、
子供とわんこたちと一からやり直そう、そう思った。

現在は配偶者居住権にて、まだマイホームに住むことができている。
とはいえ、数か月後には出ていかないといけない。
確実に別れが近づいているマイホームで過ごす毎日は
本当にかけがえのない日々。
この家の至るところで写真を撮って、思い出に残そうと思う。

いつか新しい家を建てる時、
この家のお気に入りの場所を再現したいと思っている。
それが夢。

子どもをきちんと大学まで行かせて
小さくていいから犬と住める家をもう一度建てる。
それが今の私の目標。

目標を立てたら不思議なもので、
恐ろしいほどの不安感がなくなった。
小さな不安感は常にあるけど、
気持ち悪いくらいの不安感に襲われることはなくなった。

旦那が死んで約2ヶ月。我ながら立ち直りが早いと思う。
もう少し愚図愚図すると思っていたのだが。

多額の借金でマイホームを手放して犬ともさようなら(一時的に)
というショッキング過ぎる出来事のせいで頭がバグったのか。

事業資金だけでなく、旦那の個人の借金が明るみに出る中で、
寂しい気持ちから、普通に『こいつむかつく』に変わっていったのが
良かったのか。

そう、寂しくなんてない。普通にむかつく。
ここまで不幸のどん底に落としてくれるとは。
全部丸投げして死にやがって、クソ野郎。

暴言を吐いたけど、
こんな私でも死んだ直後は思慕の思いでいっぱいだった。
だから、好きな気持ちが大きい時に死なれてしまった人の辛さは
私には理解してあげられないと思う。

けど、あの気持ちは私にとっては足を引っ張ってくる邪魔な感情だった。
後ろばかり見てしまうから。
楽しかった思い出ばかりに囚われて、今を見られなくなってしまうから。

怒りという感情はあまり好まれない感情だけど、
悲しみから立ち直るには良い感情なのかもしれない、
そんな風に思った。

配偶者を亡くすということはとてもつらいことで。
道行く夫婦を見ると、いいなぁ、配偶者がいて、なんて
僻んでしまう自分がいる。

さんざん役所で書類を書いたけど、
配偶者『無し』のところに〇をつけるのがこんなに辛いとは。
久しぶりのシングルに戸惑う自分がいる。

人はいずれ死ぬ。
結婚をしていたら配偶者の死は残されたほうが必ず味わうわけで。
それが人より少し早かっただけ。ただ、それだけ。

そう思っていても、しばらく道行く夫婦を羨ましそうに見てしまうのは
止められなさそうだ。

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