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【カズト・コバヤシ Bookレビュー】あらすじ紹介 評論

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好きな小説・文学・エッセイの名場面名文の紹介から評論までご笑覧ください。
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記事一覧

人生は漫画のコマである ー高野文子「奥村さんのお茄子」ー 1話

 寡作の天才漫画家高野文子。高野文子の作品集「棒がいっぽん」収録の「奥村さんのお茄子」を…

人生は漫画のコマである ー高野文子「奥村さんのお茄子」ー 2話

 高野文子の大胆なフレーミングと、コマの間の時間の取り方の上手さは同じ作品集の中の「美し…

人生は漫画のコマである ー高野文子「奥村さんのお茄子」ー 3話

 ここで作品を離れ、漫画のコマについてその成り立ちと意義を考えてみたい。  手塚治虫は当…

人生は漫画のコマである ー高野文子「奥村さんのお茄子」ー 4話

 お待たせしていたかどうかはわからないが、作品に戻って、その後のあらすじから続けたい。 …

人生は漫画のコマである ー高野文子「奥村さんのお茄子」ー 5話

書き残していたことがあった。  エンディングでは、醤油さしの先輩が撮影したところの奥村さ…

人生は漫画のコマである ー高野文子「奥村さんのお茄子」ー 補遺(ベンヤミンのパサー…

 高野文子さんの作品の愛読者にはあまり関心のない話かもしれないが、その魅力の秘密を探るた…

幸せとは体温である「うみべのストーブ」大白小蟹 レビュー

 「大白小蟹」という広東料理のような名前の漫画家さんのデビュー作。名が体を表すように美味だった。大胆な仮説を承知でこのマンガ短編集を説明するとすれば、このマンガは幸せとは「体温」、「誰かと体温を交換すること」であると語っていると思う。  その理由を説明する前に、短編集の概要をまとめて紹介しておきたい。「うみべのストーブ」では彼女との同棲生活が一年で破綻してしまった主人公スミオが一人暮らしのときから使用していた電気ストーブと海の景色を見に行く。「雪子の夏」はトラック運転手が大

歌舞伎狂言「三人吉三廓初買」河竹黙阿弥 レビュー ー流転する宝剣と循環する貨幣ー…

 次は、百両の循環である。こちらは誰にもあって困らないお金である。本来の機能であれば、そ…

歌舞伎狂言「三人吉三廓初買」河竹黙阿弥 レビュー ー流転する宝剣と循環する貨幣ー…

 ここまでのあらすじをもとに、宝剣(庚申丸)とお金(百両)のそれぞれが次々と人の手を渡っ…

歌舞伎狂言「三人吉三廓初買」河竹黙阿弥 レビュー ー流転する宝剣と循環する貨幣ー…

 「月もおぼろに白魚のかがりもかすむ春の空」。歌舞伎「三人吉三廓初買(三人吉三巴白浪)」…

ノスタルジアと蒐集の情熱ー四方田犬彦「女王の肖像 切手蒐集の秘かな愉しみ」ー

 小学校一年生のとき祖父は切手を集めるように言った。祖父は自分のコレクションから選んだ切…

完璧な声の肖像 マルグリット・ユルスナール 「ハドリアヌス帝の回想」1話

 古代ローマの賢帝の一人ハドリアヌスが死期を待つベッドの上で自らの人生を語る歴史小説であ…

圧倒的想像力と魔術的表現ースティーヴン・ミルハウザー「マーティン・ドレスラーの夢…

 アメリカにスティーヴン・ミルハウザーという小説家がいる。生まれは1943年で「最後のロマン…

こどもが世界を怖いとおもうわけ ー川上弘美「大好きな本 川上弘美書評集」ー

 子供のころはお化けが怖かった。愛読していた学習図鑑も鯨の泳ぐページだけは、飛ばして見ないようにした。  大人になって、お化けの話が好きになった。正確に言えば、幻想文学の愛読者になった。  世界は言葉でできていることを前提とすると、幻想文学とは、こちら側とあちら側の境界を発見する試みである。境界を越えてあちら側(異界)に行って帰ってくる冒険譚はファンタジーと呼ばれ、あちら側(あの世)に行きっぱなしの世界はXXガイとかオカルトとか呼ばれる。  川上弘美さんは、日常生活が突