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特等席を死守

次男のスイミングスクールの送迎をしている。晴れの日は自転車で、雨の日は歩きで。次男が泳いでいるあいだ、私はプールの見学席に座って本を読んでいる。

このスイミングスクールに通い始めたきっかけは、それまで通っていた、スイミングスクールが入ったジムが、破産してしまったから。破産の連絡が私たちのもとに来る前日に、私はそのジムを訪れていた。その日、次男がスイミングと同時に通っていた体育スクールのインストラクターの方や受付の方と、また来週、という挨拶を私は交わしていた。インストラクターの方や受付の方は、倒産のことを私たちと同じタイミングで知らされたのだと思う。明日からこの施設は営業停止になり、立ち入ることさえ禁じられるのだという重苦しい雰囲気が、そのときその場に流れていなかったから。

通っていた脱毛サロンが破産して通えなくなったんです、支払ったお金が返ってこないんです、というようなニュースを時折目にするが、まさか自分たちがその類のニュースの渦中の人になるとは思っていなかったから、驚いた。破産したジムの従業員の方々を心配しながら、私は別のスイミングスクールへおもむき、そこで子どもたちの入会手続きを済ませた。

気持ちを新たに通い出したこのスイミングスクールは、前のところに比べて、プールの見学席が広い。ガラス窓も大きい。見学席とプールの距離が近く、泳いでいる子どもたちのことがよく見える。前のところでは、見学席に座れたらラッキー、くらいの感じであったが、今のところでは毎回座れている。週末は保護者の数も多く席の確保は難しいのかもしれないが、平日であれば、座れる。

ジムが破産したのはとても悲しい出来事であったが、その結果私は新たなスイミングスクールで、読書の時間を得ることになった。

回数はだいぶ減ったが、プールサイドを歩く次男が顔を上げて、見学席にいる私を見ることがある。そのときに私が下を向いていて次男とアイコンタクトを取れなかった場合、次男はがっかりする、と思う。だから次男とのアイコンタクトのタイミングを逃さぬよう、身長120cmの細身の男の子をプール内で探す。と同時に、私は小説の中で繰り広げられているスリリングな展開からも、目が離せない。フィクションの中のスリルと、ノンフィクションの中のクロール習得への挑戦というキラメキを、私は行ったり来たりする。

最近、スイミングスクールで湊かなえさんの「リバース」を読み終えた。辻村深月さんや配当太郎さんの本も読み終えた。

スイミングスクールのあの見学席は、読書に集中できる私の特等席となっている。そこに居られるのは約70分という、時間制限があるから集中できるのかもしれない。

いずれ次男が、一人でスイミングスクールへ行く日々が訪れる。お母さんついてこないで、と言われないのであれば、ついて行こうか。あの席に座って、フィクションの世界へ没入したいからだけど、それ以上に、ノンフィクションの世界で泳ぎを習得中の我が子の様子を、この目に焼き付けておきたいから。

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