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【詩】 花とボタン


 給料日 仕事上がりに立ち寄るATM
 その銀行の隣に花屋がある
 軒先、白い看板には飾り文字で『花音』

 店内は細長いスペースで奥行きあり
 入り口に陳列する色とりどりの苗
 そこに見つけた 青いサルビア

 赤のイメージが強いサルビア
 私の目は青の群れに
 引きこまれる

 病室のベッドの上
 コットンの夏パジャマを着た母の姿がよみがえり
 「はめにくいわよ、これ硬くって。」
 私の縫い付けたボタンをかけながら笑った

 長期入院する母の付き添いをしていた私は時に
 貸しテレビのチャンネル権を奪ってしまう高校生
 夕方にリバイバル放送されていたアニメ
 「北斗の拳」を観ながら
 何重にも糸を巻きつけてしまった青いボタン

 それは押入れの衣類収納ボックスで数年間
 主人を亡くしたパジャマに抱かれ 眠っていた

 あの時の青いボタンが何故か
 サルビアの上を舞った
 踊るように

  影となって
  飾るもののない鋭いオベリスクをめぐり
  安んじてねむる 青よ

 そこにサルビアが咲いている
 そのことだけが、実在
 と思われた

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