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コンプラ研修で企業は不正


1.企業への信頼を揺るがす不正の発覚

昨年は企業の不祥事が多発した年であると言えました。
豊田自動織機及びダイハツの認証試験での不正行為、ビッグモーターの修理費水増し事件、近畿日本ツーリストによるコロナ関連事業委託費過大請求事件などあげればきりがないほどです。
最近になって不祥事が増加しているのかどうかはっきりわかりませんが、ダイハツの一番古い不正が1989年と言うことなので、かなり昔から不正が続いていると言えます。

2.頭に浮かぶこと

このような話を聞くといくつか頭に浮かぶことがあります
1990年代にある自動車メーカーが管理職に年俸制度を導入したことがありました。
目的は管理職間の年収格差を拡大させること、いわば成果を出している管理職と成果を出していない管理職に差をつけることでした。
この年俸制度を導入した初年度の結果はどうだったかというと、実は差がつきませんでした。
その要因は同じ釜の飯を食った仲間に差をつけることはできないという、いたって感情的なものでした。

2021年に発表された「企業不祥事と従業員エンゲージメントの関係」と題された調査は、会社上司への期待度や満足度従業員エンゲージメントと企業が起こした不祥事の件数や企業体制などのデータを回帰分析したもので、上場企業128社が対象となった調査です。
その内容は、「従業員エンゲージメントが高ければ不祥事が減るとは一概に言えないということがわかった」というものです。
「会社満足度が高い」また「制度待遇への満足度が高く期待度が低い」つまり現状に満足しており変化を求めていないほど、企業体質評価が悪化し不祥事の事案件数が多くなっています。
また、「話題性や知名度」「社会的な影響力」があり「顧客基盤が安定している企業」ほど、不祥事が起こる可能性が高いという結果になっています。
社員の満足度が高いから不祥事が起こりやすくなるという訳ではなく、社員が組織内部を向いて組織内部の独自ルールに従っているということが一番の問題だというふうに理解できます。

さらに思い出したのが、1977年文藝春秋から刊行された山本七平「空気の研究」です。
印象的な内容を示すと次のようになると言えます。
(1)日本の道徳は「差別の道徳」であり、「知人(内集団)は助け非知人(外集団)は助けない」という規範で動いている。
これはなんとなく、理解できます。
いわば村社会のイメージです。
(2)  日本人は論理的な議論の結果ではなく、得体のしれない「空気」なるものに支配され、意志決定(自由)を拘束されている。
結論を下す際、論理的帰結ではなく、その場の空気に適合することが第一になるということです。 空気の前に議論(論理)は無効化し、無色透明の空気は、意識的にその存在を確認できない漠然としたものとして人間を包囲し、絶対的に拘束します。
会議後にあの場では言えなかったが、実は私は反対だった等の意見はよく聞く話です。
なぜこの空気が発生するのかなどはかなり難解な内容なので端折りますが、先に記載した思い出したことと合わせて整理すると、次のようなことが言えるのではないかと個人的には思っています。

3.個人的な見解ですが

強い仲間意識、これが論理的な話よりも感情的な決断を優先させる。
したがって同じ仲間として非難する事を嫌がるし、仲間から排除されることも嫌がる。
ましてやエリートである管理職が率先して会社の問題を指摘してエリート集団から離脱するわけがありません。
では今の新入社員にもこのような感覚があるのかどうか?
ある会社の新入社員研修でグループのメンバーに対して問題行動をストレートに指摘したことがありますが、それに対するメンバーの反応は「グループの雰囲気が悪くなった」というものでした。
これは強い仲間意識でなく、関係性を悪化させることへの拒絶だと思います。
つまり場の雰囲気を悪くすること、お互いの関係性を悪化させる行動は、良くない行動であると教育されてきたことが根本に有ると思います。
場の雰囲気まさしく空気そのものであると言えるでしょう。

2つ目は絶対的な単一価値基準です。
利益をあげないと会社が存続しないと言われると、それに対して誰も反論できません。
そうなると利益をあげる行為はまさしくすべて正しい行為となるわけです。
実際には、白か黒かという単一の価値基準など存在せず、利益を上げると同時に従業員の幸福を高めていくこと、顧客満足度を高めていくことなど複数の価値基準があるはずですが、単一の価値基準にしたほうが判断が楽になり悩む必要性がなくなります。
怖いのは外部から見ておかしいと思うことが、内部で慣れてしまうと当たり前の価値基準として共有されることです。

4.コンプライアンス研修で不正はなくなるのか?

このような不正が発生すると対策としてよく言われるのがコンプライアンス研修の実施です。
このような知識提供型の研修がはたして役に立つのだろうか。
個人的にはあまり役に立たないと思っています。
コンプライアンス意識が高い会社で何を行うべきかを学ぶのであれば有効な研修だと思いますが、問題なのは頭で分かっていても場の空気で流されていくことであり、自社で当たり前だと思っている価値基準を壊すことができるかどうかです

これを壊すのは単純に言えば雇用の流動性を高めること、これが一番効果的だと思っています。
周囲と良好な関係を構築しながら業務を行うことも大切です、流動性を高めることにより、他の会社の常識がこの会社では全く非常識であるということもわかりますし、異常な価値観で動いていることもわかります。
そのためには、多様な教育バックグラウンド、多様な職歴、多様な経験を持っている人材を採用することが必要です。
実は、これが本来のダイバーシティ経営であり、単に性別や年齢などその人の属性について多様的にすることが、ダイバーシティ経営ではありません。
そして、自分のキャリアを同じ会社の中で役職が上がっていくことだけに求めるのではなく、専門プロフェッショナルとして自らキャリアアップを行おうという人材を求めていくことも必要です。
いわば、出世競争に打ち勝つ能力よりも、自分のキャリアでどこに言っても飯を食っていける人材の方が社内でリスクを取りやすいということです。



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