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第一章 クラスと席

 帽子をかぶった瀬木による講演が終わった華、優香、マルティナの三人は、計1kmもある敷地内を歩き、二百人の大行列とそれを案内する瀬木とともに校舎へ移動していた。

 道路には桜の木が植えられており、近代的な建設の合間に和風な風景が浮かんでいる。

 

「意外と広いんだね…」

 生徒が二百人のみという異例の少なさと比べて、校舎の異常な広さに華は驚きを隠せなかった。

「そうだね…それだけ多くの時間をかけて作られたんだと思う」

 同じく驚く優香は、歩きながら数年間の時間をかけて作られた学校の内部を見て感激していた。

「これはもう、、一つの町じゃないかな?」

 そう華が言ったところで、マルティナは口を開いた。

「そうか…こんなに大きな建造物のまとまりを見るのは二人とも初めてなんだな」

 優香はそんなことを口にするマルティナに聞いた。

「マルティナさんは、見たことがあるんですか?」

「出身地がゲルマニア……大都会だったからな」

「あ~! ゲルマニアって確かドイツですよね。 七年くらいかけて改装された世界でも大きな首都で…」

「ユウカは詳しいな、下手したら私よりもドイツのことについて知っているかもしれないな」

「昔ドイツには旅行に行ったことがあって、、そのときに教えてもらったんですよ」

 そういうことを話しているうちにも、目的の校舎へ迫っていた。
大きめの生徒玄関前には紙が貼っておりクラスの組み合わせが張っていた。

「この紙の通りで、校舎の中を探し回って、教室に何とかたどり着いてください、私は案内しきれないから」

 大声でそう呼びかける瀬木に、人々は一斉に動き出した。
 そして、三人がその表を確認すのには少し時間がかかった。

「あ、私たち同じクラスだ! やったね」

 一学年に200人規模で6学級にわかれているのだが、C組に三人の名前の記述はあった。
 同じ学級になる見込みは薄いと思っていた華が歓声を上げる。

「ごめんね、昨日までに決めたかったんだけどぎりぎりまで決まらなかったのと、君たちのことを全く知らないから、仲がよさそうな人をできる限り同じようにできるように思って、あとそのほうが簡単だし」

 近寄って申し訳なさそうに瀬木は言った。

「それにしても、こんなに数年も前から進んでいる工事なのにクラス決めに遅れるとは、いったいどんなことがあったんでしょうか?」

 それでも気になったマルティナは壁にもたれている瀬木に聞いた。

「え? いや、まあ開校するのが今年っていうのは12月に決まったことだし、、いろいろ間に合っていなかったんだよ」

 瀬木は驚いたように返事をした。

「それよりも、さ。 早く教室探そうね。 まあ先に言っちゃうととC組の担任は私だから、探さなくてもいいけど」

 じゃついてきて。といってもう誰もいなくなった校舎の中に入っていく。

「それにしても、、大きいんですね」 
 
 玄関は大きなドーム状になっていて、内装こそ普通の高校と大差ないが、廊下はとても長くて様々な場所につながっている。 

「昨日一回ここ通ったからなんとなくわかると思うけど、本来一学年350名が目標だったのに、200人しか来なかったからかなり想定外なんだよ」

「だからこんなに人数と広さがあってないんですか」

 大きな迷路のような廊下と階段を超えて1Cと書かれた教室についた。

「じゃあ、今から言う机に並んでね、座るのはそのあとで」

 教室に入室して三十人の生徒がいることを確認した瀬木は一人ひとり名簿を確認して名前で呼んでいった。

 少ししたあと、

「―――じゃあここね」

「はいはーい」

 瀬木の呼びかけに応じ、全員が椅子に座った。



(結局、私の隣は知らない人だった…)

 結果は、華の隣にはソビエトから来た未知の人物、その後ろには優香とマルティナが座っていて同じ班になった。

(どうしよ、、緊張するなぁ)

「こ、こんにちは」

 どうにもならず、華は焦る様子であいさつを行った…が。

「こんにちは」

 のみで会話が終わってしまい、絶望的に困惑した。
 そして、瀬木はクラスを一望した後に、教卓の後ろに立った。

「はい、じゃあ話を始めます。 知っての通り、ここは平和を目指す学校…っていう名義でやってる軍事学校。 その能力科兼、特殊部隊兼、士官を養成する場所だから、ほかの軍隊と大して変わりない訓練を、君達にはこれから受けてもらわないといけません」

 本来なら爆弾発言だが、華は感慨深くこの話を聞いていた。

「まあ、厳しい訓練になると思いますが、頑張ってください」

 その時の表情は、全員の頭に深く印象に残り、拍手が起こった。

「もう寮への道はわかると思うけど、寮の部屋の組み合わせはできるだけ知り合いとかの方がいいと思うから、部屋のリストを配るからそれぞれであとで割り当ててね」

 まあ? 別に知り合いじゃなくてもいいんだけどっ。 などそんなことを言いながら『1Cクラスの先生』はリストと、学校についての資料をクラスに配布する。

「はい、今日は解散します。 えっと、このあと個別で私のとことにきて、生徒手帳をもらってから、今配った、この学校、、訓練場についての資料を確認して、今朝と同じように生活してくださいね」

 先生の話は終わり、クラスは解散以降、寮の部屋の割り当てを、片言の海外から来た生徒などといっしょに自分たちで行い、自分たちで決めることができた。

「え、私達ですか!?」

 寮は1部屋2~4人で、華は優香、マルティナ、そして今日華の隣になった人と、4人の部屋になってしまった。

 というよりは、意見を言わないので、あまったのがここになってしまったという方が正しいが、華としては親友の優香に、かろうじて今朝に知り合って仲が良くなってるマルティナの3人に、知らない人が来ると、その人がかわいそうになってしまったのだった。


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