流暢なセンテンス

 流暢なセンテンス。流暢な、センテンス。舐めて、咀嚼して、飲み込む。流暢な食事。
 舐めて、無くなる。飴玉はどこに消える。まるでこの世から、最初から無かったみたい。
 飴玉はどこ?飴玉はどこ?私の口の中にだけ残ったこの甘い後味の行方はどこに続くの?目を閉じてるみたい。飴玉を舐めることよ。口の中に放り込んで、その後は、一度も見てないわ。飴玉はどこ?口の中はどんどん甘くなるわ。でもどこを探しても飴玉は見当たらないの。飴玉はどこ?私の口の中はどんどん甘くなっていくわ。
 ねぇあなた、私の口の中を見て下さらない?そう、なんだか口の中が甘ったるいの。まるで、飴玉を舐めてるみたいよ。ひょっとしたら、飴玉は私の口の中にあるかもしれないわ。私の口の中って私の目じゃ見れないのね。不思議だと思わない?まるで私のものじゃないみたい。私のものだったら、私に見せてくれたっていいでしょう?
 私の口の中を見て下さらない?あなたの言葉で教えてほしいの。私に見えない、私のこと。
 目が覚める。目が覚める。顔を覆う。目が覚める。水を飲む。喉が乾いていた。顔を洗う。目が覚めた。いつもみたいな朝だ。昨日や、一昨日みたいな朝だ。先週もこんな感じだったかもしれない。なんでもそうする。そういう朝じゃないか。そうしたら、階段を降りるだろう。そしたら、挨拶するだろう?「おはよう。」って。朝ご飯?多分トーストと、冷蔵庫の中に入ってるヨーグルトと。そんな感じ。
 なんだか口の中が甘い気がする。飴玉でも舐めてるみたいだ。口の中はどうなってるんだろう。ひょっとしたら、飴を舐めたまま寝てしまったのかもしれない。なんとなく思い出してきた。昨日は、たくさんお酒を飲んだんだ。それで、それで。そういえば頭が痛い。なんだ。なんだ。口の中が甘い。なんだこれ。とりあえず歯を磨いて。
 「・・・おはよう。」
 「・・・おはよう。」
 「顔色悪いわよ?」
 「君は、なんだか元気そうだね。」
 「そうね。そうかも。」
 「ごめん、ちょっと洗面所に。」
 「どうしたの?」
 「なんだか口の中が甘ったるくて・・・。」
 「・・・ふふ。こっち向いて。」
 「えぇ、あぁ。」
 流暢な朝。柔らかい朝日、小鳥のさえずり、お湯が沸いたポット、トーストの焼ける匂い、テレビから聞こえる天気予報。
 明けた夜の答え合わせ。
 「飴玉はどこかしら。」
 「もう、溶けて消えちゃったんじゃないかな。」
 明けない夜の、甘い答え合わせ。


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