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【ネタバレ有】Thisコミュニケーション感想【名作】


全巻、読書前と読後で表紙の意味合いが違って見える、と言う凝ったシナリオ


 おい! 面白すぎるだろ! 今回は2024年4月に完結した漫画『Thisコミュニケーション』(原作、六内円栄)の感想をつらつらと、ネタバレ有りで語っていこうと思う。作者様は、ロクダイマルエイ先生と読むらしい。僕は基本、ネタバレ込みの感想は言わない主義だが、本作に関しては何を言ってもほとんどネタバレになってしまう。その配慮をすると多分第1巻にしか触れられなくなってしまうので、すまんが気にせず語らせてもらう。Wikipedia君、概要を説明してくれ、「早く来い! もう三回止めてるんだぞ!」

「怪物によって人類が滅亡の瀬戸際にある21世紀において、徹底した合理主義者で、殺人も厭わない非倫理的な元軍人が肉体改造された少女たちを率いて、最後の砦である日本の研究所を怪物から防衛しようとするサバイバルサスペンス作品である。」(Wikipediaより引用)

 主人公ボロカス言われているが、全くもってその通りなのだから仕方がない。主人公デルウハの目標、というか生きる指標は一日三食であり、三食守るためなら常に合理的な行動をする。読んでいると分かるのだが、別に殺人趣味なわけではなく、あくまで三食を死守するための手段として選んでいるだけであって、なのになぜか殺人鬼にしか見えないシーンが多すぎる。たぶん平和な世界だったら作中のようにバカスコ殺しはしないだろうが、終末系の世界観が殺人に説得力を持たせており(殺人に説得力ってなんだよ)、この辺りは作者の円栄先生の設定力が光る。というかThisコミュ、ジャンプSQ連載中のアンケートは一位二位ばかりで、単行本の作者コメントにも「人気落ちてきたのでテコ入れ(ストーリーや路線を変えようみたいな話)しましょう、みたいな話に一度もならなかったのは幸運でした」という風なことを書かれていたので、やっぱ面白さをわかってる人はいっぱいいる。

 本作は誇張抜きに日本漫画史に残る名作であり、脚本の濃密さは、僕が知る中だと『デスノート』『寄生獣』『鋼の錬金術師』『Dr.STONE』『進撃の巨人』らに並ぶ。デルウハは合理の塊(作中の言葉を借りるなら「合理性の獣」)であり、戦闘前の思考も戦闘中の思考も完璧であるから、同じ手は喰らわないし同じ手を使うこともない。それが作品にエンタメ性を持たせ、読者を驚かせたり笑わせたり、とにかく予想を裏切ってくれる。円栄先生は本作が初連載らしい。凄すぎる。
 そして、円栄先生自身も、我々読者に対して同じ手を使わないのだ。というのも、例えば作中何度かあるデルウハとハントレス(不死身の少女たち)の戦いも、毎度デルウハの殺人のバレ方が違うし、戦闘の流れも違う。絶対に読者を飽きさせない工夫が常にされているし、何が凄いって毎回の引きもうまいんだよねこの先生。
 僕とThisコミュに出会いは、職場の先輩に1〜3巻まで借りたことからだが、3巻の最後はデルウハの首がギロチンで飛ばされるシーンでした。4巻まで貸してくれよ! 区切りが悪いよ! ていうかなんで主人公の首が飛んだのにこの漫画続いてんだよ。と思いました本当。

 作者円栄先生は連載中ぐんぐん進化しており、特に最終巻にあたる12巻の成長ぶりは素晴らしい。「人体の断面でコマを作る」「白紙に文章だけのページを作り、小説と漫画を融合させる」などの構成は圧巻で、漫画家先生としてぐんぐん成長しているのが読者の僕たちから見ても分かる。

 最後に、本編のクライマックスについて語りたいから、ここまでで興味を持ってくれた人はページをそっと閉じてほしい。以下、一番好きな地の文を引用する。
『…有史以前から…そしてこれからも愛や情は勘違いに過ぎず 握り返された握力の強さといった事象を拡大解釈したものでしかないが それはそれで 例えば世界を救うようなことを世の中にもたらし続けていることは事実である』(Thisコミュ12巻より)

 デルウハは最期、脳まで酸素が回っていなかったのだが、「私たちのこと、愛してくれてた?」と聞きながら手を握る「よみ」(ハントレスの一人)に対し、手を強く握り返す。それは、科学的には、ただの反射に過ぎない。だが、彼女たちはこれをデルウハの最初で最後の愛情表現と解釈し、そのコミュニケーションを最大の支えとして、人類のための最後の戦いへ勇敢に向かっていく。
 本作の凄いところは、一貫して「愛や情は勘違い」「言葉やジェスチャーは伝達手段の一つで、それ以上でもそれ以下でもない」というスタンスを崩さないながら、それでいてコミュニケーションの大事さや尊さを教えてくれるのである。この世界観と主人公のキャラで、よくこんな爽やかな読後感にできたな。

 12巻の巻頭コメントには、「これがコミュニケーションだ!!」と書かれてある。全くもってその通り、日本において円栄先生以上にコミュニケーションに詳しい人間はいないだろう。先生は哲学的な漫画家なのかもしれないし、漫画が上手い哲学者なのかもしれない。

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