シェアハウス・ロック0810

樹木希林さん 
 
 大阪のジャズ喫茶に出演していたザ・タイガーズ(ファニーズ)をスカウトしたのは裕也さんだった。
 そのボーカルの沢田研二が『時間ですよ』というテレビドラマにゲスト出演した折、沢田研二に会うためスタジオを訪ねた裕也さんが、当時悠木千帆という芸名だった樹木希林さんに会ったのが、裕也さんと希林さんの初対面だったということに私の記憶ではなっている。
 ただ、『時間ですよ』の続編みたいなドラマ、『寺内貫太郎一家』では、希林さんは小林亜星が演じた主役の貫太郎の実母役であり、仏壇の横に貼られた沢田研二のポスターの前で「ジュリーィィィ!!」と身もだえするのが決め動作(決めゼリフではない)だったので、どうも、そのあたりで私の記憶は混乱している。『時間ですよ』に沢田研二がゲスト出演したのかどうかも、私にはわからない。
 ただ、「あの人(希林さん)は、天才だ」というセリフは、裕也さんから直接に聞いている。
 前回お話しした野外コンサートの翌年か翌々年、やはり同じ大学でやったコンサートで、裕也さんに出てもらわないわけにはいかないので出演依頼をしたところ、「自分はその時期アメリカにいるので出られない。女房が代わりじゃだめ?」という返事が返ってきた。樹木希林さん(まだ悠木千帆さんだったか)のライブなど、めったに見られるもんじゃないし、これはいやもおうもない。
 で、当時お住まいだった代々木上原だったか、代々木八幡だったか、小田急線沿線のマンションまでお訪ねし、正式に出演のお願いをしたのである。どっちだったか忘れたが、小田急線で「代々木」がついた駅だったのは間違いない。
 約束の時間にドアチャイムを鳴らすと、中から「はいはい」という声が聞こえ、ドアが開けられると、シャム猫が2、3匹廊下に飛び出してきて、「捕まえて! 捕まえて!」という声が猫を追いかけて聞こえ、私は彼らを追い、捕まえ、お互いに両腕に猫を抱いて、「初めまして」となった。
 そう言えば、裕也さんは、「あれだけ猫がいたら、とても眠れない」と言っていたっけ。書いていて思い出した。
 それから数日して、私のところに電話がかかってきた。
「もしもし、悠木です」
「はい」
「あのね、裕也さんが帰って来ないのよ。どこにいるか知らない?」
「知りませんよ」
「ほんとう? 隠さないでよ」
 名優だからね。この「隠さないでよ」は怖かった。一瞬、私は、裕也さんの隠し女にでもなった気分がした。
 古今亭志ん生さんは、「芸人は、下手とやっちゃあいけません。下手がうつります」と言ったというが、名優がサポートしてくれれば、私だって隠し女役くらいはできそうな気がしたものだ。
 希林さんのライブはどうだったかだって?
 うまくいかないわけがない。そのコンサートには上田正樹とサウス・ツー・サウスも出た。彼らのステージも名ステージだったが、完全に希林さんに食われていたな。
 その話は次回。気を持たせるね。
 でも、樹木希林さんの、唯一(たぶん)のロック・コンサート生出演だから、このくらい気を持たさせてもらわないとね。ヘンな日本語だね。

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