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ジャンケン大会の緊迫

ある冬至の日の出来事。
その日スーパーにはカボチャやゆずが
たくさん売られていました。
カボチャ売り場には試食販売の女性がいて、
美味しそうなカボチャの煮物が小皿に乗っていました。

私と70代くらいのご婦人がカボチャを見ていると、試食担当の鈴木さん(仮名)が、
「ホクホクでとっても美味しいですよ。いかがですか?」
と声をかけてきました。
私とご婦人は、「美味しそう~」などなど小声で言いつつ見ていました。
すると鈴木さんは再び
「国産は今だけなんですよ~」とか
「今日は冬至ですからね~」と、続けます。
「へえ~~~」私とご婦人はそんなリアクションでカボチャを見続けていました。

数分、そんなやりとりは続きました。
鈴木さんは、「ホクホク」と「冬至」というワードを多様に駆使して私とご婦人に勧めてくれました。

しかしその時恐らく私もご婦人も、同じ事を思っていたはず。

そのお皿のカボチャは…
食べさせてくれないのかな?

私は「食べていい?」とご婦人が言ったら便乗しようと少しの時間粘りましたが実現しませんでした。どうやら鈴木さんはカボチャを食べさせる気はない様子。

何故ですか?!鈴木さん!
あずきまで乗せてそんなに美味しそうなのに?!
もしかして自己申告制ですか?鈴木さん。
でもちょっとその勇気私にはありません!

鈴木さんの胸のうちは分かりませんでしたが、
私もご婦人も何となくカボチャをカゴに入れてその場を去りました。

その後、鮮魚コーナーに人だかりができていました。
どうやらマグロの解体実演販売のようです。
その周りで数人、腕を挙げています。
何だろう?
すると、中央にいる店員さんが

「ジャーンケーンポーン!」

と元気いっぱいに叫びました。
じゃんけん大会?ここで?
隣にいたご婦人に聞いてみると、
どうやらマグロの中落ちを賭けてジャンケン大会が開かれているようです。


私は思いました。

こんなリスキーな条件でジャンケン大会を企画するなんてすごい。
と。

私は前の職場で、子供達に向けたジャンケン大会をやった事があります。
ジャンケン大会というのは、ジャンケンをする人のテンションが命です。
場が盛りあがらなかった時の心の折れ具合は半端ではありません。
しかし場がどんな様子であろうと、元気いっぱい夢いっぱいに
腕を掲げなくてはなりません。

そして、例え負けたお客様が「別にいいし」と冷めた表情をしていたって、ざーんねーんでしたー!!と誰よりも悔しがらねばならないし、
勝ったお客様が「うわ、前に出るの嫌だな。」風な様子でも、
おっめでとうございますー!と誰よりも喜ばねばなりません。
ジャンケンとは人類の夢であり希望だからです。

お子様相手であっても、非常に緊張するイベントなのに、このお店は大人だらけのジャンケン大会に挑戦しました。
しかも、お店のど真ん中で。
そして案の定、みんな注目してるからジャンケンに参加している方々は、
どこか、恥ずかしそう。
それでも店員さんは元気いっぱい夢いっぱいに腕を掲げていました。

私はその姿に非常に心打たれ、
カボチャを食べさせてもらえなかった事を
すっかり忘れてしまいました。

マグロは高くて買えませんでしたが、
帰ってから天ぷらにしたカボチャは、
鈴木さんのおすすめ通りホクホクで美味しかったです。

そんな夕方のスーパーでの他愛ないお話でした。

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