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椎名 藍(前編)

家に戻り、母親のコレクションのシャトーディケムを開ける。爽やかな香りが胸いっぱいに
広がり、全部飲むと決めた…

少し昔話をしようか…シャトーディケム君…
飲んで食えば、元気になるあたしは単純だが
幸せなんだと思う…


中学に行くのが面倒になり、テキトーに生きていたら、母親にせめて働けと言われ、
「星岡」というラーメン屋でバイトを始めた。
店の手伝いもするが、本業はこの星岡家の家事だ。あたしが来るまで、小学生の少女が
すべてやっていた。

それが星岡葉月だった。

気の小さい奴だった。最初はあたしを怖がっていた。
気さくに話しかけてきたら、だんだんと打ち解けた。
だが、仲良くなるにつれ、この家の歪さに気づいた。


父親はラーメン作りしか頭にない様子で
まともに話したこともない。

姉の弥生が色々指示を出すが、
とんでもないヒステリーだ。
あたしと葉月が少ししゃべっていると
「給料泥棒‼️」と怒鳴ってくる。

そうなると葉月はロボットのように
喋らなくなり、黙々と仕事を始める。

怯えている…姉に
一度、風呂に入ろうと誘い、裸を見て
安心した…痣とかはなかったからだ…
でも、あれは言葉の暴力だ。
父親だってネグレクトだ。

そして、脱衣所で着替えて、ある気配にうんざりした…
弟子として住み込みで働いている
団勇だ。歳はあたしと変わらない。
こいつが葉月にご執心で、葉月の下着が無くなることがしばしばあった…

最悪の環境だった。

そして、葉月が中学生になった頃に
あろうことか団と将来結婚するという話が出た…

葉月に聞いても
「カッコいいじゃん」としか答えない…
あくまで恋愛感情があると主張する。

団の親父がこの店の常連で実業家と聞き
なんとなく察した。
接客したが、尻を触ってくるスケベジジイだ。
胡散臭い関西弁が混じって、嫌悪感しかわかなかった。

葉月が高校生となり、初めての夏だった。
父親と姉が、希少な食材を探しに
旅行に出て、店は夏季休暇となった。

その朝だった。葉月が血の気の引いた顔で
アフターピルが欲しいときた。
病院に連れ行き、ピルを処方してもらい、
薬局を出て、呟いた…
「避妊ぐらいしろよ。あの野郎」
「ちゃんと断れなかった…私がダメ」
「そんなに気にすんなよ」
「怖かった。ダメって言ったけど
ちゃんと用意したのに…ちゃんと断れなかった」
「お前、まだ15だぞ。デートレイプって知ってるか?婚約者だから何してもいいわけないんだよ!」

葉月をあたしの家に泊めて、「星岡」に
向かうと団はまだ寝ていた。

「おい、起きろよクソ野郎」
寝ぼけた変態野郎の汚ねぇ下半身を蹴り飛ばして、踏みつけてやった。

「避妊しないとかありえないんだけど」
「結婚するんだ。別にいいだろ」
「まだ高校生なんだけど、結婚は卒業後だろ。セックスすんなって言ってんじゃないよ。ゴムくらいつけろよ」

「高校なんて、はやく辞めてほしいんだよ」
「は?」
「別に学歴なんていらないだろ。オレが守るわけだし、それより猿みたいな性欲にまみれた高校生のいる所に嫁を毎日行かせてるオレの身にもなってくれよ」

「サルみたいなのはアンタじゃん。
キモチワル…束縛クソ野郎」
面に唾を吐き捨ててきた。

とりあえず、店長達が戻るまで葉月は匿った…
「藍ちゃんが怒られちゃうよ」
「なんでだよ。むしろレイプ野郎から
匿ってんだから、表彰モンだろ」
「イヤだよ。藍ちゃんがいなくなったら
私、私、ごめんなさい。ごめんなさい」
抱きしめて、寝かせた…

あたしがしっかりしなきゃ、
あたしみたいなダメ人間じゃ守れない
アレ、守るって言葉…すごく傲慢だな
気軽に使うやつの薄ぺっらさ
に何かを感じ、あたしはあたしのできることを
しようと決めた…

続く

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ホントにありがとうございます😭 さらによい作品を作り還元していきたいと思います♪