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第12夜【出戻り原画】

事情は悟っていても、サンライズ側からは何の説明も無かった…。
また、こっちから聞くのも怖いので躊躇した。
原画は1日に複数回届くようになり、出しても出しても棚に積みあがる…。

疲労も溜まっていくし、お金にもならない。
しかしガンダムの劇場版として、このままで良いわけはない…。
「これは仕事なんだろうか…?」
葛藤の中で、何度、サンライズに電話して「降ります」と言いそうになったかわからない…。だが乗ってしまった舟。職務である。

直したい原画は山ほど来る。動きも、追加したい演技も、たくさんある…。
でも優先をつけ選択しなければ、全体のスケジュールが落ちてしまう。
修正指示も無い、明らかにおかしい原画。普通だけど、演出の修正指示のある原画。サンライズがいいんだから「これでいいんでしょ」と投げ出したカットもなくはなかった。

ラーカイラムからアムロの「ガンダム行きまーす!」のνガンダムアップカットは少しカメラをいじりたかったし、メカメカしい影だったが、制作が持って帰れるものは早く持ち帰りたかったようなのでスルーして渡した。
影はサンライズで直すのだろうか?

アルパアジールの手が釣り糸のように垂れ下がってる。
ジオングのワイヤーのように動かないのは不自然だが、やはり遅れて届くであろうカットの前後関係がわからない。
それは、そのままに各ビームだけを修正描き変えた。
爆発修正の黄色の紙が二種類ある…。どっちを取ればいいのかわからない。

アルパアジールの首の爆発が「昆布みたいだから直せ」と演出指示が来た。
…爆発、やっぱ俺やんの…?これ原画家がデルマで描いてるせいだよと思いながら直す。自分の原画が修正に来た時も、24分の1コマの絵を捉えて、赤と黄色で描いたせいか?「これじゃ炎だろ!」とのケチもつけてあった。(残像にすぎないのに…。)

制作進行の回収に訪れる回数も増えてゆく…。
さっき来たのに別の進行がドアを叩く、手ぶらで帰すわけにはいかない。

届いた原画を見、カット袋の記名を二度見した。
確かに他の長編物のメカ作監の人だ…。アクシズ下の敵艦、その絵はしっかりしてる。しかし、その艦から放たれるビームも続くミサイルもコンテのままか?監督ラフのトレース…。

何が起きたか?勝手に想像して理解に努める。アレが常態化してんのか?
(自分の第二担当シーンの監督の赤鉛筆は、〇原と他の人の名前を書き
二重線で消して仙場と書きなおした痕があったし、届いた他者の原画に「お前の原画は腐れ〇〇〇と書かれていた物もあった。)

如何にすべきか?一つくらい演出責任だ。
「いいや、指示責任見た方がいい!フィルムリテーク待とう…」
それよりも、この背景兼用カットが問題だった…位置説明が曖昧で
それと同艦なのか?別艦なのか?鑑賞者には理解できまい…
ビームは24分の3コマ程度で発射からアウト、ケーラの放ったビームが
岩にあたって戦艦より大きな巨大爆発…既に他者の修正も入っていた。

修正作業当初から感じていた己の許容限界がプツンと来た。
こりゃヒットマークじゃ済まされない…。(ビームは爆発物じゃない)
いいよビームは、このタイミングのままデフォルメ作画で見せるよう処理。
爆発は全体のタイミングをずらし間にエアーブラシの衝撃派を描き加えた。
「どっか、運よくジオンの弾薬庫にでも当たったんだ」画に説得力を
持たせて自分を許す。

自分の第一の職務は、動画作業に流す絵を作る事。
コーヒーを啜り待つ制作進行に渡した。

そんなカットの一方、巨大ロボット物専門の葦プロの作画マンたちの方が
モビルスーツとして描写していて修正が最小限で済んだりもある。
(佐藤千春氏から、葦プロの若手は上手いと聞いた実物を見る機会になった。ちなみに千春氏の原画はガウン姿のナナイの胸にグラスを当てるあたり
かな?、自分より若いが女性に関しての知識は豊富だろう…?(笑)
逆シャアに関してメカはやらなかったと思う)

混とんとしてゆく作業だった…。

本来自分が担当予定していたアルパとガンダムのシーンが原画となり届く。
袋から取り出すと、監督の字で、「仙場ぜんぶ!(修正)」と書いてある…出戻りだ…。
νガンダムが、ライフル性能を変えアルパのファンネルを迎撃するシーン。
こんなんなら引き上げてもらわず…自分で描いておけば良かった…でも仕方がない。

セル枚数というのもあるが、もうここはと開き直り、νガンダムを一コマ作画にした。(しかし、動画が間に合わずの効果音入れとなったのだろう…ライフルの性能を変え撃つビーム数に対して、効果音が従来のビーム音と同じで、連射画に対して少なくフィルムは完成されてしまっている)

結局、アルパのマシンガンのように降り注ぐビームは、見えない粒子弾を発射して爆風が続く作画をした。


これより有料ですが、ガンダム特に関係ないです。自分のしてた原画という仕事について少々…。仙波隆綱に興味があれば見てください。

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