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雑談 そもそもインドネシア語って何語?

 インドネシア語の文法解説をさらっとし終えたので、次は改訂して、単語や例文を増やして、さらに触れてなかった単語の使い方や接辞(気づけばber なんてすごくよく使う接頭辞に触れてなかった)なんかも解説して、、、
 などと妄想めいた願望はあるのですが、いかんせん少し疲れたのと、自分の力量不足の問題があります。

 そのため、また少し雑談めいた話をしたいと思います。
 タイトルにあるように、そもそもインドネシア語って何語なのかということです。
 仮に日本語って何語?と質問したら、或いは質問されたらどうでしょうか?
 日本の標準語だよとか、日本で使われている言葉だよとかと言われると思います。いくつかの辞書で日本語の項目をみても、そのように説明されています。もちろんもっと詳しく、ですが。

 そういう意味ではインドネシア語はインドネシア(共和国)で使われている言語です、という答えは正解のひとつではあります。
 戦前から戦後にかけて、または90 年代くらいまで、マレー語ができるからインドネシア語ができるという表現をする方が少なくありませんでした。
 私はこういう表現が不思議でした。
 たとえば、ドイツ語ができるからフランス語もできるとはならないはずです。ということはマレー語とインドネシア語は実は同じ言葉なのか?
 そして、インドネシア国内では、インドネシア語以外にジャワ語、スンダ語、マドゥラ語など数百の方言があり、バタヴィア語やムラユ語というものもあります。
 どういうことでしょうか。

 実は、インドネシア語は親ともいうべき言語が明確に存在します。
 それはムラユ語です。
 このムラユ語はマレー半島やスマトラ島、カリマンタン島(ボルネオ島)北西部などマラッカ海峡周辺で広く使われていた交易言語です。
 なお、このムラユMelayu はマレーMalay のことです。
 少し先回りしますと、このMalay をローマ字読みしてマライ、漢字表記で馬来ともよびました。
 ですから、ムラユ、マレー、マライはどれも同じなのです。
 このムラユ語は、マラッカ海峡周辺の共通言語でもありながら、同時に(現在なら方言といわれるような)各地の言語を温存したり(二重言語生活)、また各地の言語を変化させていったりしました。
 ちょうど、現在の英語を考えてみてください。世界中で使われている言語(もちろん基本的に同じ言語)ですが、同時にインド英語やオーストラリア英語、アメリカ英語(いわゆる米語)に本家のイギリス英語などなど各地の英語があります。
 ムラユ語はマラッカ海峡周辺でそのような使われ方をしていた言語ということです。

 それがいつインドネシア語になるのかというと、オランダからの独立を目指した時からです。
 具体的には1928 年のことです。
 その時にオランダから独立し、インドネシアという一つの国をもち、インドネシア語という一つの言語を使うという宣言がなされました。
 宣言といっても、当時はまだ目標ということで、現在のインドネシア共和国が誕生するまでには、我々が知っている通り、このあと更に日本による統治、再びオランダによる支配、さらにオランダからの独立戦争など紆余曲折があります。
 ちなみにオランダからの独立をする際に現在のインドネシア共和国(と現在の東ティモール)になる前に、いくつもの国が誕生し、さらに連邦制国家になったことがあります。
 このこともいつか書きたいと思います。

 さて、インドネシア語という一つの言語を使うとしても、インドネシア語なるものは当時存在しませんでした。
 そこで、元となる言語がリアウ地方のムラユ語(マレー語)と決まりました。
 これにはいくつかの理由があります。
 政治的な理由として、まず首都がジャカルタですから、首都はジャワ島になります。また、国内の民族構成的にもジャワ人(ジャワ島東部)やスンダ人(ジャワ島西部)が使っているジャワ語やスンダ語、その他の島の民族なども含めても人数が多いまたは割合が多い民族の言語をインドネシア語にしてしまうと、当然その民族が支配的になります。
 たとえば、日本で明治維新の際に、鹿児島が主力となったからといって標準語を鹿児島弁にされていたら、とお考えになってみてください。
 そのため、使っている人が人数的にも割合的にもあまり多くない(はっきりいうと政治的に力を持っていない)言語をインドネシア語とする必要がありました。
 なお、現実問題としてジャワ人が優位的な立場にいることは(程度の強弱はともかくとして)否定できません。
 一例として、大統領選のたびに、どうしてジャワ人以外の大統領がいないのかと、ジャワ(ここでのジャワはジャワ島東部を指します)以外の人たちから疑問と批難の声があがります。
 厳密にはハビビ大統領はスラウェシ島の出身ですが、彼はスハルト大統領の任期途中での辞任によって、大統領に昇格したので、選挙により選ばれた大統領ではありませんでした。

 次に言語の特性からみた理由(言語学的な理由と書いていいのか、少しためらいがあります)として、たとえばジャワ語は敬語表現が複雑で、人間関係に序列のある社会(例えば身分や階級のある社会)ではいいのですが、オランダから独立して平等な国家を構築するのに向いているかというと、疑問が残るものでした。
 さらにはジャワ語は母語話者(ネイティブ)以外が習得するのはなかなか難しいともいわれ、(独立前にはネイティブがほぼいない言語ですから)国民全員が学ぶのには不適当ではないかともいわれました。

 そこで、まず交易語として多くの地域で使われており、ある程度文法が簡略化されていて、学習がしやすい(習得が難しくない)言語としてムラユ語(マレー語)が、さらにそのムラユ語のなかでも政治的に勢力の小さなリアウ地方のムラユ語(ムラユ語のリアウ方言とも)がインドネシア語として選ばれることになりました。

 ですから、インドネシア語って何語なのか?という質問には、元々はリアウ地方のムラユ語(マレー語)という答えになります。
 もちろん、上述したように、現在はインドネシア(共和国)の公用語という答えも正解です。

 今回の雑談はこのあたりで止めますが、では、マレー語(マレーシア語)とインドネシア語は何が違うのか、という話を、次回書いてみたいと思います。

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