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結婚は宝くじ当たるようなものと聞いたが、実際はどうよ2話


#漫画原作部門
5、最初から仕組まれていた。
結婚相談所にはじめて入会するがちょっと大丈夫?
「はーい、ネズミさんがいますよーチューチュー」 
パチリ!!
地元の結婚相談所、縁の園のオーナーが風子の笑顔の証明写真をとるため、冗談を言い笑いをとってカメラのシャッターをおろした。
「早速ですが、桜田さんにご紹介したい方がいるのです。」
履歴書のような証明写真付きの、書類を風子の目の前に出す。
「この方はですね、田川たくみさん43歳、外資系企業勤務で年収700万円、次男で秋田県出身です。」
書類をマジマジと見る、風子。
写真も顔がそこそこ整っており、優良物件に見える。
ーーお金を出せば、こんな良い人を紹介してもらえるんだ。
入会金15万円、月会費1万円、決して安くはない。
風子の中で、テンションがあがる。
「いいですね。」
思わず、本音がポロリとでる。
不自然なくらい、ニコニコとするオーナー。
「では、来週の土曜日に、お見合いどうですか?」
「あ、ちょっと待って下さい、スケジュールを確認します。」
スケジュール帳を確認する、風子。
「その日はちょうど休みなので、大丈夫です。」
「では、うどん屋の咲という店で、朝の10時に予約しておきますので、お越しください。」
目がなくなり、歯が全部見えそうになるほどの笑顔でオーナーは風子を見送った。
 それから、お見合いの日まで、相変わらず仕事では先輩の受け持ち患者のナースコールに出てなければならなかったが、イライラはいつもより少なかった。
患者から、
「お茶が熱すぎる!」
と不満を言われても、笑顔で対応が出来た。
 お見合い当日の朝、何を着ていこうか風子は1人ファッションショーをしていた。
「スーツだと、堅苦しいし、やはりスカートかな?Aラインの。」
ーーあんな、好条件の人、逃す訳にはいかないわ!
とかなり意気込んでいる。
結局、Aラインの花柄のスカートと花柄のレースがあるブラウスにした。
 「いやードキドキする。」
約束のお店に、指定された時間より15分早くついた。お店に入る前に、右手を胸に当てて、目をつむり深呼吸する。
「いざ、出陣!」
自分で自分に言い聞かせるように、意を決してお店に乗り込む。
入り口に入り、店員に話しかける。
「あの、縁の園という名前で予約されていると思うのですが。」
「はい、伺っています。まだ、誰もいらしてませんが、ご案内します。」
ーーえ?まだ、誰もが来ていない?マジか?
もしかして、事故?大丈夫なのかな?
風子は心配で、オーナーにメールをするが、数分たっても返事がない。
約束の時間の3分前に、
「おはようございます!」
とオーナーが妻を連れてやって来た。
「あ、おはようございます。」
ーーん?約束の3分前に来るのが、普通なの?
ちょっと眉間にシワを寄せて、風子は考え込んだ。
「この場所わかりましたか?」
など、適当な質問がされる。
「はあ、前に来たことがあるんですよ。」
約束の時間が過ぎても、相手の田川は来ない。
約束の時間を10分過ぎた頃、オーナーが口を開いた。
「実は田川さん、洗車してからくるそうで、遅れてきます」
「え?そうですか。」
ーーは?洗車のために遅刻?それを認めている訳?結婚相談所って、お見合い日に洗車するもんなの?
意味不明はオーナーの発言に、風子の思考も意味不明になった。
30分たって、オーナーの携帯電話がなる。
「あ、つきました?今、いきますね。」
ーーえ?、まさかオーナーが彼を迎えにいく?私でさえ、一人でここに来たのに?
さらに疑問が増える。
しばらくして、オーナーの後ろから田川が現れる。
「こちら、田川さんです。外資系企業にお勤めです。」
待たせたことに、オーナーはもちろん田川も謝罪はなかった。
「・・・はい、よろしくお願いいたします・・・」
変だなーとは思ったものの、とりあえず返事をした。
田川は無言である。
「桜田さん、好きなもの頼んでください。」
ーー好きなもの頼めって、うどんしかないじゃん。
「じ、じゃあ、ざるうどんを・・・」
「飲み物は何にしますか?」
オーナーが飲み物を風子に尋ねる。
「じゃあ、ウーロン茶を、お願いします。」
「田川さんは?」
「ぼ、僕もウーロン茶で。」
ーーはじめて、しゃべったわ、ロボットか、置物かと思っちゃった。
思わず、呆れが顔になる。
「田川さん、桜田さんは看護師さんをされています。立派な仕事をされていますよね。」
田川は眼鏡をかけ直し、大きな音を立ててストローでウーロン茶をすする。
「はい、凄いと思います。」
あまり、会話が広がりそうもない返答しかしない田川。
オーナーの妻が口を開いた。
「どうせなら、このあと、お二人でドライブでもされたら?」
「・・・・・」
ーー何も会話を交わしてないのに、2人で出かけろと?
静かにストローでウーロン茶を飲みながら、田川を見る風子。
風子の視線に気付き、ぎこちなく笑顔になる田川。
「そうですね、わかりました。」
食事を食べ終わると、いつの間にか会計は済まされており店の外に出た。
「では、お二人でデートを楽しんで下さいね。」
オーナーが声をかけると、田川が愛車のフィアット500の助手席を開ける。
「どうぞ」
風子をエスコートする田川。
ーーえ?昭和じゃ、あるまいし、今時こんなことする人がいるんだ。
田川の行動にドン引きしてしまう。
ーーつーか、ちょっと恥ずかしいわ。
顔を少し赤らめ、周囲の目を気にしながら車に乗り込む。
田川が助手席のドアを閉めると、運転席にいき乗り込む。
車は買ったばかりのようで、ほこりひとつなく新車の匂いがする。
「オススメの喫茶店があるんです。いきましょう。」
「あ、はい。」
ーーあまり逆らわず、任せるか。
風子は考えるのも面倒くさくなっていた。
ーー仕事も辞めたいし、そろそろ結婚して楽になりたい。
よく、言うじゃない?
結婚するなら、二番目に好きな人の方がうまくいくとか。
 数分車で走ったところで、個人の経営する喫茶店についた。
女子が好きな雰囲気の、生花があちこちに飾られた癒しのある店だ。
ケーキは女性の店主が、毎朝手作りしている。
甘さ控えめのレアチーズケーキや、フルーツがたくさん入ったタルトなど種類も豊富だ。
ーーこんな人が、こんなオシャレな店を知っているとは意外だ。
「いらっしゃいませ」
ショートヘアの40歳代と思われる女性店長が、声をかけて窓側の席に案内してくれる。
車の時は助手席のドアをあけてエスコートした田川であったが、喫茶店の席では椅子はひいてくれることはなく、ちょっとほっとした風子。
「ご注文が決まりましたら、声をかけてください」
お冷を2つおいて、店主は去っていった。
ーーうどん食べたばかりで、入らないけど・・・せっかくなんでなにか頼むかな?
「コーヒーとタルトをお願いします」
メニューも見ないで、田川はさっさと注文していた。
ーー私はまだ決めていない・・・
「そちらのお客様は?」
先ほどの女性店長が来て、風子に尋ねる。
「わ、私も同じものをお願いします」
しばらく沈黙が続く。
「僕は外資系の企業に勤めていまして、転勤もあるのですが、大丈夫でしょうか?」
沈黙をやぶったのは、田川だった。
「・・・はい、職場でもそういう方もいますし、私は構いません。」
「それは良かった・・・・」
田川の顔色を見ながら、風子はつぶやく。
「仕事はできなくなるかもしれませんが・・・」
ーーパートでもいいから、はたらけって言われるかな?
風子は少し不安だった。
「全然構いませんよ」
職場が辛くて仕方がない風子としては、その言葉がとても嬉しくて思わず表情(かお)に出てしまう。
「本当ですかー」
「ええ、僕はどちらでも良いです。」
ーーああ!!もう先輩や指導者に怒鳴られなくていいんだわ!
左目から思わず、涙をこぼす風子。
その姿をみて、ぎょっとする田川。
「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
「恥ずかしながら、職場でうまくいっていなくて。」
「看護師さんは大変ですね」
眉間にしわをよせて、同情した様子の田川。
「あっと・・・」
田川がコーヒーカップをひっくり返し、風子のスカートにコーヒーがかかる。
「え?」
一瞬の出来事で、風子はよけることができなかった。
白い花柄のAラインのスカートはコーヒーがしみ込んでしまった。
「あ、すみません!僕、手がすべって・・・」
「・・・・・」
無言でおしぼりで、スカートのコーヒーのシミを拭く風子。
「僕の家、すぐそこなんです、洗濯しますのでいきましょう」
「え?」
ーー昼間とはいえ、男性の家にいってもよいのだろうか?
風子の脳裏に不安がよぎる。
「早くしないと、シミになります」
ーーまあ、変な事したら強制退会になるって書いてあったし、大丈夫かな?
「はい、わかりました」
田川の家は本当に近かったが、築年数のかなりいっているアパートで、部屋も物が散乱して下着もヨレヨレのままソファーに干してある。
ーー男性の家はこれが普通なの?
男性の家に入ったことがほとんどない風子は、男性一人暮らしの様子がわからなかった。
意外に手際よくシミ取りと代わりの服を持ってくる田川。
「これ、隣の部屋で来てください、シミ取りのクリーニングに出しますので」
田川から渡されたスエットを受け取り、隣の部屋に行きスカートを脱ぐ風子。
全体的に太陽の光が入らない部屋で、昼間というのに薄暗く不気味だ。
下着姿になると、急に部屋のふすまが開いた。
「きゃっ!」
何の声かけもなく、田川がふすまを開けたようだった。
「着替えました?」
鼻の下は伸びて、頬は赤らめ、口はだらしなく開けている。
その田川に背を向けるように、体を内側に縮めて胸を隠す風子。
「え!?」
田川は驚き、風子の背中をじっと見ている。
「うわ、気持ち悪い」
思わず本音を漏らす田川。
風子の背中には、幼いころに継母に殴られあざになった大きな傷跡がある。
変色して、見た目も悪い。
「うっ・・・」
子どもの頃に、体育の授業や、身体測定で背中のあざを見られる度に周りから「気持ち悪い」「背中にお化けがいる」など言われた記憶がフラッシュバックする。
「うわあああーーー」
大声を出し、シミになったスカートを田川から奪いとり、走ってかなり遠い自宅まで帰った。
 数日後、風子は縁の園に呼ばれた。
田川が謝罪したいと申し出たとのことだった。
後、婚活についての心構えの勉強を1回90分4000円でやるので、是非参加するようにともいわれた。
気が向かないが、結婚に焦っていた風子は、渋々ながらも縁の園に出向いた。
「桜田さん、この前は大変でしたね」
オーナーが神妙な面持ちで、風子を迎え入れる。
「田川さんが申し訳なくいってましたよ」
「・・・・・」
田川とはもう会いたくないと思っていたので、別の人を紹介してもらおうと考えていた風子。
「田川さんもわざとじゃないんです、彼の代わり私が謝ります、許してあげてもらえませんか?」
「え?」
ーー自分のしたことを自分で謝らないの?
「別の会員さんいますよね?200名いるっておっしゃっていた」
オーナーは苦笑いをしながら、頬杖をついた。
「まだ、田川さんと知り合ったばかりじゃないですか、桜田さんは田川さんの良さがわかっていないんですよ」
「え?彼の良さ?」
目がなくなる程ににっこりを笑い、話し出すオーナー。
「私も女性関係はなかなかうまくいかなくてね、今日は私の話も含めたお勉強をしましょう」
「はあ」
オーナー夫人が、お茶とお菓子を出してくる。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
オーナーがお茶をすする。
「私はここの前のオーナー告白されましてね・・・」
ーーえ?
「もう、60歳代のおばあさんですよ、さすがに歳が離れているのでお断りしたんですが、もうしつこくてラブレターも20通くらいもらいましたね」
ーーはあ??何の話よ??
「そして高齢でしたし、無理がたたったのでしょう、病で倒れましてね。私にこの会社、縁の園を託されました」
ふとオーナー夫人の方へ目をやると、ノートパソコンでオークションのショッピングサイトを見ていた。
ーー何か、おかしいな。この結婚相談所、私がきてから1時間ほどたつのに誰も来ないし、電話一つならない。
「だから、桜田さん・・・」
ーーはっ
考え事して、話をほとんど聞いていなかった。
「ちょっとのことで、いやになっていたら、結婚なんかできないですよ」
「もう少し、田川さんの良いところも見てあげて下さい」
眼光鋭く、オーナーに説得され、他の会員を紹介してとは言えなかった。
ーー若葉ちゃんの知り合いの実績もあるし、あせりは禁物かな・・・
と無理矢理納得した、が!
ーーえ?これが講習だったのだろうか?
代金はすでに前払いしていたので、どうやらオーナーが前オーナーから告白された話と、もう少し田川と交流をもつように言われたのが講習だったらしい。
頭の中に???マークが踊っているが、明日も仕事なのでさっさと風呂に入って寝た。
 数日後、田川から風子にメールがきた。
「この前は、大変失礼なことをしました。オーナーにしかられました。反省しています。是非ともお詫びがしたいので、もう一度会えませんか?」
呆れた顔をしながら、文章を読む風子。
ーー数日経って、来たメールがこれ?
あきれつつも、律儀に返信をする。
「現地集合で、現地解散なら、良いですよ。」
上から目線、丸出しの返信をする。
ーーこいつの悪事を暴いて、他の人を紹介してもらおう。
15万円も支払ってるんだから、絶対に元をとるんだから!
 風子は意気込んでいた。
1週間後、風子は田川とファミレスで会う約束をした。
普段はあまり乗らない自家用車で、風子は現地についた。
服装はおしゃれとは程遠い、チノパンに上はTシャツにジャージだ。
田川はすでについていて、ファミレスの入り口で携帯電話で誰かと話していた。
ーー仕事の電話かな?
通話中の田川の後ろから、歩み寄る風子。
「はい、わかりました。ちゃんと、謝罪します。」
ーーえっ?
謝罪するって、もしかして縁の薗のオーナーと話してるの?
「謝罪しても、許してくれなかったら、他の女性を紹介してくれますか?」
ーーは?
「いやーあんな、背中に気持ち悪いアザがある人は抱けないですよ!」
ーーえ??
「あ、目をつぶれば、良いかぁー」
ーーつーか、こんなにペラペラしゃべるやつだっけ?
風子は怒りのあまり、地団駄をふんだ。
「しかし、ムカつくわぁー、人が気にしている体をバカにしゃがって。あのくそやろう!」
思わず、ヤンキーバリの口調になる。
田川が電話を切った後に、しばらくしてから姿を現す風子。
「お久しぶりですね。」
やや顔はひきつっているが、満面の笑みで風子は田川に話しかけた。
「は、はい、とりあえず、お店に入りましょうか。」
さっきとは別人のように、吃りながらしゃべる田川。
ファミレスの店内に入り、席につく。
「何食べますか?」
おどおどした態度で、尋ねる田川。
「カツ丼!」
横柄な態度で、返事をする風子。
「この前はすみませんでした。本当に許してください。」 
イライラが止まらない風子は、お冷を飲んで心を沈める。
「あの相談所で、何人くらい女性紹介してもらえました?」
「え?」
田川もお冷を飲むが、一瞬、手が止まる。
「勉強会に参加したことあります?」
「それは、ありますよ。」
お冷を一気飲みする田川。
「どんな勉強会ですか?」
「あ、それは、ラブホテルの入りかたとか、自分の車に女性を乗せる時は、助手席のドアを開けてエスコートとか。」
ーーえ?あれ、オーナーの指導なの?
額から冷や汗をかく風子。
「あと、アレの時の手解きをオーナーの奥さんにしてもらいました。」
「え?ええー!?」
周りのお客さんが振り返るほどの大きい声で、風子は言ってしまった。
ーーそれ、不倫じゃん?
結婚相談所って、そんなことまでするの?
「しっ!声が大きいよ!!」
田川はコソコソと、小さい声で注意してきた。
「まあ、オーナーの奥さんは僕の好みじゃないし、もう関係は持たないし、桜田さんは気にしなくて良いから。」
と、更に付け加えた。
ーー15万以上支払って、これはなんなの?
お金が勿体無いとあのオーナー夫婦にすがりつくか?
高い授業料と思って身を引くか?
両手で拳を作り、ブルブルと震え出す風子。
「こっ、これは、高い授業料でしょー!」
怒りで真っ赤な顔をしている風子に、怯える田川。
「さっ、さく、桜田さん!どうし・・・」
バンッ!!
テーブルに1000円札を叩きつける!
「帰ります!!」
鬼の形相の風子は、1000円を置いて、注文したカツ丼も食べず帰って行った。
 「若葉聞いてよー」
自宅に帰った風子は、悔し涙を出しながら、若葉にことの顛末を電話で話す。
「えーマジでー?そんなん、知らなかった。大丈夫なの?」
風子を心配する若葉。
「入会金とか勿体無いけど、来週に退会手続きしてくるわ。」
「え?じゃあ、私も一緒に行かせて!」
「え?」
若葉の突然の申し出に、驚く風子。
「だって、向こうは男がいるし、2人じゃん。風子1人だと危ないよ。」
「え?でも、悪いよ。忙しいでしょ?」
「大丈夫だよー私は専業主婦で子どももいないしさー」
ーー若葉、自分が紹介した相談所だから、責任を感じているのね。
誠実な性格、昔から変わってないな。
今度は嬉し涙が出た風子。
「いざとなったら、うちの旦那もいるし、すぐ警察を呼べるようにするから。」
「うん、ありがとうね。」
若葉と通話を終わらせた後、すぐにオーナーに退会の意志を知らせるメールを送る。
数10分してから、オーナー夫人からメールの返信が来る。
「まだ、知り合ったばかりだから、もう少し考え直して欲しい。」
オーナーと言うことはいっしょだった。
「今日、会って来たけど、電話をしていて、私の背中のあざが気持ち悪い、あんなの抱けないっていう男性とこれ以上、付き合う価値がありますか?」
そうメールを返すと、30分後に、
「わかりました、では、来週に退会手続きに来社してください」
と、オーナー婦人からメールの返信がきた。
 翌週、若葉の付き添いで緑の園へいく。
相変わらず、会員の姿もなく、電話もならない。
対応したのは、オーナー婦人で、オーナーの姿はなかった。
「すみません、個人情報なので、ここで書いた書類とか写真はもらえませんか?」
と、オーナー婦人に風子が言った。
「え?」
明らかに困惑しているオーナー婦人。
黙ってついたての方に行き、誰かと小声でぼそぼそ話している。
その誰かは、よく聞くとオーナーだった。
しばらくしてから、写真と書類が風子に渡された。
「お世話になりました。」
社交辞令で風子があいさつするが、オーナー婦人は無言。
若葉も無言だった。
このテナントを風子と若葉が出た瞬間、
ガチャン!
と鍵が閉められた。
「・・・」
風子と若葉、二人見合わせて、あきれ返る。
 数週間後、そのテナントは空家になっていた。
他人の実積を語って商売しても、結局ボロが出る。
他者がうまくいったからって、自分がうまくいくとは限らないのだ。
その後に風子は、このオーナーの別の顔を、別の相談所で聞くことになる。















 







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