見出し画像

結婚は宝くじに当たるようなものと聞いたが実際はどうよ1話


#創作大賞2024 #漫画原作部門

 あらすじ
 桜田風子35歳、看護師として働き中堅となっている。
看護学校まで女子高で育ち、看護師はやはり女の世界で男性との接点がなくこの年まで結婚できず生きてきた。
看護学校を卒業し、「やっと遊べる」と喜んだが、同級生はどんどんと結婚していく。
気が付けば、風子が一人ぼっちになり悲しくなる。
町に買い物にいけば、小さい子供連れの自分より若い夫婦が笑顔で笑い幸せそうに話している姿をみかける。
自分も結婚して幸せになりたいと思い、ここで勇気をもって婚活を始め結婚相談所に行くが、結婚相談所は裏と表があり、会員も個性揃いで苦難の日々を送ることになる。

結婚は宝くじに当たるようなものと聞いたが実際はどうよ 
1 男性の醜い部分を知った時代
「結婚は宝くじに当たるようなもの」
昔、職場の大先輩がいっていた。
当時は自分には関係ないものと考えていた。
確かに宝くじも好きで20年以上買い続けているが、1万円にすら当たったことがない。
もう、20万円は負けている。
でも、まだ買い続ける。買わないと当たらないからだ。
 桜田風子は一度社会に出てから、看護学校へいった。
その時はすでに20歳代後半になっていた。
毒親に育てられた風子は、親から常々、
「高校までしか学費は払わない」
と言われていたので高校を卒業後に、パチンコ屋でパートしていた。
看護学校へ進学する資金をためるためだ。
そのパチンコ屋で働いていると、
「どうせ、やめるんだろ?」
と男の上司に嫌味を言われていた。
掃除や掃除で使った雑巾の洗濯や、店内の植木の水やりなど、ホールの仕事以外にもやった。
パチンコ屋は開店前から夕方までの早番Aチームと、夕方から閉店までの遅番Bチームがあり1週間交代で早番と遅番が交代する勤務体制だった。
石田秀美は風子と同じ歳で、同じパートだった。
秀美はAチーム、風子はBチームで反対番だ。
パートは風子と秀美、後は正社員だった、夜間にたまに大学生のバイトが来ていた。
パートやアルバイトは、学業や主婦をやっている人しかいなかった。
秀美は結婚しておらず、風子と同じ実家暮らしで、特に何かを目指している訳でもなかった。
不思議に思いつつも、風子は看護学校へ行くためパート以外は予備校に通って忙しい日々を過ごしていたので気にもしていなかった。
しばらくして、なぜ秀美がパートなのか知ることになる。
「ごめんね、今日も雑巾乾かなくて、お願いします」
掃除の雑巾は早番のパートが洗濯後に乾燥機に入れて乾かして、所定の場所にしまうことになっていた。
乾燥機は電気なので、1回に10枚ずつ入れないと、何時間回しても全く乾かない。
風子は先輩に聞いて知っていたので、10枚ずついれて3回に分けて乾かしていたが、秀美は5回言っても同じことを繰り返して風子に押し付けた。
「何枚ずつ入れて乾かしたの?」
右手をおでこに当てて、下を向きため息をついた。
「20枚だけど・・・4時間たっても乾かなかったの」
眉毛をへの字にして、更に大きなため息をつく風子。
「だから、1度に10枚以下でないと何時間たっても乾かないの!」
イライラしながら、言い放つ風子。
「ごめんね、お願いします」
そそくさと走って逃げる、秀美。
その様子を男性社員の朝田が見ていて、風子に話しかける。
「あの子に何を言っても無理だよ」
風子より10歳は歳が離れている、背は低く女子うけはしなさそうな地味な男性だった。
「あの子って、知的障害なんでってさ、車の免許もとれないらしいよ」
「まあ、俺も学校の勉強できなくて、成績は悪かったけどね」
何を言っているんだ、この人は。
「色々、悩んでいるみたいだから、俺、相談に乗ってあげようか?食事にいかない?」
無言で秀美がやり残した雑巾を10枚ずつ、乾燥機に入れる。
「同じBチームなんだからさ、仲良くしようよ」
しつこく言ってくる朝田に強い口調で返事をする。
「奥さんに悪いですし、それに終わったら予備校がありますから」
小さい目を朝田は見開いた。
「俺、奥さんいないの、独身だよ」
「朝田さんが独身だろうと、私は予備校がありますから、夢ありますから、いけません」
風子は如雨露に水を入れて、店内や入口のパンジーや観葉植物に水をやりに行く。
「でも、少しくらい時間あるだろ?ストレスは吐き出さないと」
まるでストーカーのように、風子を追っていく朝田。
そこへBチームの班長が朝田に声をかける。
「朝田、嫁さんが欲しいからって、桜田さんを追うんじゃないよ!」
「え、いや、班長、そんなことしていないですよ」
その隙にそそくさと逃げていく風子。
「朝田、持ち場に戻るんだ」
班長が間に入ったことで、風子は就業時間まで朝田と関らず済んだ。
 パートが終わったあと、予備校に通う。
講師が来る前に、コンビニで買ったおにぎりをほおばる風子。
元々、勉強が嫌いで学生時代もテストの点数も悪かった風子は、全く授業についていけてなかった。
特に数学は数字をみるだけで、本気で吐き気がするレベルだ。
「もう、面接と作文だけの学校じゃないとだめかも」
看護学校の案内の本をパラパラめくる。
作文を面接だけの学校が目に付く。
A県と地元からかなり遠いが、背に腹は代えられない。
一応候補に入れていこうと、付箋を挟み蛍光ペンでマークしておく。
 次の日、いつも通りパートに来ると男性職員からニヤニヤとした好奇な目でみられていた。
「なんだろう?私、何かしたのかな?」
不思議に思いながら、床をモップで磨いていた。
「桜田さん、勉強は進んでいるの?」
班長の声が後ろから聞こえてくる。
「え?まあ、勉強は難しいですね。」
苦笑いをして、返答する風子。
「夢があるんなら、デートもほどほどにしなさいよ」
急にニヤニヤしながら、上から下へジロジロとみてくる班長。
「デートって、なんですか?」
当然、何を言っているかわからず聞き返す。
「朝田がいっていたぞお~夜、デートしているんだってなあ」
「え!?」
持っていたモップを床に落とす。
「いっそのこと、看護婦になるのやめて、朝田と結婚してここの正社員になったら?朝田、いいやつじゃん」
朝田の顔を思い出し、寒気でいっぱいになり震えだす風子。
「あんな人と仕事以外で会ってません、変なこと言わないでください」
「え?っそうなの?」
「朝田がうそついているの?」
不思議そうな顔をして風子を見てくる、班長。
「昨日、食事に誘われましたけど、断りました」
班長は右手で額を押え、目をつむり、
「あっちゃあ、朝田は困ったやつだね。」
「仕事に戻りますね」
そそくさとパチンコ台の掃除に向かう風子。
終わったら雑巾を洗濯機にかけ、10枚ずつ乾燥機にかけ乾いた雑巾を掃除道具の中にあるバケツに入れて夕方仕事が終わり帰ろうと従業員専用のドアから出た。
「桜田さん」
前から男の声で呼び止められる、振り返ると朝田が立っていた。
でたらめを班長に言われて、ムカついていたのですぐに表情に出てしまう。
「何か用ですか?」
やや強い口調で冷たく返事をする風子。
「桜田さんのおかげで、俺、恥をかいたよ」
たばこを出して火をつけ、吸い始める朝田。
「でたらめを言いふらすのはやめて下さいよ」
朝田は風子に近づき、顔にたばこの煙を吹きかけてくる。
「ゲホゲホ・・・」
煙で咳をする風子。
「よくも恥をかかせたな、このアマ!」
「いやあ!」
抵抗した隙に、朝田のたばこが右手の甲についてしまう。
「熱っ!」
体制を崩した風子は建物にぶつかり、頭を打ち道路に転倒する。
「やめて下さい、私が何したって言うんですか!?」
朝田の怒りは頂点に達した。
「うるさい!ゆるさねぇ!!」
風子の胸倉をつかんで、言い放つ。
その時!!
「朝田!やめろ!!」
止めに入ったのは、班長だった。
朝田の体が止まった、そして宙を飛ぶ。
班長の声で朝田がビビッて力が緩んだ緩んだ時に、隙を見て風子が投げ飛ばしたのだ。
朝田は投げ飛ばされた先で震えて、失禁していた。
「すげえな、桜田さん!!」
目を見開いて、班長もビビっていた。
「私、高校の時に少林寺拳法習っていたんですよ。」
風子はパーマをかけたロングヘアで、リボンで髪をしばっていた。
化粧もナチュラルで、普通の20歳代の女子にみえたので、まさか少林寺の心得があるとはだれも思わなかった。
 数日後、風子はパートをやめることにした。
「こんな野蛮な人間がいる職場にはいられない」
と怒りをあらわにした。
朝田は首にはならず、数週間の自宅謹慎になった。
職員の欠勤があっても独身で時間の融通がきく朝田は、お店にとって都合が良いからだそうだ。
そもそも、勤労看護学生になる予定だからそんなに大金はいらないという風子の考えもあった。
それから、男子には見向きもせず数年後に風子は看護師になった。

2 これから青春を謳歌しようとしたら周りが結婚ラッシュになった
 
 「卒業したら、遊んでやるぞ」
風子は30歳を過ぎていたが、この時、東京に住んでいた。
自宅は勤め先の病院の看護師寮だった。
病院から自転車で15分のところで、畑のど真ん中に建っている。
近くに無人の野菜売り場があり、時々売れ残りの野菜を寮のみんなが無料で頂いていた。
それでも、風子は満足していた。
これから旅行にいったり、飲みに行ったり楽しめる。
しかしーー
「ごめんね、実は結婚するの。」
「来年に結婚式を挙げるから、忙しいの」
「結婚して、夫と住んでいるから、遊びにいけないよ。」
いつの間にか、まわりは結婚ラッシュになっていた。
ー看護学生時代から、ちゃんと彼氏がいたんだ、知らなかった
と、両手を両頬に当てて、顔を青ざめて床に座り込む風子。
そんな時、郵便受けに郵便物が来ているのをみつける。
手にとると、妹の
「結婚しました!」
と旦那らしき男性とウエディングドレスを着たツーショットのハガキだった。
「え?いつの間に?」
更に愕然とする風子。
「メールです!」
携帯電話から、メールの受信の知らせが来た。
開くと、小・中・高と一緒だった地元のさゆみからだった。
「看護師になれて、おめでとう。あなたなら、きっと立派な看護師になると信じています。」
頑張った甲斐があった、こんなメッセージをもらえて涙が出ていた。
そういえば、地元の同級生はまだ独身がいる。
もしかしたら、地元に帰れば遊ぶ相手はいるに違いない。
あんなに嫌だった地元が、恋しくなった。
そう思ったら、今の職場をやめて地元に帰ることばかり考えていいた。
しかし、生半可な退職理由ではきっと退職させてもらえない。
風子は嘘をつくことにした。
「師長さん、実は親が脳梗塞で倒れまして、家族が困ってまして、地元に帰るため退職させてください」
嘘も方便と思い、全く悪いとは思わなかった。
職場の先輩に仕事の書類を隠されたり、靴を泥まみれにされたり弊壁していたからだ。
 ある休みの日、少し寝坊をして寝巻きのままコンビニのパックのカフェオレをストローで飲んでいた。
布団が除去されたテーブルに、座卓が二つある。
ベッドは昔の名残か、二段ベッドが元々設置されていた。
風子は二段ベッドの上にはボストンバックやタオルケットなどの私物を置いて、下で布団を敷いて寝ていた。
テレビのリモコンで16型の小さいテレビをつけて、頬杖をつく。
「ドリームジャンボ!発売中!!」
と、大きな音でテレビから聞こえてくる。
「ドリームジャンボか、今日は休みだし、当たると有名な池袋に行ってみるかな?」
独り言を言いつつ、カフェオレを飲み干し顔を洗いに行く。
バス停の時刻表を見る
「30分後に来るね」
バスと電車を乗り継いで、池袋まで行く。
宝くじ売り場は高額当選が多数出たということもあり、お客さんたくさん並んでいた。
お客さんの年齢層は若い人はあまりいなく、中高年が多かった。
70歳代と思われる男性は、
「ジャンボ!100枚ちょうだい」
とかなり多量に購入している。
老後のために一山あてたいのか?といった印象を受ける。
逆に若い人は、10枚の購入が多い。
風子はその光景をみて、何枚買うかかなり悩んでいる。
やや優柔不断な性格も、その悩みを強くした。
それで考えた案は、自分の前のお客さんと同じ枚数買うこと。
しばらくして、風子の前のお客さんの順番になった。
「連番10枚、バラ10枚」
風子の前のお客さんは30代といった様子でスーツを着た男性だった。
営業マンだろうか、書類がパンパンに入った書類カバンを持ち、財布をスーツの上着の内ポケットから出して宝くじの代金を支払う。
「6000円になります」
男性は財布から千円札を1枚1枚出して支払う。
「ありがとうございました、当たりますように」
笑顔ではあるが、作られた笑顔の店員がロボットのように言ったように見えた。
ー忙しいから、一人ひとりに心からの笑顔は長く作れないのかな・・・
なんて、ぽつりと考えた風子。
男性は一言も話さず、料金を支払い宝くじを受け取って去っていく。
「次のかたどうぞ」
「あ、はい、では連番10枚とバラ10枚をお願いします」
「はい、連番10枚、バラ10枚ですね、6000円になります」
代金を支払う。
「ありがとうございました、当たりますように」
店員は先ほどの男性の客と同じように、機械的に、流れ作業のように同じセリフ、同じ笑顔を見せた。
思わず、先ほどの男性客と同じ態度で自分が接するのに違和感を感じ、
「はい、ありがとうございます」
笑顔でお礼を言ってみる。
すると、「ありがとうございました」と会釈をしながら自然な笑顔を見せた。
店員も人間なのだ、いくら商売でも作り笑顔の時はある、それは客次第かもしれないと風子は感じた。
以前にインターネットで「当たる宝くじ売り場の特徴」で見た店員さんの特徴は笑顔が素敵な店員さんがいるところあった。
それは、店員だけの問題ではない、客も努力しないといけないのだと感じた。
2か月後、ドリームジャンボの当選の確認に買った宝くじ売り場に風子は訪れていた。
「おめでとうございます、1万円当たっていました」
「本当ですか?ありがとうございます!」
お互いに機械的な笑顔ではなく、自然に出た笑顔だった。
高額当選は逃したけど、今回は4000円のプラスになった。
ちょっと贅沢なランチが食べられるかなと、嬉しくなる。
この前、退職届も受理され、あと2か月で地元に帰れる。
また、地元の友人と遊べる。
と期待に期待を重ね、多少いやなことがあっても我慢して働くことができた。

3 地元に帰り、楽しい生活を送るはずだったが?
 「風子!おかえりーまたよろしくね!!」
うまいもんや!ホッケ屋!!
いかにも、北海道らしいネーミングの居酒屋で同級生2人に迎えいれられ、乾杯をする。
風子は北海道で生まれ、育った。
母親は漁業の田舎町で生まれ育ち、魚好きであった。
風子も母親に似て、魚が好きだった。
お店のホッケをパクりと、一口食べる。
「うわー美味しい!」
顔は嬉しさでほころび、目を細めて幸せを噛み締めていた。
「何よ、風子ったら大袈裟ねぇ!」
同業者であり、看護師として先輩であるさゆみが呆れている。
「大袈裟じゃないよ、本当に美味しいの。東京のホッケは大きいけど、大味なのよ。」
「え?そうなの?」
カクテルを一口飲むと、意外そうにさゆみが答えた。
「そうなのよー前に院長婦人に上寿司をご馳走してもらったけどさ、色は悪いし、美味しくなかった。伊豆で食べた鯵の刺身の方が新鮮で美味しかった。」
風子が力説する。
「へぇー意外だわ。」
しばらく沈黙だったが、それをやぶったのが雪佳(ゆきか)だった。
「さゆみ、式場は決まったの?」
「うん、地元のAグランドホテルだよ。」
ノンアルコールカクテルを飲んでいた風子の動きが止まる。
「え?式場って?」
「さゆみ、結婚するんだよ!」
ショックのあまり、顔は青ざめ箸でつまんだ唐揚げを落とす風子。
「えーそんなぁー」
思わず、独身の同級生が減る気持ちが先走り本音が丸出しになってしまった風子。
「なに、その反応!友達なら祝ってあげるのが普通でしょ?」
雪佳が注意すると、思わず我にかえって、
「そ、そうだよね。ごめん、寂しくなってさ。」
「気持ちはわかるけど、お祝いはしてあげよう!」
雪佳は独身だったが、超ブラック企業に勤めており、滅多に会えない。
それかに、彼氏と同棲中だ。
ショックは受けつつも、小学生からの付き合いだ、折角集まれたんだし今は楽しもうと思い、会えなかった分、色々話そうと思った。
しかし。
「あの時の合コンで出会った彼が旦那さんなんだよね。真面目で良い人じゃん、良かったね。」
「そうなのよーたまたま、私の前にも旦那がすわってさぁー」
などと、さゆみと雪佳が2人で話しが盛り上がっている。
すごい距離感を感じた。
ーーまあ、3人集まれば、誰かあぶれるって言うしね。
風子は無理矢理、そう思うことにした。
 「じゃあねー気をつけて帰ってねー」
22時に、女子会はお開きになった。
結婚を控えているさゆみ、彼氏と同棲中の雪佳はあまり帰りが遅くなりたくないようだった。
「他に私と遊んでくれる人いないかなぁ?」
タクシーを待ちながら、ひとりぼやく風子。
「・・・」
ーー私も結婚しようかな?
ぽつりとそう思った。
4 遅い婚活
「結局、私は一人かあ・・・・」
翌朝、セミロングの長さの髪が、実験に失敗した博士のように爆発状態で起き上がる。
「仕事に行きたくないなあ」
風子は地元のアパートで一人暮らしをしていた。
親は毒親で疎遠で、弟妹も結婚しておりやはり疎遠だった。
「大人になっても一人か・・・・」
目を三角にし、口をとがらせて不満を言う。
ピロリン~♪
携帯電話がメールが来たのを教えてくれる。
メールを開くと、高校の同級生の長田若葉だった。
若葉は独身で、実家で母親と暮らしていた。
ーー帰ってきたんだってね、今度、ランチに行こうよ。
嬉しいメッセージがあり、速攻で返信する。
ーー是非是非、ランチしよう!
と。
仕事に行くのは気が重いが、その日は若葉とランチする楽しみでいっぱいでルンルン気分で家を出る。
バスに酒臭い酔っ払いが乗っていても、あまり不快に感じないほどだ。
仕事で患者に尻を撫でられても、笑って過ごせるくらい浮かれていた。
ナースステーションで電子カルテに記録をしている風子と他の看護師達。
「桜田さん、何か良いことあったの?」
同業者の女性の先輩から、そう質問されるくらいだ。
「わかります?友達とランチに行くので、嬉しくて。」
「え?友達?男性の友達?」
「高校の同級生の女性ですよ。」
「へぇーそうなんだー」
意外そうに答える先輩。
ナースコールがなる。
「はい、伺いますね」
風子が対応し、患者の元へいく。
風子がナースステーションを出ると、先輩たちが風子の発言について話し出す。
「男とデートならわかるけど、女とデートであんなに浮かれるものなの?」
「いやーそんなことないと思うけど、私ならありえないわ。」
「男なら35歳過ぎて独身だと、ホモを疑われたけど、女はどうだろうね?」
「えーレズってことー?やばくない?」
「それか、よっぽど友だちがいないとか?」
「やばいねー」
クスクスと笑う先輩たち。
「無駄話してないで、早く仕事を終わらせたら?
ナースコールも出ないでおしゃべりばっかり。
保育園に子どもを迎えに行かないといけないから、残業出来ないんでしょう?」
風子と同世代くらいの看護師が、2人の会話に水を差す。
「あーら、ごめんなさいね!」
先輩2人のうちの1人が、顔をひきつらせて返事する。
先輩たちがナースコールも出ないで、ずっと電子カルテ(パソコン)を陣取っているため風子はいつも先輩の記録が終わらないと、自分の記録が出来なかった。
先輩の記録が終わるのが夕方で、それから記録するのでいつも残業だった。
師長には、
「なんでいつも残業してるの?仕事が遅いわね!」
と嫌味を言われストレスが溜まっていた。
何時間残業をしようと、残業はI円ももらえない病院であった。
風子は疲労困憊だった。
「もういやだ、働きたくない。」
時々、涙で枕を濡らしていた。
「結婚して、専業主婦になれば楽になれるのかな?」
と考えるようになっていた。
 数週間後、若葉とランチの約束を取り付けていた。
お店の名前はモーモーレストラン。
壁は茶色のレンガで作られ、屋根はオレンジ色、平屋のこじんまりしたお店だった。
「久しぶりだね、何たべる?」
若葉が風子にメニューを差し出す。
店名の通り、和牛中心のお店だ。
「ここの牛の肉は地元の牛の肉でね、柔らかくておいしいの。」
目を輝かせて、若葉が話す。
「サイコロ、ステーキにしょうかな?」
等と、独り言を言いながら、注文を決めた風子。
しばらくして注文の料理が届き、
「いただきます」
と礼儀正しく食べ始める二人。
テーブルにある調味料やドレッシングが目に入る風子。
「色んなソースがあるのね!」
そのうちのあるひとつのボトルをとり、自分の肉にかける。
「ん~ますます、おいしい!」
目を閉じて右手を右頬に当てて、噛み締めながらしあわせに浸る風子。
「・・・風子、それ・・」
覚めた目で風子を見る若葉。
「ん?」
無邪気な表情(かお)で、まだ肉のおいしさを噛み締めている。
「今、肉にかけたの、ドレッシングだよ?」
「へ?」
若葉の指摘に、間抜けな声を出す風子。
そして肉にかけたボトルを見る。
書いてあるのはサウザンドレッシング!!
「!?」
大きな口を開けて、青ざめて驚く。
「しかも、それかけて美味しいっていったよ?」
「・・・私、やばいね。」
「風子らしいけどね。」
お互いを見つめあい、笑いだす二人。
恥ずかしくなって、何とか話題を変えようとする風子。
「ところでさぁ、若葉の近況はどうなの?」
「そうそう、今、準備中なんだけどさ、秋に挙式するんだよね。風子、来てくれるでしょ?」
「え?」
若葉の言葉に、目の前が白黒に見えた。
ーーえっ?若葉も結婚するの?マジで相手がいないの私だけじゃん!?
「もっ、もちろんよ!」
どもりながら、返答する。
「み、みんなお相手がいるんだね。いないのは、私だけだわ。悲しすぎる」
テーブルにあるナプキンをガサガサと取り出し、涙を流す風子。
「風子、いやだ、泣かないでよ!!」
周りを気にしながら、オロオロし風子の瀬女かを撫でる若葉。
「ごめん、何だか、私だけ置いていかれた気持ちになったの」
今度はテーブルのナプキンで、鼻水をかんでいる風子。
かみすぎて、鼻血まで出している。
「私も結婚したいーぃー」
そして、歯をギリギリと噛み締めている。
「ふう、しょうがないわね。」
ため息をついて、カバンから携帯電話を出す。
ガラケーを出して、何かを検索している若葉。
「あった、ここだ。」
そう言うと、風子の目の前にガラケーの画面を見せる。
「え?なに?」
恐る恐る、ガラケーの画面を見る風子。
画面には、「結婚相談所 縁の薗 結婚相談実績15年、成婚500組の実績 是非、お気軽にお問い合わせ下さい」と書いてあった。
「私の知人の二人が、ここで男性を紹介してもらって結婚したの。私の知人の実積だから、実力は間違いないと思うんだよね」
自信満々に若葉が説明する。
「成婚費20万円ってあるけど、旦那側が支払ってくれるし、まあ、入会金は10万で安くないけど、人生のパートナーが見つかるなら、安いもんでしょ?」
ニコニコとしながら、説得にかかる若葉。
ーーみんなはお金をかけずに出会って結婚しているのに、私はお金を支払わないと出会うこともできないの?
思わず卑屈な思考が、風子の頭を支配する。
でも、今の生活では、男性と話す機会すらないし、この年齢で合コンにも誘われない。
「不安なら、私が一緒に行ってあげるから」
若葉は純粋で優しい女性だった。
だから、風子のために人肌ぬぎたいという気持ちは本心だろうと風子は判断した。
「ありがとう、一緒にいってくれるなら、ここにいってみたい。」
「うん、行ってみようよ。合わなければ、やめればいいんだからさ。気楽に行こうよ。」
ーーうーむ、気楽な値段ではないけど、話を器具だけならいいのかな?
コーラをストローですすりながら、気を決する風子。
 それから一ヶ月後、縁の薗(えんのその)へ風子は若葉と行ってみた。
中心街にあり、昭和に建てられたであろう古い5階建てのテナントの2階にあった。
どのテナントも人の出入りがとほんどなく、閑散としている。
50代半ばくらいの中年太りし人柄が良さそうなオーナーと、30代前半の美人ではないが愛想が良い妻とで運営をしているらしかった。
「前に私の知人がここで2名、成婚してまして、この人を連れてきました。」
若葉がそう話すと、
「それは、前のオーナーですね。三年前から私達夫婦でやってるんですよ。」
ーーえ?この人を達が成婚させたんじゃないの?
眉にシワを寄せて、あきらかに不信感をあらわにする風子。
その風子の表情(かお)にオーナーが気付き、口角をあげる。
「大丈夫ですよ、前オーナーから、しっかり引きつぎましたから。安心してください。会員さんも200名はいます。」
続いてオーナー婦人も、
「そうですよ、前オーナーと何年も一緒にいってくる働いたし、私はアドバイザーの資格も持っているんです。」
オーナー婦人の言葉で、風子は信用し入会を決めた。
この後に、起きることなんて、風子には予想が着かなかった。









































この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?