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隣の鳥は青い32話

 「メロディ~かっこいい~!!」
自然体感部の女子の中で、そんな黄色い声が聞こえてきた。
1年生の女子達は、すっかりアニメのヒーローにはまっていた。
戦争で離ればなれになった、多数の親子達。
ロックバンドを目指していた中学生から高校生のメロディ率いる仲間は、LOVEというバンド名で野外ライブをして道行く人からお金をもらい、そのお金で両親がいる土地へ向かって旅をするストーリーだ。
素人ながら、メロディの歌唱力は高く、しかもサラサラの髪でルックスもよい、ベースやギターのメンバーの腕も高いレベルであった。
「私は、ベースのジョージがいいな」
美久子が渋めの高校生で何故かもみあげがある、ベースのジョージのフアンだった。
もう、このころには、美久子を初め雅盛への情熱は冷めていた。
「ジョージはメロディの一番の理解者だよね」
美久子は、理子に話かける。
理子はメロディのファンであった。
数か月前に支恩と他の女子とが唇を合わせるシーンを見てから、ショックを打ち消すようにアニメにのめりこんだ。
理子は父親にすら、大事されない、本当に男性に優しくされてことがなく、幼稚園から男子にバイ菌扱いなどされいじめられた。
だから事実上、支恩が初めて優しくしてくれた男性だった。
木の枝で手首を切り、その傷をみても章は心配しなかった。
「そんなところに怪我して、お前馬鹿じゃないの?」
とあざけ笑っていた。
娘の心の傷なんて、気づくわけもなかった。
無言で食器を洗い、風呂掃除をして沸かす。
章が瀬利名を抱えて、風呂に入っていく。
「お前は本当にかわいいな」
顔をデレデレとして、瀬利名の頬にチュッチュッとしている。
その様子を、理子は冷めた目で見ていた。
「あ~気持ち悪い、本当の親子なのに!!」
風呂の順番を待ちながら、自室でアニメの本を読んでいる。
「メロディかっこいいなあ~こんな完璧な男は現実にいないようなあ」
アニメの番組を観たり、本を読むことでつらい現実から(家庭や学校でのいじめ)忘れることができた。
アニメがなければ、理子は完全に心を病みこの世からいなかったかもしれない。
沙知美にアニメの雑誌や、漫画がみつからないように屋根裏部屋に隠していた。
 半年後ーーー
雅盛と支恩は、中学を卒業した。
理子は卒業式に出られなかった。
沙知美の折檻で、夜中に氷水をかけられ立たされ40度の熱が出たのだ。
後日、学校に行くと美久子をはじめとする理子の同級生は、支恩との別れがつらいからでは理子をからかうことになる。
「大川先輩の制服のボタン、第2ボタンどころか、全部あったよ~理子の代わりにもらっておけばよかったねえ~」
なんて、おちょくる同級生もいた。
「あ、そうなんだ」
苦笑いしつつ・・・・
ーー彼女いるんだから、ボタン余っているわけないじゃん
胸に小さな小さなナイフが刺さった気がした。
 家に帰り、支恩が撮った写真を出してみる。
農家の中年女性がかかしをかかえて、満面の笑みで写っている。
「大川先輩、卒業おめでとうございます」
 数年後ーーー
理子と美久子は、地元の女子高校へ通う高校生になった。
「本当に、私たちは腐れ縁ね」
新しい制服に身を包み、笑う美久子。
ーーもう男子がいないから、ばい菌扱いされることもない、嬉しい。
理子は遠い雲を見つめ、目を細めて喜んだ。
入学式、校歌を全校で歌うシーンがあった。
理子たち新入生は校歌がわからず、黙っていた。
そこで校歌が聞こえてくる。
理子はすごい違和感がした。
ーー女子校なのに、歌声が男の声だったからだ。
「何で女子校なのに、男の歌声がするの?」
きょろきょろすると、男性の教師が横にならんで歌っていた。
生徒はほぼ歌っていない。
そして教員は男性ばかりだ、だから男性の歌声が目立ったのだ。
 数日がたち、中学時代の1つ上の先輩にあった。
佐倉しほりは、元々バレエを長年やっており手足が長くスタイルも抜群で表情もやわらかい美人だ。
「理子ちゃん、入学おめでとう」
「先輩、ありがとうございます」
しほりとは、アニメのファンでもあり、同じメロディのフアンとして、密かに交流があった。
「しほり先輩、少林寺部に入っているのですか?」
「うん、そうなの、楽しいよ」
しほりの華奢な体形には考えられない部に入っているんだなあと理子は思った。
「私も入れますか?」
「もちろん、大歓迎よ」
理子はただ、少林寺はかっこいい!という理由で、入部を決めてしまった。
「体の痛いところがあれば、先生があんまをしてくれるの」
理子の中で妄想が広がる。
女子校の部の先生だから、女の先生に違いない、きっと美人で笑顔が素敵で・・・・
 クラブ活動1日目、妄想だらけの思考でジャージ姿で参加した。
そんな時ーーー
「先生みえましたーーー」
その声で、理子の妄想が爆発した。
ーーああ~美人のかっこいい女の先生!!
何故か顔を赤らめ、先生の方へ振り向く。
ーえ!?
理子の目に映った先生は、ごつくて剛毛な胸毛が生えていて、薄いサングラスをかけて口ひげを生やし、スキンヘッドのいかにも怖そうな先生だった。
「ええ~~~~~!?」


















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